ルネサス懇、人件費削減施策を語り合う。

− 人件費カットの根拠は何か −

【人件費カットの根拠は何か】

A) 人件費100億円の削減と言う施策の根拠は何だと理解されていますか。これは明確になっている
 様で、実はあいまいではないかと私には思えます。皆さんは如何でしょうか。

D) まず、100億円という数字の根拠があいまいですよね。労働組合の資料を読むと、人件費カットの
 前に、他のあらゆる費用削減施策をやることが前提だとされていますが、じゃあ何で、ぴったりポッキリ
 100億円なんでしょうか。固定費削減目標550億円のうち、この施策で○○億円、この施策では△△
 億円って積み上げて、最後の残りが人件費だとしたら、もう少し半端な数値になって然るべきだと思い
 ませんか。

C) それは損益▲400億円というのが、7ヶ月後の2012年3月末における着地目標だからでしょう。
 他の削減施策は、3月に行った早期退職など実施済みのものもあれば、外注費やR&D費や投資の
 削減など、これからの実行次第で、実際にいくら削ることが出来るのか今の段階では正確には分から
 ないものもあります。だから人件費のカットも、概算で100億円としか言えないのだと思います。

B) じゃあ、その他の費用削減が予想以上にうまく行ったら、ひょっとしたら人件費カットは不要になる
 かも知れませんね。
  だけど、それは下期の売上5000億円が達成されることも前提にしている訳でしょう。会社の資料で
 想定されている為替レートは1ドル82円です。実態として円はずっと70円台だし、政府が介入しても
 80円まで回復しないで、すぐに円高に戻るなど、円高リスクが相当にあるんじゃないでしょうか。むしろ
 100億円では足りなくなる可能性の方が、ずっと高いと思われます。

D) 100億円という数字の根拠が、いよいよ怪しくなってきましたね。もし100億円以上削減が必要な
 事態になったら、きっと次の春闘では、更なる賃下げや一時金カットが話合われるのでしょう。当期損
 益▲400億円必達が前提に有る限り、絶対にそうならざるを得ません。だったら、春闘で一括して話
 合えばいいじゃないかとも思いますね。

A) 春闘だったら、賃金カットを話題に出しても良いのでしょうか。私は甘いと思います。そもそも従業員
 の賃金に手をつけるのは、本来ならよほどの事でしょう。私には、賃金を業績のストレッチに使いたい
 という欲求に思えます。固定費の変動費化の一環としての、賃金の変動費化ではないかと思うのです。
 そうした大きな変化の流れを見ないといけないのではないでしょうか。

D) 短期決算における目標達成のため、賃金や一時金で帳尻合わせをすると言うパターンは、これま
 でも何度かありました。今回が従来と異なるのは、春闘ではないことです。春闘の場合、会社回答が
 3月20日前後ですから、年度末の業績着地点は、かなりはっきり見えている筈です。しかし今回は、
 年度末まで7ヶ月ありますから、着地点があいまいですね。おおよそ100億円くらい足りなくなりそうだ
 から、人件費カットで確保したいと言っているように感じます。つまり予防的な処置としての費用削減を
 したくて、その中に賃金カットも含まれているのだと。
  そうしたあいまいな業績見込みをベースにした賃金カットを認めるのは、春闘で認めるよりも、一歩後
 退ではないかと思ったのです。

C) ただし、こうした交渉を会社が持ちかけるのは、震災と言う想定外の出来事があって、春闘のときに、
 労使双方で確認したからですよね。今回は事情が特殊だと言えますから、必ずしも後退とは言えない
 のではないでしょうか。むしろ、賃金カットが春闘における恒例行事となってしまう危険性を心配した方
 が良いと私には思えます。

B) 3月11日に巨大地震があって、これから先どうなるのだろうかと思いました。翌土曜日と日曜日に
 は、皆さんとメールで意見を交換して、その内容をビラにまとめて、WEB限定版として発行しました。あ
 のときは、会社の受ける損失が数百億円のレベルなのか、1千億とか2千億とかになるのかも分から
 なくて、会社が存続していけるのかどうかも不安でした。だから、春闘で留保条件付きながら一時金
 4.0ヶ月と言う数字が出て、正直かなりほっとしましたね。今年の4.0ヶ月には、例年とは違う評価が
 必要なのではないかと思いました。

D) そうです。その時の留保条件が、現実化した訳ですね。いくらになるか分からなかった震災の被害
 額は、その後495億円と確定しました。これ以外にも、工場の不稼働損や機会損失に伴う売上減の影
 響が、今期も来期もあるはずです。外部にコミットした下期黒字の達成のために、固定費削減が必要
 だと。

C) 下期黒字達成は、率直に言って困難な目標に思えます。賃金カットまでしなくては達成できないも
 のを、なぜ今目標に掲げるのかって思いませんか。

B) 100日プロジェクトの当初の計画によれば、今年度は通期で黒字が目標でした。上期は震災で計
 上した特別損失と、出荷減の影響などがあるから、黒字達成は無理としても、下期は言い訳が出来な
 いと言う事だと思います。だから下期は、当初の計画どおり黒字でなければならないのだと。

C) もしかして、赤尾社長が大株主様の前で、無理やり約束させられたのでしょうかね。下期の半導体
 売上予算5000億円という水準は、リーマンショックの影響がまだ冷めなかった2009年度の下期実
 績と、だいたい同じですよ。当時はSoCが主力で、A&Pが落ちていたから、分野別のミックスは変わ
 りましたけどね。だけど、現在主力のMCUの予算にしても、2010年度下期並みで横這いですから、
 やっぱり100日プロ当初の目標にキャッチアップ出来ていないと思うのですよね。震災の影響が下期
 業績にも及ぶのなら、下期黒字と言う目標は無茶ですよね。無茶な目標を達成するための賃金カット
 では困ります。

B) それからもう一点、自己資本の減少が痛手だと、会社や組合から説明されています。自己資本が
 ある水準を下回ると、格付け会社の評価が下がり、金融機関からお金が借りられなくなると言われて
 ます。自己資本を確保するために、支出を抑えなくてはならないとの理屈です。

C) ホンマかいなという気もしますけどね。ルネサスは、今現在でも短期借入金が多いでしょう。ワリの
 良い借金なんて、どのみち出来ないのでは。そうかと言って、金融機関から全く借りられなくなる事態
 も、想像し難いですよ。そもそも銀行は、利ざやを稼ぐためだけに存在しているのではなくて、産業を育
 成するのが役目でしょう。今回の震災で、ルネサスの半導体が、産業界にとって如何に貴重か解った
 はずではないですか。私には、金融機関がルネサスから貸し剥がしをするとは考えられませんね。第
 一そんなことをしたら、超優良企業の自動車会社様まで、業績が一気に落ち込むかも知れませんよ。
 そういう判断を金融機関がするでしょうか。まあ、格付けが下がるのは良くないけど、格下げ=借り入
 れ不可=運転資金枯渇=倒産と言うのは、ちょっと短絡的に考えすぎではないでしょうか。

D) それで結局、震災があったから賃金カットなのか、業績目標達成のための賃金カットなのか、よくわ
 かりませんね。それは多分、震災が無かったらどうなっていたのか、シミュレーションが無いからだと思
 います。そもそも、2011年3月期の営業黒字だって、震災のために変動費の流出が減って達成できた
 と聞いています。それが無かったら、果たして70億円の営業黒字目標は達成できていたのでしょうか。

B) そうですね。震災の影響が大きかったのは分かるけど、じゃあ本業が上手く行っていなくて、達成で
 きていない面は無いのかと言う事です。会社の資料を見ると、1Qの売上が、4Qと比べて600億円近
 く落ち込んでいるけれど、震災の影響はその内の300億円となっています。残りの300億円近くは、震
 災以外が原因ということですね。分野別で見ると、SoCの落ち込みが激しいですね。昨年同期比で見
 ると、46%も落ちています。

C) 震災以外の影響もありそうですよね。震災で大きなダメージを受けたのは確かにしても、”震災の影
 響がいくら”ではなく、震災の影響も震災以外の影響も一緒にして、”下期黒字のためにはいくら”の指
 標にすり替わっているところが問題だと思うのです。このすり替えを認めてしまえば、実際に3月期の時
 点で最終損益▲400億円の目処が立たなければ、更に来年度も賃金一時金カットを続けることになる
 でしょう。それはつまり、震災と言う想定外の事態があったから認めたはずの賃金カットが、結局は業
 績のストレッチのための賃金カットにすり替えられてしまう事でもあると思います。

D) すり替えではないと思います。会社は、震災があったから賃金カットとは、ひとことも言っていないと
 思いますよ。位置づけとしては、あくまでも春闘の「延長戦」ですよ。会社の論理は、あくまでも業績をベ
 ースにしているし、当然、次の春闘でも賃金一時金カットの提案はありえます。そういう意味では、ドラ
 イに来ているのだから、我々も「震災があったのだから仕方がないね」みたいな、ウェットな感覚で受け
 てはいけないでしょう。我々もまた、業績や財務体質を見ながら、受けるべきかどうかを考えないといけ
 ないのではないでしょうか。
  だからさっきも言ったように、春闘で一括して議論すべきだと思うのです。ストライキも何も構えないと
 ころで、なし崩しにされては困ります。

B) 話は解りました。下期黒字化の話は、春闘で交渉する来年度の一時金によって吸収可能な問題で
 すね。一方、自己資本が一時的に欠損する話は、そのインパクトの度合い次第ではないかと思います。

D) もし仮に、今回受けるのであれば、自己資本の問題と、上期の業績の未達分をどうするかと言う観
 点から、議論すべきだと思います。春闘の延長戦という意味でも、純粋に震災の影響を測るという意味
 でも、その方が妥当ではないでしょうか。