ルネサス懇、大量退職と今後のルネサスを語り合う。

− 早期退職の状況 −

                                 参加者 : A委員(ルネサステクノロジ出身:座長)
                                        B委員(ルネサステクノロジ出身)
                                        C委員(NECエレクトロニクス出身)
                                        D委員(NECエレクトロニクス出身)


A) 12月に入って、真冬の寒さの日が続いています。風邪が流行っているようですが、皆さんは健康に過
 ごされていますでしょうか。インフルエンザの予防接種は、今の内に受けておくことをお勧めいたします。
  さて、ようやく12月10日に産業革新機構の出資提案の受け入れが正式発表されました。そこで本日は、
 早期退職など大リストラの影響でルネサスがどうなっているのか現状に対する認識と、それを踏まえた上
 での今後の予想される展開について話し合いたいと思います。よろしくお願いいたします。
 (注: 本討論は12月24日時点の情報に基づいています。)


【早期退職の状況】

A) 先の早期退職では、会社の募集した5千数百名に対し、想定を大幅に上回る7446名が応募しました。
 応募した本人達にとっても、また残った従業員にとっても、今は大変な試練の時となっているものと察しま
 す。ではまず、早期退職についておさらいするところから始めましょう。

B) 今回もターゲットにされたのは中高年が中心でした。50歳を境目に退職勧奨があったようです。個人
 面談は、対象者をあらかじめ4段階に分けて実施されていたと聞いています。Aは退職させない人、Bは
 本人の選択に任せる人、Cは退職させたい人です。この3段階に加えて、Aより上位の「絶対に退職させ
 ない人」もいたみたいです。Cは50代に多くて、55歳以上は基本的にもう辞めてくださいみたいな感じ
 だったと面談を受けた人から聞きました。退職金の割り増しも36ヶ月分出ましたからね。ボーナスは少
 ないし、会社がいつまで持つかも分からないし、辞めてアルバイトしても年収にあまり差は無いから、も
 ういいやと言う感じで辞めた人も居たと思います。

D) 退職者数の占める割合を部門別で見ると、一番多かったのが生産本部で、次いでスタッフ部門と信
 頼性品質保証部門、それから営業部門と続いていますよね。開発部門は、それらに比べて割合は少な
 かったです。製品の多くが縮小対象となっているSoC事本でさえ、人員減の割合は15%で、全社平均
 の19%をかなり下回っています。だから傾向としては、開発部門を守ろうというバイアスが働いたのか
 なと思います。

B) そうですね。それから今回、会社に見切りを付けた人が大勢辞めたように言われますけど、MC事本
 について言えば、やっぱり50代の退職者が多くて、それより若い人は意外と辞めなかったなと言う印象
 です。ただしこれは、私の周囲がたまたまそうなのかも知れません。

C) すると想定を上回る退職者は、どこから出たのでしょうか。

A) 5千数百名という人数は銀行から突きつけられた必須条件でした。その人数を達成するために、グル
 ープ内の会社ごとに目標人数が決まっていましたね。そうであれば、応募人数が5千数百名を下回ってし
 まうリスクを回避するために、はじめから会社ごとの目標人数の合計が5千数百名を上回るように設定さ
 れていたとも考えられます。

C) それにしても、目標人数を合計したら7千5百名という事はないでしょう。やっぱりどこかで想定を上回
 る退職者が出たと思いますよ。

A) その点、まず間違いないのが工場でしょう。山口工場では全従業員の6割が早期退職を選んだと言い
 ますが、退職者が多すぎて当面の工場の運営に支障が出るというので、期間工を募集しましたね。それ
 から福井工場でも半分が辞めたと聞きます。ラインが閉鎖予定であるとか、工場そのものが閉鎖対象に
 なっているところでは、残っても未来が見えないから辞めざるを得ないと判断した方も大勢いらしたのでは
 ないでしょうか。

C) では、ルネサスエレクトロニクス本体はどうだったのでしょうか。本体からは約2千8百名が退職しまし
 た。これは会社が想定した人数と比べてどうだったのでしょうか。日本ビルからも、かなり多く辞めました
 が。

B) 日本ビルの営業やスタッフとか生産本部などから、想定人数以上の方が辞めたのではないかと言う
 ことでしょうか。どちらかと言えばつぶしが利かない仕事だと思うので、ちょっと意外ですね。

A) 確かに拠点別で見ると、日本ビルの早期退職者は400名を超えていて、手元の概算では従業員の
 19%に達しています。関東地方の拠点で多かったのは高崎と甲府で、それぞれ約1/4が退職されて
 います。工場以外ですと、旧NECエレクトロニクスの開発拠点である玉川と相模原が19%で、旧日立の
 開発拠点である武蔵の16%や、旧三菱電機の北伊丹の15%と比べて高い割合となっています。

C) 旧NECエレクトロニクス出身者が、少なく見積もっても4千人以上辞めています。正確には判りません
 が、旧NECエレクトロニクス出身者は22〜23%くらいが早期退職を選んだのに対し、旧ルネサステクノ
 ロジ出身者は14%前後ではないかと推定しています。ホワイトカラー、ブルーカラーを問わず、NECエレ
 クトロニクス出身者により厳しい早期退職だったと、数字からは読み取れます。単に自主的な選択の結
 果のみでそうなったとは、私には思えません。



                     <拠点別早期退職者数>
          (ルネサス懇の集計による概数のため、実数とは異なる可能性があります。)
   



A) 外部の報道では、優秀な技術者がルネサスに見切りを付けたのだろうとする記事も多く目にしました
 が、どうやら実態は少し異なるようですね。

D) そういう面も無くはないと思います。旧NECエレクトロニクス出身者は、統合により旧日立色が強く出
 ていると感じている人が多いみたいです。そのために、旧NECエレクトロニクス出身の技術者の方が、
 会社の現状に幻滅する傾向が強かったとも考えられます。

B) しかし私の認識している範囲では、むしろ前回の早期退職の方が、見切りを付けた優秀な技術者の
 割合は多かった印象です。

A) だとすると、旧NECエレクトロニクスの職場の方が、厳しい退職勧奨が行われた可能性があると言う
 事でしょうか。

C) 玉川ではA&Pの管理職の方からルネサス懇に対し、退職勧奨に関する相談がありました。確かに、
 玉川相模原の職級別退職者割合を武蔵および北伊丹と比較すると、玉川相模原では課長級以上の割
 合が高いですね。したがって旧NECエレクトロニクスの管理職クラスに対して、特に厳しい退職勧奨が
 あったとの推定も成り立ちます。

B) ですけど、確か旧NECエレクトロニクスは、もともと管理職の割合が高かったですよね。旧ルネサス
 テクノロジであればRS1(現在のS1)に相当する人達が、NECエレクトロニクスでは課長待遇になって
 いるケースがありましたから。したがって単純な比較は出来ないのではないでしょうか。そう考えると、
 玉川相模原と武蔵とで大差ないように見えますよ。



                 <主要開発3拠点の職級別退職者割合>
          (ルネサス懇の集計による概数のため、実数とは異なる可能性があります。)
 



D) 北伊丹の移籍18%が目立ちますね。今回、グループ外への移籍も全体で100名以上ありましたが、
 大半が三菱系への移籍で、一部が日立系です。NEC系への移籍はゼロでした。北伊丹からは30名以
 上が三菱電機に移籍されましたね。

B) では、親会社の状況が出身母体毎のリストラ状況に反映された面もあるのでしょうか。旧NECエレク
 トロニクスの退職者が多かったのも、NECからのサポートが受けられなかったからですかね。

C) それはあまり関係ないと思いますけど。

A) 先ほど退職勧奨の話がありましたが、今回の早期退職では、厳しい退職勧奨の実態が表面化する
 ケースが殆ど無かったように思います。これはかなり意外でした。

C) そこがNECの早期退職と違う点です。ルネサスとほぼ同時期にあったNECの早期退職では、もの
 すごい退職勧奨の嵐が吹き荒れたと聞いています。中には10回以上も面接を受け、その間に「今の職
 場で今のまま仕事を続けてもらうのは難しい」と100回以上も言われたり、「内戦状態のシリアや北海
 道、沖縄に行って貰う」と脅されるなど、もはや勧奨の域を超えて、退職強要以外の何物でもないひどい
 暴言を浴びせられた人も居ました。ひどい退職強要の実態は国会でも問題として取り上げられたほどで
 す。そうした状況から、電機・情報ユニオンに相談に来た労働者も50名を超えました。
  それに比べるとルネサスの早期退職は、かなりおとなしかった様に思えます。2393名が退職したN
 ECの3倍の退職者を出しながら、私たちのところに相談に来たのは、わずか数名でした。会社としては、
 NECほどには苦労せず、遺恨も残さずに目標を大幅に上回る実績を上げた事になります。単純に人員
 削減だけを目標とするのであれば、大成功だったように見えますよね。

A) 問題の一つは、それがどのようにして可能となったのかです。

D) たとえば、山口工場の場合716名の早期退職者を出しましたけど、そのうち595名が会社の指定す
 る再就職支援会社に登録しました。地方の雇用情勢は本当に厳しくて、再就職先の宛てが無いにも関
 わらず、これだけ多数の方が早期退職を選んだ理由を想像してみれば、その答えが見えてくるのでは
 ないでしょうか。

A) 工場の退職者から何か直接聞いていますか。

D) いいえ、特には。これだけ多くの方が退職されたにも関わらず、鶴岡、滋賀、山口、川尻のいずれの
 工場からも、事前情報はほとんどありませんでした。誰も情報を流さないし、こちらから聞くのも憚られた
 ので、10月末になって退職する本人から11月以降の業務の引き継ぎの連絡が来るまで知ることが出
 来なかったほどです。
  そのような状況でしたし、電話口で本人から退職を告げられても、それについて理由を尋ねる気持ち
 にはなれませんでした。せいぜい、今までお世話になりました、ありがとうございました、これからも頑
 張ってくださいと言えた程度です。本当は彼らもルネサスエレクトロニクス本体に対して、言いたいこと
 は沢山あったのではないかと思います。「バカヤロウ」でも何でも良いから、最後くらい言ってくれと内
 心思いましたね。忍耐強いですね、工場の人は。頭が下がります。とにかく、彼らの本当の気持ちにつ
 いては、察するよりありません。

B) 退職を選んだのは、工場の未来に失望したと言うことでしょうか。

D) それもあると思いますが、単に閉鎖や縮小予定と言うだけでは辞めないと思います。再就職は厳しい
 のだから、ぎりぎりまで残って働こうと考えるのが普通ですよね。

C) すると、工場でも見えないところで厳しい退職勧奨があったのでしょうか。

D) そういう噂もちらほら聞きます。ですが、やっぱり生涯年収を考えて辞めた人が多かったのではない
 かと思います。
  今回のリストラでは、もともと1万2千人から1万4千人を削減すると言われていました。そのうち5千数
 百名を早期退職で辞めさせて、残りは工場の縮小閉鎖や事業の売却などによって達成されると聞いて
 いましたから、この早期退職に応募せずとも、自身がリストラの対象になる可能性は大いにあり得ると考
 えたと思います。仮に将来もっと会社の経営が傾いて早期退職を募集する余裕さえも無くなれば、その
 時は割増金も貰えなくなってしまいますから、今辞めた方が得かも知れないと判断したのでは無いでしょ
 うか。

A) 今ここで早期退職に応じなければ、次回は整理解雇になると思ったと言うのですか。

D) そうだと思います。

B) 整理解雇をちらつかせて早期退職にいざなうのは、退職強要にあたるのではないですか。

C) 整理解雇を実施するには、人選の適正さとか、労働組合との協議とか、必要なステップがあります。
 それらの手続き以前には、誰が整理解雇の対象か決まっていません。仮に当人が整理解雇の対象者
 だと思わせられたのならば、退職強要に該当します。

D) そこが実に巧みで、誰が対象とまでは言わないのです。それから今話したのは工場についてですが、
 首都圏の事業所も本質的には同じでした。会社は、早期退職者が5千数百名集まらなければ指名解雇
 に踏み切ると言っていましたから。

A) 先にJALで行われたのと同じ手法ですね、整理解雇になるよりは早期退職を選択した方がマシだと
 思わせると言うのは。おそらくこうした手法もルネサスが単独で考えたのではなく、取引先の金融機関
 などから指南されたのでは無いかと想像します。
  JALでは2700人の募集に対し、約4000人の応募があったと言います。そしてルネサスでは5千数
 百人の募集に対して7500人近い応募です。いずれも募集人数の1.5倍近い応募を集めることが出来
 ました。これらがある種の成功体験として、他の企業にも展開されていくことを恐れます。

D) 私の知り合いも大勢辞めましたが、ほとんどの方は再就職先が決まっていないと言っていました。こ
 れから探すのだそうです。技術系の人間であれば、つぶしが利くというものでも無いのですよ。多くの人
 は、果たしてまともな再就職先があるのか、年収はどのくらい減るのかと不安を抱いています。

A) 私たち労働者の立場から言えば、退職した人はどうなるのか、残った人の労働実態はどう変わるの
 かと気にかけざるを得ません。更には、電機業界だけで13万人と言われる雇用機会の喪失が社会全
 体に与える影響についてもです。

B) もちろんそうですよね。それと今回の早期退職は、経営者の立場から見ても、ルネサスの経営にプ
 ラスかどうかよりも、外圧によって無理矢理やらされてしまった面が強いと思います。内部から見れば、
 やはり早期退職によるマイナス面が目立つのが実態だと思います。

A) では次に、そのマイナス面について話し合う事にしましょう。