ルネサス懇、秋闘を語り合う。

− 大事なのは利益還元の仕組み −

【大事なのは利益還元の仕組み】

A) 2000年代になって日本の企業が莫大な内部留保を溜めたのは事実です。これは我々が考える広
 義の内部留保、つまり退職給与引当金や自己株式取得なども含めた内部留保が増えているというだけ
 でなく、一般的な狭義の内部留保、すなわち利益剰余金だけを見ても、ものすごく増えました。資本金
 10億円以上の企業5500社の合計で、2001年が84.7兆円だったものが、2008年には133.2兆
 円と、157%もの増加をしています。一方で労働者の所得は減っていますし、生活保護を受ける世帯数
 は過去最高に達している現実があります。こうした生活の困窮は、ますます社外だけの話ではなくなって
 来ています。だから、社会の富の分配のあり方について、私達はもっと考える必要があるでしょう。一時
 金と言う形で社員に分配するのも、その方法のひとつですし、法人税などによる再分配の仕組みを機能
 させるのも有効な方法ですね。

C) 業績の良い会社の利益還元の仕組みが一時金で良いのかと言う問題もありますね。日本の法人税
 は高いと言うけど、実は大企業が実質的に払っている法人税率が中小企業よりも低いというデータがあ
 ります。利益を直接雇用の従業員の一時金として還元するだけでなく、税金をしっかり払うことで広く社
 会にも還元して、そこから失業給付や社会保障のための原資を充実させていくという考え方があって良
 いでしょう。

B) 確かに労働者の関心が経営オンリーになってしまうと、そういう発想は生まれて来ませんね。だけど
 経営者サイドは、それで良いと思うのではないでしょうか。余計な事に関心を持たず、会社のことだけ考
 えて、働きアリか働きバチのように頑張ってくれれば良いと。

D) だけど一人で頑張ったって、会社の業績を立て直すことはまず無理ですよ。この半年間だって、もの
 すごく頑張った人は会社内にたくさん居ると思うんです。その結果、何とか営業黒字にこぎつけましたけ
 ど、結果が2.0ヶ月でした。なんか行き詰まりを感じませんか。

C) ええ、ですから頑張った人にはそれなりの配分がされるのが成果主義です。成果主義なら、原資が
 増えなくとも、実績を上げた人は相対的には多くもらえますよね。それで100万円を超えるような一時金
 と言うのは、扶養家族を何人か抱えている人でなければ、たとえば独身者であれば、まあ金額的には
 生活して行くのに十分な額ですよね。マズローの欲求ピラミッドは、いろんなところでよく引用されますけ
 ど、人よりも多く貰えることが承認の欲求を満たしていると推定できます。

B) つまりピラミッドでより高次の欲求を満たしている人がいる一方で、もっと低位の欲求、例えば生活に
 必要な賃金も十分に得られなくて、安全の欲求を満たせなくなっている集団がいるという分裂が起きて
 いるということですね。これがまさに、労働者の団結を阻害し分断してしまう最大の要因かも知れません
 ね。
 
D) 一時金2.0ヶ月だと、貯金を取り崩す人も出てくるでしょうね。住宅ローンとか、普通は一時金を見越
 して、12月は4倍くらい返済しますよね。90年代に45坪くらいの土地付き一戸建てを6〜7000万円で
 買った人とか居たけど、ローンは返せるのかなあ。

C) 母子家庭や父子家庭などが一番深刻なのではないかと思いますよ。事務職だと、もともと賃金が安
 いでしょう。年収は300万円台が一般的だと思いますよ。子供が小さくて短時間勤務にしていると、更に
 7〜8割くらいの収入になってしまいますよね。今は子供手当て月13000円もあるけれど、焼け石に水
 ではないでしょうか。それに収入が少ないだけでなく、年柄年中、外の仕事と家庭の仕事に追われて休
 みが無いでしょう。病気をして寝込むこともできませんよね。

B) 私と同年代には、まだ独身者が大勢居ます。経済的には直近で困っていない人が多いかなあという
 感じですね。だけど誤解が無い様にして頂きたいのですが、もう自分は一生独りかも知れないと言う感
 覚を持っている人が結構いると思います。そういう人は、老後の支えになるものが結局はお金しかない
 し、自分達には年金が支給されるのかも分からないから、やっぱりお金はいくらでも欲しいんです。一時
 金が沢山もらえなくても良いと考えるのは、一時金を出しすぎた結果、会社の経営が傾いて、会社が倒
 産したり自分がリストラされて、生涯収入が減ったり、生活が維持できなくなってしまうと困ると考えてい
 るからです。
  年配の人達は、若い世代がみんな成果主義賃金に賛成だと思っているのかも知れませんが、一時に
 たくさんお金が入るよりも、末永く安定した収入がある方が良いと思っている人の方が多いと私は感じて
 いますよ。

A) ひとえに一時金2.0ヶ月と言っても、受ける影響は人によって全く違うでしょう。今の議論を要約する
 と、個々の家庭の家族構成や事情によって、必要な収入額がかなり違っていて、実際に得られる賃金
 とのギャップが大きいと、生活が悪化したり、下手をすれば崩壊してしまうということでしょう。
  ひとつ理解しておかなくてはならないのは、現在の日本では、生活に必要な収入が、ほぼ賃金のみに
 依存してしまうことです。加えて、生活に必要なもののコストも高いですね。住宅然り、教育も有料です。
 だから母子家庭など、絶対的な収入の少ない家庭では、生活がとても困難な状況になっていかざるを
 得ません。こうした問題は、単なる賃上げ要求だけでは解決しませんから、社会保障や福祉や公共事
 業の問題と絡めて考えて行く必要があるでしょう。

B) と言っても、若い世代は政治に関心が無いですよ。

D) 最近は、中高年でも政治への関心は薄れていると思います。若い頃に関心の無かった世代が中高
 年になりましたから。アンケートを取ると、労組の活動でもっとも期待されていないのが政治に関わる活
 動です。

A) まあそうでしょうが、政治問題は本来重要ですよ。会社の業績がどんなに伸びても、解決出来ない
 問題はあるのですから。会社との交渉で獲得すべきことと、社会への働きかけを通じて実現すべき課
 題とを整理して、きちんと区別して考えて行きたいものです。