ルネサス懇、秋闘を語り合う。

− 2.0ヶ月の妥当性 −

【2.0ヶ月の妥当性】

A) EL側の無念さは分かりました。では悔しいので、昨年下期と、今年の上期の1年間の業績で評価し
 たらどうなるかについてもシミュレーションしてみませんか。昨年度末には、赤字を抑えるために、利益の
 上がる製品から出荷したという話もありますね。その分のマイナスは、この上期に影響しているはずで
 す。であるならば、この1年間の業績を見てみるのも意味があるでしょう。
  昨年下期の業績は、ELが123億円の営業赤字、RTは131億円の営業赤字でした。合わせると254
 億円の赤字ですね。そして上期が7億円の黒字ですから、直近1年間トータルでは247億円の営業赤
 字となります。2社分で247億円ですから、1社分なら124億円です。この赤字額を前回使用したグラフ
 にあてはめてみると、通年で4.22から4.33ヶ月くらいが妥当となります。仮にこの半分が冬の一時金
 だと見なせば、2.11から2.17ヶ月ですね。したがって2.14ヶ月前後が、本来妥結点として納得でき
 るラインだった様に思います。
  ちなみに2.0ヶ月だと、従来なら1000億円(統合前で1社あたり500億円)以上の営業赤字を出した
 ときの一時金の水準と読み取れますね。ただしこのグラフは、ELの2.3ヶ月だった年をデータから除い
 ています。


         グラフ : 営業損益と一時金妥結月数との比較 (ELの2009年分を考慮しない場合)
         


D) うーん、2.14ヶ月ですかあ。0.14ヶ月は、月給30万円の人で4万2千円に相当するんですよね。
 決して小さくないですよ。

B) 今秋闘は、統合会社として今後の試金石になるという話でした。だからどういう結果だろうと、そこに
 会社としてのメッセージが込められているのだと解釈したいです。一時金の水準としては、会社統合前
 よりも一段と低水準になったと言えますね。つまり会社にとってステークホルダーのひとつである従業員
 の位置づけを、相対的に下げたと解釈して良いのでしょうか。上場会社になって株主を優先せざるを得
 なくなった分、従業員への処遇を下げているのだと。

C) そうとも受け取れるかも知れませんが、ELはもともと上場会社です。そのELでさえ、統合前よりも水
 準は下がっている様に見えます。

D) しかしもう一つの可能性として、実は会社の企業体力から見て、2.0ヶ月でさえ苦しかったということ
 は考えられませんか。実はこれでも結構無理したのだと。

A) 企業体力論に絡めた話は何か聞いていませんか。

B) キャッシュが少ないから、出来るだけキャッシュアウトを抑えないと、企業の存続に支障が出るという
 ような話は聞きました。だから一時金が出せないという事なのかどうか、はっきりとは聞いていません。
 そうらしいという噂です。
  ELとRTの現金は、統合時点でELが約900億円、RTが約1100億円で、合計約2000億円でした。
 ここに親会社から資本注入されて、4月末には3377億円になった様ですね。だけどELが抱えている転
 換社債の償還に1100億円必要で、他にもリストラにかかる費用を合わせると、実は現金がそんなにあ
 る訳ではないという話です。確か770億円を今年リストラにつぎ込みますしね。

A) 現金が潤沢にある訳ではないのは、まあ間違いないでしょう。しかしリストラに費用がかかるとは、大
 した言い訳ではないですか。早期退職に1200人を見込んでいるとされていますが、目標人数に達しなく
 ても、応募者が居なければ早々に打ち切った方が良いでしょう。キャッシュアウトを最小限にするために
 も、その方が理に叶います。それと残りのリストラ費用530億円の内訳に、鶴岡工場とローズビル工場の
 減損処理と言う項目がありますね。設備の減損処理は、キャッシュの流出を伴わない会計上の費用処理
 のはずですよ。本当にそれらをキャッシュが無い言い訳にしているのでしょうか。

B) 私の聞き違いかも知れません。

A) むしろ短期借入金が結構多いのが気になります。とにかく、我々ももう少し経営分析に強くなる必要が
 ありますね。近頃は大企業の蓄えた莫大な内部留保が問題視されています。しかしこれらは、内部留保
 と言っても必ずしも現金で持っているわけではなく、企業の建物や設備などの固定資産になっている部
 分もあるから、容易に取り崩せる訳ではないという話を経団連などが吹聴しています。それならば、本当
 に固定資産は増えているのか、有形固定資産はむしろ減っているのではないのか、その固定資産を買う
 ための資金はどこから出てきたのか、自己資本から調達したのか、それとも他人資本からなのか。そう
 いった追求などが必要です。

B) 退職給与引当金のように、「〜引当金」の名目のものも怪しいんですよね。だけど、以前その話を会
 社の中でしたら、退職給与引当金を取り崩したら、従業員の受け取る退職金や企業年金が欠損するだ
 ろうって言われました。

A) まるっきり間違いでは無いとしても、注意を要します。退職給与引当金は、退職金の原資そのもので
 はありませんよ。積み立てている企業年金と、将来発生する見込み費用との間に差があると、その差分
 を引当金として積まなくてはならないということです。年金積立金の運用が上手く行っていれば、引当金
 自体が本来は不要なのです。

B) ルネサスの場合、純然たる内部留保はマイナス2000億円を超えていますよね。この会社に限って
 言えば、内部留保の議論って本当に的を射ているのかなあと思うのですが、その点はどうなんでしょう。

A) 内部留保の話は、実は結構古くから問題視されているのです。それがここ数年、大手のマスコミなど
 が取り上げる様になりました。視点にあるのは、個別の企業と言うよりも、むしろ日本の企業全体です。
 09年3月期で言えば、自動車業界の大手全体で20兆4千億円、電機大手が26兆2千億円もの内部
 留保を持っていました。09年3月と言えばリーマンショックの後です。その前の年末に東京で派遣村が
 出来て、3月には電機業界で大量の派遣切りがありましたね。だから、富の使い方として、社会における
 分配の仕組みとして、本当にこれで良いのかという世の中に対する問題提起の意味がありました。
  個別の企業でいくら内部留保がある、だから賃上げは出来るはずと見て要求する、こうしたアプローチ
 は、社会全体の問題を是正していく具体的な方法の一つと私は考えています。なぜ方法の一つかと言
 えば、富の分配の仕方は賃上げだけでは無いからです。そうは言っても、利益が出ないから賃金も払え
 ないでは困りますよね。業績の良い時は良い時なりに、悪い時でもそれなりの一時金になるよう、求め
 ていかないといけません。内部留保の議論は、その根拠として使うことも可能なのだと考えておいてくだ
 さい。

C) 私は前回の議論で、もっとドライになったらどうかと主張しました。この基準を下回ったら必ずストライ
 キに入るようなことをしないと、「初めにフタ」には勝てないのではないかと思ったからです。フタが外部へ
 のコミットである以上、フタ自体を無くすことは出来ません。だから、出来るだけ”緩い”フタにするしかな
 いと思いました。必ずストに突入するとなれば、経営者も社内の見込み業績と外部に発表する予算(フタ)
 との間に、ある程度のマージンを設けざるをえないでしょう。マージンが増えれば、労組にとって交渉の
 余地が増えると思うのです。

A)それも一理ありますが、ストライキを構えるには、労働者の意志の統一が欠かせません。今はストをや
 るかどうかよりも、ストの出来る体質にして行く方が重要ではないかと思いますね。
  それでは次回の春闘に備えて、我々も勉強することにしましょう。教科書を2冊ほど紹介しておきます。
 1冊は経済法令研究会の出している「入門!企業分析の手法と考え方」です。中小企業を想定した企
 業分析の本ですが、説明が平易で基礎を勉強するのに向いています。もう1冊は、学習の友社から発
 行されている「内部留保の経営分析 過剰蓄積の実態と活用」です。どちらか1冊で構いませんから、
 次に春闘の議論をする時までに読んでおいてください。