ルネサス懇、人件費削減施策を語り合う。

− まとめ −

【 まとめ 】

A) それでは、本日のまとめに入ります。
  ルネサスエレクトロニクス社は、3月11日の大地震により、那珂工場が被災するなど、多大な影響
 を被りました。その被害額は、2011年3月期で495億円に達しています。更に今期の供給減や受注
 減による売上の伸び悩みなどによって、昨年7月に発表した100日プロジェクトで想定していた今年
 度の当期黒字を達成する見込みはなくなり、業績目標の下方修正を余儀なくされています。そして去
 る8月2日に、会社は外部に対し、下期の黒字化と、通年での損益▲400億円をコミットしました。
  会社から申し入れされた賃金一時金カットおよび時間外割増率の削減などは、先の春闘における
 留保事項を実行に移したという面があります。春闘の時点では、震災による業績への影響が確定で
 きなかったために、一時金4.0ヶ月の一旦の回答が為されていました。こうして震災の影響が明らか
 になった今、新たに設定した業績目標の達成をベースに、再設定したいものと捉えることもできます。
 しかし、会社の申し入れは、春季交渉でもめた一時金の減額に留まらず、賃金や時間外の割り増し
 にも及んでいて、組合員の想定の範囲を超えているのは問題と思います。
  会社の言う100億円の人件費削減の必要性は、今年度末の損益▲400億円必達と、自己資本の
 欠損の阻止から算出されていて、その意味では震災からの回復の為と言うよりは、業績と財務体質
 を数値的根拠にしていると言えます。したがって会社の申し入れを労働組合が飲むかどうかは、将来
 の業績を達成するために、現時点では不確定な数値を元に、未来のリスク回避の観点から賃金カット
 を受け入れる判断をするかどうかであるとも言えます。もしこの理屈を飲めば、今後も賃金カットの要
 請が繰り返される可能性が高まると共に、春闘におけるベースアップ交渉や一時金交渉へも、大いに
 足枷になっていくだろうと私は思います。なぜなら、仮に下期が円高などによって業績が下振れしたと
 して、震災を理由に100億円分のカットを今回は認めたが、春闘では認めないと言えるでしょうか。来
 年はどうでしょうか。最終損益黒字を目標にしている2012年度で、黒字が出なかったら、一時金はど
 うなると予想されますか。利益率2桁を目指している2013年度はどうでしょうか。
  今日の皆さんのお話からは、賃金カットの交渉は春闘にまとめるべきだとのご意見はありましたが、
 認めるべきか否かについて、明確な結論は出ませんでした。それは、本来なら到底認められない施
 策でありながら、一方で現在の会社の経営状況が、非常に良くないとの認識があるからでしょう。経
 営上の本質的な問題は、何よりも売上が伸びていない事です。震災で会社が大きな痛手を被った事
 は事実にしても、仮に震災が無くてさえ、本当に100日プロジェクトの当初の計画通り今年の通期で
 の黒字が達成できていたのか、怪しむ声も聞かれますね。そしてこの本質的な問題は、100億円の
 カットをしようがしまいが、そんな事で解決されるものではないでしょう。言わば、輸血用の血液をどれ
 だけ用意しようと、病気が治らないようなものだと思います。その場しのぎでない、本質的な改善への
 道筋が、具体的な行動の指針を持って示され、現場へ落とし込まれなくてはなりません。
  私たち労働者は、経営の論理だけから賃金カットの適否を判断しません。賃金は、私たちの労働に
 対する正当な対価であって、そもそも私たちと会社との契約によって支払いが約束されているもので
 す。労働の質を落とすことなく対価の減額をされるなど、容認できなくて当然です。従業員の中には、
 収入の多寡だけでなく、扶養家族の有無や、その他の家族の状況によって、借金をしたり、貯金を取
 り崩して生活をつないでいる人が大勢いると想像できます。更に言えば、非正規雇用者やアウトソー
 スなど、人件費削減以前の費用削減策の一環として契約が打ち切られ、それが賃金カットよりもはる
 かにダメージの大きい実質的な解雇に至っているケースも、見えないところで発生している可能性は
 多々あると思われます。ですから私たちは、同じ会社で働く仲間の受ける苦しみにも思いを馳せたい
 ものです。お互いが相手の立場を思いやり尊重することが、働きやすい職場づくりの土台になっていく
 のだと思います。
  ルネサスの労働組合が、最終的に賃金カットを受けるかどうかは、組合員同士が、よく話しあって決
 めるべきことでしょう。そのためにも、組合員と組合員がお互いに意見を交換できるような、丁寧な職
 場討議が行われることを望みます。
  本日も、お忙しいなか、大変ありがとうございました。