ルネサス懇、人的施策を語り合う。

− 会社から世の中への負の影響 −

【会社から世の中への負の影響】

C) おっ、まとめの時間になりましたか。それならば、付け足しさせてください。
  概論はその通りと思いますが、ルネサスでは様々な人的施策が実行段階に入っていますし、きっとそ
 の中で、辛い思いをする人が少なからず出てくると思うのです。企業の成長発展という大義名分のため
 なら、個人はどんな我慢でもすべきであり、我慢できない人はどうぞ早期退職を取れば良いでしょうみた
 いな雰囲気が出てこないかと心配です。そういう雰囲気もそうですが、労働者がいじめられて、本人や家
 族が不幸な思いをするのであれば、それもまた会社の「負の影響」だと思うのですよね。言い換えると害
 悪であると思うのです。

B) つまり、その害悪を出来るだけ減らすべきだと。ルネサスと言う会社が世の中に与える影響のプラス
 面が大きい方が良いし、マイナス面が小さい方が良いと。その差を出来るだけ大きくすべきではないか
 という事ですね。

C) そうなんですが、そういう相対的な考え方って、言葉にするとすごく単純で簡単なのに、なかなか実践
 できないのですよね。いつの間にか会社の成長だけが価値みたいな、一本の価値観だけで物事を判断
 してしまっている。そういうところから、思わぬバッシングにあう場合もあります。

B) どんなバッシングですか。

C) 私たちはNEC&関連労働者ネットワークの方で、いま雇用延長問題に取り組んでいます。ところが、
 雇用延長と言うと、どうも若い世代にはウケが悪いらしいのです。年寄りがいつまでも会社にしがみつい
 ているから、俺達の雇用機会が失われているのだと、本気でそう思われているみたいなんですよね。

B) 確かに、そう思っている若者はいると思います。でもちょっとずつ変わって来ていると思いますよ。だっ
 て今年は「超氷河期」と言われますよね。雇用延長はひと段落して、景気も持ち直したにも関わらず、も
 のすごく就職が厳しいです。さすがに雇用延長のせいではないと、みんな気付きつつあるのではないで
 しょうか。
  さっき産業の空洞化の話をしましたけど、新卒採用の現場も、空洞化の先行している領域だと思うので
 す。大企業などは未来を見据えてグローバルに活躍できそうな超優秀な人材しか採らなくなったでしょう。
 つまり、これからのアジアを中心にした海外展開に向けて、他のアジアの学生と競争させられているので
 すけど、それを雇用のミスマッチとか何とか言ってごまかしているのだと思います。競争自体がこれから
 激化こそすれ、緩和はしないと思いますから、今年以上の氷河期が訪れる可能性も大きいと思います。
 スーパー氷河期とか、ウルトラ氷河期とか、いえ、氷河期と言う呼び方自体が良くないですね。いずれ暖
 かくなるみたいですから。そうじゃなくて構造的な問題だと理解する必要があるのではないでしょうか。

C) 新卒採用が減っているのも空洞化だという訳ですね。その点については、私も反省しているのです。
 雇用延長への取り組みについては、これまで何度も会社側と団体交渉を繰り返して、情宣活動もたくさん
 やって来ました。だけど、争議行為が先行したわりに、根底にある理念を伝える事が疎かになっていた様
 に思うのです。
  雇用延長の話の出所のひとつは、年金財政の行き詰まりで、支給開始年齢が60歳から65歳に後ろ倒
 しになり、その間の所得保障をする必要が出てきたことです。ふたつ目は少子高齢化で労働力人口が減
 少するから、中高年を活用しなくてはいけないということでした。だけど、それだけではないのですよね。
 もっと深いところには、高齢者の働く権利とか、社会権の考え方があります。つまり働くことを通じて、社会
 の中で一定の役割を果たしながら関わっていける権利があるはずなのです。高齢者福祉の問題とも関係
 しますね。おそらく将来、身寄りの無い高齢者が増えて行きますし、そういう人達にとって必要なのは人間
 関係なんです。だから社会参加と人間関係を育むコミュニティーと言う観点から、働く場所である会社の意
 味を追求したいのです。もっと背景には日本人の寿命が伸びたこともありますし、そもそも本当に定年が
 必要なのかと言う議論もしたいです。
  世の中にはいろいろな労働問題がありますが、組織として雇用延長に取り組むのは、たまたま私達の仲
 間の鈴木さんが、山村硝子(旧NEC真空硝子)で雇用延長を求めているからなんです。当事者がいない
 と団体交渉は出来ないし、運動の足掛かりがありませんからね。だから、それ以外の無数の労働問題は、
 世の中にある無数の組織で取り組んでもらえることを期待し信用して、私達は雇用延長問題を通じて、世
 の中の労働運動の中で一定の役割を果たして行こうと考えた訳です。

A) 電機懇では障害者雇用問題に取り組んでいます。雇用延長問題と共通するのは、この運動が人間と
 は何か、人生とは何か、労働とは何かという人間存在における本源的な問題提起を基盤にした運動であ
 ると言う点でしょう。今後、こういう活動は増えて行くと思いますよ。

C) 話を変えて申し訳ないけど、メンタルヘルスについても言いたいです。今から30年くらい前は、うつ病と
 神経症(ノイローゼ)とを、明確に分けていました。うつ病は、精神分裂病(統合失調症)と並んで、内因性
 の精神病と呼ばれていました。内因性、つまり患者の遺伝的、肉体的な素養から生じる病であって、原因
 不明かつ、治癒はしないと考えられていたのです。それに対して神経症は、抑うつ状態になる点ではうつ
 病と似ていますが、親しい人が亡くなったとか、失恋したとか、他人にも了解可能な原因があって起きるも
 ので、いずれは治癒するものとされていました。
  ところが、いつの間にか、神経症がうつ病の中に入れられてしまった様なのですよね。もちろん医学的
 に理由があっての事だと思います。しかし私には、神経症をうつ病に含めたことが問題を大きくしている様
 に思えるのです。だって病気としてしまうと、本人の健康の問題になってしまうでしょう。だけど、神経症に
 なるには原因があるのであって、とりわけ会社の中では、いろんなプレッシャーなどの外因的なものが原
 因である可能性がありますよね。これを個人の健康の問題にしてしまったら、原因に迫れなくなるのでは
 ないでしょうか。この人は心が弱いから病気になったのだみたいな。

D) うつ病になる有力な原因にパワハラ問題があるでしょうね。パワハラも困った状況にあると思いますよ。
 セクハラは受けた本人がセクハラと思えば成立しますけど、パワハラはそうではなく、あくまで上司から職
 権を利用した嫌がらせをされた場合ですよね。言い換えると、職務上必要な指導はパワハラにはならない
 のです。私はここに本質的な問題があると考えています。
  上司と言ったって、所詮ただのおっさんやおばさんですよ。そのおっさんやおばさんの言う事に逆らえな
 いのは何故でしょうか。私達には大抵ノルマがあって、仕事の割り当てがありますよね。社内的なノルマ
 なら、達成できなくても次は頑張りますと言えば済む場合もあるかも知れないけど、それが顧客の要求だっ
 たり、クレームがらみだったりすれば、中途半端にはやめられませんよ。上司からの業務命令が、単にこう
 すべきでしょう的な言い方であっても、言われた本人は逃れようのないプレッシャーを感じる事があるので
 す。
  パワハラのパワーは、上司個人のパワーではなく、会社権力のパワーです。そして会社権力はまた、外
 部の顧客や株主などから圧力を受けていますね。だから職務責任に形を変えた暴力のフレームが存在し
 ていないのかどうか、そこを見張る必要があるでしょう。

B) そうですね。その職務責任によって、長時間残業に追い込まれて行くケースもあるでしょう。そんなに忙
 しければ、仕事の調整が出来るように上長と交渉しろと言う人もいますけど、実は上長も忙しかったりする
 事が結構多いのですよね。だから言いたくても言えない。そういう状況の中で、子育てや介護のために仕
 事に割ける時間の少ない人とか通勤時間の長い人とかは、特に追い込まれやすいですね。それで結局、
 共働きだった配偶者が退職したり、実家の親に頼るなど家族にしわよせしてしまったり。それに今だと、上
 長へ負荷を軽減してくれ等の直談判をすれば、早期退職のターゲットになるかも知れないとの不安と闘い
 ながらになるのではと思います。

C) 長時間労働の問題について言えば、残業自体が悪だという認識が弱いですね。労働基準法では、週
 の労働時間が最長で40時間と定められています。上限が40時間ということで、これより短い分には構わ
 ないのです。ところが40時間で打ち切ってしまっては、実務で支障が出るということで、36協定を結ぶ事
 により、例外として残業が許されているのです。つまり業務の実態と法の掲げる理想とのギャップを埋める
 ために、若干の残業は必要悪として認められているのです。
  だけど如何に36協定があっても、残業自体は悪であるし、出来るだけ減らさないといけない事に変わり
 ありません。長時間残業を黙認することは、時間的のりしろの少ない人の人生を破壊してしまうことでしょう。
 本人の意志に関わらず長時間労働を余儀なくされることが、暴力に屈した状態だとも言えますね。だから
 労働時間の上限に関わるルールは、私たちを際限の無い暴力から守ってくれる盾なのだと思います。

A) さて、雇用延長、メンタルヘルス、パワハラ、長時間残業などの重要なキーワードが次々に出てきました
 ね。これらの問題については、個別のテーマとして、今後少なくとも1回以上議論したいと思います。