ルネサス懇、大量退職と今後のルネサスを語り合う。

− 4Qのルネサス(まとめに代えて) −

A) 今日も長時間にわたり熱い議論をありがとうございました。では最後に、今後のルネサスがどうなる
 のかについて、本日の討論のまとめに代えて簡単に話し合いたいと思います。
  銀行からの資金の借り換えや、短期負債の長期化による財務体質強化に加え、産業革新機構から
 の出資も正式に決まったルネサスが、直近で倒産する危険性はほぼ回避されました。しかし1月には
 新たなリストラ施策が発表されるとも言われており、不安を残したまま年の瀬を迎えようとしています。
 これから4Qは、どのような展開が考えられるでしょうか。

B) 一番不安なのが、1月に発表される「次の一手」です。「人員構成の最適化等の更なる合理化を推
 進する」と会社は言っています。過去の経験に習えば、会社のこの微妙な言い回しが、実は後になって
 「ああそういう意味だったのか」と思わされる表現だったりします。したがって、この言葉から想像できる
 事柄が水面下で検討されていると推理するのが妥当でしょう。では、現時点のルネサスにおいて最適
 でない人員構成とは何でしょうか。一番に考えられるのは年齢構成だと私は思います。前々回の早期
 退職のときに、ルネサスの人口ピラミッドの絵を見せられて、40代の半ばがだぶついていると部長が
 話していましたから。

D) では、40代半ばをターゲットに、更に早期退職をやる可能性があると言う事でしょうか。確かに資本
 注入されて、早期退職の実行は可能になりました。産業革新機構も5000名を超える追加の人員削減
 を考えているようです。しかし、2ヶ月前の早期退職で、もう職場はぼろぼろに疲弊していると私は感じ
 ています。ここではむしろ産業革新機構の描くルネサス再生の青写真に入っていない大半のSoC系に
 ついて、更なるリソースシフトを行う等の、もっと大胆な内部の人事異動が意図されているのではない
 かと想像します。またはSoCの統合会社について、いよいよ発表があるのかも知れません。いずれに
 しろ、産業革新機構に舵は握られてしまいましたので、彼らが何を考えているのかと言う事ですが。

B) 早期退職はもう無いと私も思いたいです。他の可能性としては、職制の見直しでしょうか。以前から
 気になっていたのですけど、特に旧NECエレクトロニクス系は管理職の割合が高いですよね。下手を
 すると、あと数年で管理職と組合員の数が逆転してしまいそうです。と言う事は、部下無し管理職を役
 職名は変えずに組合員に戻して、賃金は下げるといった可能性も考えられます。

D) 仮にそうなったら、S1(係長、主任、技師クラス)の賃金も影響を受けずにはおられないでしょうね。
 管理職と逆転してしまう訳には行きませんから。
  ところで4Qと言えば、もうひとつ春闘もありますが、こちらはどうなるでしょうかね。

B) ポイントとなるのが今年度の決算ですね。8月の時点で売上高の8680億に対し経常利益100億
 円をコミットし、その後12月には売上高の着地点を8200億円へと480億円も下方修正したにも関わ
 らず、経常利益の目標100億円は据え置きました。これが果たして達成可能かどうかです。

C) 今回の100億円の経常黒字は、業績見込みでは無く、外部にコミットした必達ラインですからね。
 例え売上見込みが8000億円を切っても、この時点で下方修正などしやしません。確かに早期退職で
 は予想を上回る人件費削減効果がありました。それから業績の想定円レート81円に対し、(12月24
 日)現在85円台まで下がっていて、これだけで数十億円の改善効果はあるはずです。しかし、さすが
 に480億円もの売上減をカバーするには足りないはずですよ。加えて、ルネサスの顧客である日本の
 大手製造業も中国向けの輸出が減って打撃を受けていますでしょう。安倍政権になって大丈夫ですか
 ね。尖閣諸島問題で中国を敵視する見方が強まっているようですけど、ルネサスにとって中国と関わ
 らずにやっていく選択肢なんて無いと思いますよ。くだらん事で関係を悪化させてもらっては困ります
 ね。さもないと売上8200億円も達成が怪しくなってくるのではないですか。

B) 会社がリストラ策を発表する1月には、着地点がかなりはっきり見えてきているはずですよね。私は
 10月の早期退職の影響が心配ですよ。さっきも議論した通りで、会社の仕事が回っていないでしょう。
 トータルのアウトプットが落ちている事は間違いないのです。つまり、この会社における新たな「構造的
 問題」の深化ですよ。
  その構造的問題、つまり大量退職のために、あちこちに仕事のボトルネックが出来て滞っている問題
 の影響が、何で顕在化してこないのか本当に不思議なんです。顕在化しないだけに、仮に売上高が8
 200億円にも満たなかったとしても、その原因が早期退職に起因する構造的問題にあるとは分析され
 ないと思うのですよね。そして分析されないから放っておかれるし、さらなるリストラの危険性も軽く見
 積もられる事になるのではないかと、次々に恐ろしい展開が頭に浮かぶのです。

D) 早期退職のマイナスの影響を、どのくらい会社がつかんでいるのか私も疑問ですね。当たり前だけ
 ど、11月以降、国内工場の動きが劇的に悪くなりましたね。人数が一気に減ったのだから当然です。
 最近、国内工場で製造上の重篤なトラブルが起きたという情報を聞かないのです。起きていないから
 聞かないのか、もう現場が状況を把握して整理する能力も失っているのか、それさえも首都圏の事業
 所からは見えません。それこそ、全工場が今までと同じ品質で製造出来ているのか、全社で号令をか
 けて点検しなくてはいけないと思うのですが、そういう動きもあるのか無いのか。

B) 労働組合は、その点も気にしていて、11月7日の経営審議会の中で、「品質の低下や事故が起き
 やすくなる(11月19日発行の機関誌CoreNo.6による)」おそれを指摘しているのですが、これに対
 する会社の回答が見られないのですよね。

D) 普通、常識で考えたら、工場の従業員の半分が一度に退職すると言うのは尋常ならざる事態で、
 ものすごく大きな変化点だと思うのですけどね。我々の顧客も「工場監査させろ」と大挙して乗り込ん
 できてはいないみたいだし。ひょっとして私の感覚がずれているのかと思ってしまいます。

A) しかし最近の工場は自動化が進んでいて、逆にそれが製造派遣を受容れてもやっていける土壌
 になっていると認識しています。10月22日に鶴岡工場前で宣伝をした時には、製造アウトソース会
 社が約30人の請負労働者を駐車場に整列させていました。話を聞くと、その日が請負の初日だった
 と言っていましたよ。

D) オペレーターの仕事がこの数十年間で格段に単純化しているのは事実です。それはそれで、単純
 作業ならではの辛さはあると聞きます。でもそれだけではないのです。
  例えば、半導体の品質を守る検査工程は、テスターを使った電気的試験が中心ですけど、この他に
 も、各工程にVI(ヴィジュアルインスペクション=外観検査)と呼ばれる官能検査の工程が幾重にもあ
 るのです。これは実体顕微鏡や金属顕微鏡を使って、「人の目」で不良を見つけ出す工程です。一応、
 良品と不良品を区別する限度見本と呼ばれる写真もありますが、実際に不良を見つけられるかどうか
 は、作業者の経験によって磨かれた実力と、根気良く不良を見つけようとする気力によるところが非常
 に大きいのです。工場には自動外観検査装置も多数入っていますが、未だ人の目を代替するに至っ
 ていません。

B) いわゆる「人センサー」ですね。工場労働者が経験の浅い非正規労働者で代替されれば、人セン
 サーの感知能力が下がる恐れがありますね。

D) ええ、そうなると、不良を見過ごすのでVIの歩留は上がります。歩留が上がって品質が良くなった
 と思いきや、実は悪化していて、しかもそれに気付かないという事態にもなり得ます。

B) でもFT(ファイナルテスト)の電気的試験で本当に悪いものは落ちますから、直ちに不良品が流出
 する訳でもないですよね。

D) そりゃあ、ほとんどはFTで落ちるでしょう。ただしFTの弱点は、それだけでは長期信頼性の保証が
 出来ないことですよ。半導体の検査工程とは、正確に言うと良品を通すための工程ではなくて、明らか
 な不良と、不良である可能性の高いものを除去して、残ったものを良品である可能性が相当に高いも
 のと見なして通す工程です。ここで良品であるとは、今現在正常に動くというだけでなく、顧客のセット
 に組まれて市場に出て、ユーザーに使用され、そのセットが廃棄されて役割を終えるまで正常に動作
 し続けるものと言うことです。製品によってはサブPPM(1/100万以下)オーダーの不良率で品質を
 保証しなくてはならないのですから、工場労働者の感度やスキルが落ちることだって十分に不安要素
 だと私は思うのですが。

C) それでクレームやデリバリートラブルは起きているのでしょうか。

D) デリバリートラブルの話は聞きますが、クレームが増えたという話はまだ聞いていません。仮に11
 月以降に製造したものに不具合があれば、特約店に平均2ヶ月滞留するとして、クレームになるのは
 1月以降ですから、まだ何とも言えませんね。

B) QCDの3要素で言えば、社長通信にもあったように品質はまず絶対に守らないといけないと思うの
 ですよね。品質はルネサスの生命線ですから。それからデリバリーもやっぱり守らないと顧客が離れ
 て行きますよね。優先順位から言えば、一番犠牲にできるのはコストと言う事になります。もし品質と
 デリバリーを優先するのなら、受注生産を一部見直して、ある程度の在庫を持つ方向に切り替えた方
 が良いのではないでしょうか。余分に造ったものは特約店に持たせるとして。形式的に出荷が増えれ
 ば、年度末で決算を押し上げる効果もありますけど。それとも特約店が怒りますかね。

D) 数が出ない製品は、受注生産だと流れているロットが1ロットしか無いことも多いです。これが製造
 トラブルを起こしてしまうと、それから代替ロットを投入しても出てくるのは数週間から数ヶ月先です。だ
 から余剰在庫を持っていないと直ちにデリバリートラブルの危機になります。それこそチップワンストッ
 プを上手く使って対処できないものですかね。とにかく今までと同じやり方でやろうとしてもダメですよ。
 何かを諦めないと。

B) デリバリートラブルは、全社規模で目立っているのでしょうか。受注が落ちている今、出せるものを
 出すのは必須と言われています。出せるはずのものが出せなくなっていれば、問題だと思います。と
 にかく、会社には売上高を押し下げる要因として、工場内のトラブルや、デリバリー遅延がどの程度影
 響しているのかも把握しておいて貰いたいですね。

D) 一見、仕方の無い理由に思える事でも、突き詰めると早期退職の影響が出ているケースもあると
 思うのです。例えば、顧客の売上が予想外に好調で大増産となった製品の生産が追いつかなくて、
 調べてみたらライン展開とか装置展開が上手く行っていなくて、さらに調べてみたら装置をよく知る担
 当者が退職していたとか。

A) 会社の中はかなり大変な事になっている様ですね。

D) 何度も言いますが、その大変さが顕在化していないのです。普段仕事をしている感覚を例えるなら、
 見ている景色は同じなのに、何だかぬかるみに足を取られた様に、なかなか前に進めない感じなの
 です。

B) それで結局、1月になって業績未達が現実味を帯びてきたらどうなるのでしょうか。残る手段として
 は、また例によって特約店に在庫を突っ込んで、最後の手段は春闘で一時金カットじゃないですか。
 来年6月の一時金は、仮に2.0ヶ月だとしても半分の1.0ヶ月は今月支給済みですから、完全にゼ
 ロになってしまう可能性もあります。

D) ひどすぎますよ。それって決算の辻褄合わせに一時金の原資が丸ごと使われるのを容認するとい
 う事ではないですか。これまで、確かに営業赤字で一時金が4.0ヶ月に張り付く事はあったし、最終
 損益で大赤字の時には4.0ヶ月を割り込む事もありました。だけど、経常黒字が達成できないことを
 理由にゼロになった事などありませんでしたよ。もしそうなったら、一体これまでの数十年にわたる労
 使交渉で築き上げてきた実績は何だったのか、改めて問い直さないといけないじゃないですか。

B) 理屈はその通りだと思いますが、何か雰囲気的に砕けてしまっていませんか。もともと春闘自体が
 形骸化していたとは言え、今年ほど春闘で勝ち取るぞという意欲を感じない年は無いような気がしま
 せんか。早期退職の面接のときに、部長からは「会社に残っても人員は減るし、一人一人の負担は
 増す。仕事の変更や転勤もあるかも知れないし、それでも上手く行かずに会社は結局倒産するかも
 知れない。その時には退職金も満足に出ないかも知れないが、それでも残って働くか。」と聞かれま
 した。私は「はい、残って働きます。」と答えて面接を終了しました。今会社に残っている人の多くは、
 だいたいそんな感じだと思います。会社が存続するのなら、まだマシだという感覚を、相当強く持って
 しまっているのではないかと思うのです。私もそういう感覚が理解できない訳ではないのです。だっ
 て、健康で定職を持っている事以外、財産を持っていませんもの。職を失ったら、残るのは自分達の
 老後と子供の養育費への不安、それにまだ半分以上が未返済の住宅ローンの借金です。

A) 労働者の意識としては、それもあるでしょう。だけど、産業革新機構は7〜8年スパンでルネサス
 を再生すると言っています。ならばなぜ今年度の経常黒字にそこまで格別の拘りが必要なのかと、
 誰かが突っ張らないといけないと思いませんか。

D) それにしても、難しいのは突っ張り方です。まず一時金1.0ヶ月は、電機連合の調査からも生活
 防衛ラインぎりぎりの水準ですから、ここはもう死守だと思うのですよね。労働組合の要求として、
 1.0ヶ月(すでに支給された分を含め2.0ヶ月)を下回ることはあり得ないと思います。ですが、組合
 員の意識は割れると思いますよ。

B) 生活実感から、一時金1.0ヶ月でも足りないと言う人もかなり居ると思います。一方で、会社存
 続のためなら一時金ゼロでも仕方が無いではないかとの意見も多く出るのではないでしょうか。「臨
 機の対応」で実施している賃下げだって、これを延長してでも雇用は守るべきとの意見が出ると思い
 ます。

A) いずれにしても、目標の定めにくい、難しい春闘になることは確かです。こういうときは、既存の枠
 に捕らわれない新しい発想が必要だと私は思います。新しい運動の方向性を見いださないと、それこ
 そ「今年の春闘はありません」なんて事になりかねません。この件は若いBさんやDさんからのアイディ
 アに期待します。

D) そう期待されても。このところの春闘は、企業の支払い能力によって、またはこれが企業の支払い
 能力一杯だと労組執行部が説明するところで、一時金水準が決まっていましたね。その支払い能力
 は、会社が春闘よりも前に外部にコミットした年度末の業績着地点と大いに関係がありました。春闘
 が始まる前には、そのコミットした着地点がどの程度達成可能か見えてきていたため、春闘の妥結
 点もある程度見えていました。これを我々は「はじめにフタをされている様だ」と言って居ました。この
 外部にコミットする業績目標の水準を上げられるほど、「フタ」は私たちに重くのしかかってきます。
  労働組合がストライキ権を持っているのは、会社の経営を損なうような圧力をかけてでも労働者へ
 の配分を勝ち取ることを可能にするためのはずですが、今は金融機関から「業績を上げないと会社を
 潰すぞ」と脅され、労働者が会社の経営を守ろうとして汲々とする構図になってしまっています。会社
 という存在が、下手をすると資本よりも労働者にとって潰れたら困る存在になってしまっているからで
 す。この逆転現象を何とかしないといけませんね。

B) つまり、会社を離れてもまともに暮らしていけるようにしないと、結局は会社の言いなりになってリ
 ストラを全て容認して行かざるを得なくなると言うことですね。
  それはそれとして、現在のルネサスの抱える問題も、解決していかないといけないでしょう。私は2
 本立てで行くべきだと思うのです。ひとつはルネサスを復活再生させて、出来るだけ多くの従業員が
 幸福になる道、もうひとつは仮にルネサスが再生に失敗して滅亡しても、従業員がそれほど不幸には
 ならずにすむ道です。
  前者の道に関連して思い出して欲しいのですが、先の5月連休明けに、ルネサスの業績の回復が
 遅れている原因として「構造的問題」があると言う話が社長を通じて通知されました。ところが、その
 構造的問題が何であるかについては、十分に掘り下げた分析がなされたとは言いがたいのではな
 いでしょうか。重要な顧客であった日本のメーカーが軒並みシェアを落としたあおりを食ったのは分か
 りますが、その市場の変化に気づいていたのかどうか、気づかなかったのならなぜなのか、または気
 づいていたのに対処できなかったならなぜなのか、そう言った分析を徹底的にやって貰いたいので
 すよね。結局何が悪かったのか、あいまいにされたまま、追加リストラや春闘に入られては困るなと
 思います。



 (注 : 本討論は昨年12月24日時点の情報に基づくもので、1月17日の会社発表のリストラ内容
  は反映されていません。)