ルネサス懇、参議院選挙を語り合う。

− 参議院選挙の争点は −

                                 参加者 : A委員(ルネサステクノロジ出身:座長)
                                        B委員(ルネサステクノロジ出身)
                                        C委員(NECエレクトロニクス出身)
                                        D委員(NECエレクトロニクス出身)


A) みなさん、本日は猛暑の中、お集まりいただきご苦労様です。今年は梅雨明けが早くて、この1週間
 は、都内でも連日35度を超える猛暑日が続きました。電機労働者懇談会の旧事務所は、木造の安普
 請で断熱性が無かったために夏はものすごく暑くなりましたが、この新橋の新事務所はエアコンが利い
 て快適ですから、頭もすっきりしますね。
  さて、今月上旬からルネサスの早期退職の面接が始まっています。特にルネサスエレクトロニクス本
 体の社員の33%を占めると言われる管理職は、20%までの減員が計画されていると聞きます。単純
 計算で管理職の4割を削減するものと考えられます。そのために8月1日付けで、主任・技師クラスへの
 降格が予定されていて、降格対象者へは「あなたは早期退職して欲しい」「残っても仕事はない」などの
 厳しい退職勧奨が行われているとの情報も入って来ています。ルネサス懇としても、電機・情報ユニオ
 ンと共同で、今週から相談活動を始めています。みなさんからも職場の情報をお寄せ下さるようお願い
 いたします。
  普段であれば、このような折にはリストラを中心としたテーマを議題に挙げるところなのですが、今日
 の議題は参議院選挙です。と言いましても、ルネサス懇の議論ですから、政治一般に関するお話より
 は、むしろルネサスの現状に即した形で、参議院選挙との関係を考えて行きたいと思っております。
  ご承知のように、参議院選挙は7月4日に公示があり、来週日曜日が投票日となっております。今回
 は非常に重要な選挙になると私などは思うのですが、多くの人の目には争点がはっきりしていないよう
 に映っているのではないでしょうか。実際に期日前投票はすでに始まっていますが、はじめの1週間の
 投票数は増えていて、この傾向はむしろ、投票日の投票率が下がる方向ではないかとの見方がありま
 す。高齢化が進んでいることもあり、投票日が猛暑だったり台風だったりすれば、更に投票率が下がる
 ことも予想されます。
  参議院は任期6年で3年ごとに半数が改選ですから、今回の選挙は2007年の選挙で当選した議員
 の改選となります。思い出せばこのとき、民主党が大勝して衆議院と参議院で与野党の議席数が逆転
 する「ねじれ国会」となり、与党の一方的な法案通過を参議院が阻止する役割を果たしました。参議院
 が本来の存在意義である良識の府の機能を発揮したとも言えます。これが自公政権への対抗勢力とし
 ての民主党への期待となり、2009年の衆議院選挙において民主党政権が誕生する重要なステップと
 なりました。
  今回は、その2007年の議席が改選となる訳ですから、ここで与党が勝利する結果になれば、参議
 院も与党が圧倒的多数を占めるようになり、日本社会全体が、ある方向に、一気に雪崩を打ったよう
 に行ってしまう可能性もあります。特に私が重視するのは憲法です。安倍政権が現憲法の改憲に並々
 ならぬ意欲を持っている事は疑いありません。仮に改憲派勢力が衆参両院で2/3を超える様な結果
 になれば、今年の後半からは、いよいよ改憲への流れが具体化してくるのではないかと危惧します。
 そこで今日は、ルネサス労働者と政治、ルネサス労働者と憲法と言った観点からも議論をしたいと思
 います。以上、闊達な討議をよろしくお願いいたします。

D) 私も今回の参議院選挙は憲法が重要な争点だと思っています。既に昨年末の衆議院選挙で改憲
 派の勢力が圧倒的な議席数を占めていますから、この参議院選挙で改憲派が勝利するような事にな
 れば、そのあとの改憲までの流れは「詰将棋」になってしまうのではないかと心配しています。

B) しかし、私たちは憲法問題が争点と考えているとしても、有権者全体では経済問題が最大の争点
 と言われています。

A) そうですね。朝日新聞が6月末に実施した世論調査では、比例区の投票先として自民党が44%も
 の高率を示しました。しかし例えば憲法96条について見ると、改憲に反対という人の方が賛成する人
 の数を上回る結果となっています。この矛盾というのは、結局のところ憲法問題が国民の意識レベル
 ではそれほど重要な争点になっていない事の表れでもあると思います。

C) 2005年に自民党が新憲法草案を出し、翌2006年の9月より始まった第一次安部内閣が、改憲に
 向けて意欲的な取り組みを見せました。特に2007年5月12日には、改憲に向けた地ならしとして、国
 民投票法案が可決しています。そうした情勢がありましたから、2007年の参議院選挙では改憲か護
 憲かが大きな争点になるだろうと踏んでいた訳ですが、いざフタを開けてみると、憲法に対しては明確
 な姿勢を示さずに「国民の生活が第一」をスローガンに掲げた民主党が60議席を獲得する大勝でした。
 共産党や社会民主党の掲げた「護憲」は、票にはあまり結びつかなかったのですよね。

B) たぶん、私たちの本当の関心事は、自分の生活がどうなるかではないでしょうか。経済問題が最大
 の争点となって、憲法よりも優先度が高くなるのも、生活感からの距離の問題だと思います。経済が上
 向けば生活は改善するけど、憲法を守っても生活が良くなるかどうか分かりませんよね。そういう感覚
 ではないでしょうか。

C) 昨年末の衆議院選挙で維新の会が54議席を獲得しました。これは57議席に留まった民主党に迫
 る数です。これだけの議席数を彼らが獲得した背景には、彼らに何かを変えてくれそうな雰囲気があっ
 たからだと思います。今の停滞感漂う状況から、何でも良いからとにかく変えろ、変わって良くなるかど
 うかは分からないけれど、何も変わらなければ苦しいままだという感覚が生じているのではないでしょう
 か。いわゆる「決められない政治」に対するいらだちも、決まらなければ何も変わらないではないかとの
 怒りが根底にあると思います。そうなると、「護憲」という立場もまた、憲法を変えない事で現状を維持し、
 何も変わらず、何も良くならない方向であるかの様に錯覚されてしまっていると思うのです。あるいはそ
 こまで行かなくとも、何かを変えないという主張は、有権者にとって魅力的に映らないのかなと思います。

A) 今が苦しいから、何かを変えたいという思いは分かります。しかし、問題は変える方向ではないでしょ
 うか。その方向もまた、憲法によって指し示されているのですから、憲法を変えてしまえば、本来改善し
 なくてはいけないとされている事も、改善しなくて良いことになってしまいます。
  例えば、自民党の新憲法草案では、24条で「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重さ
 れる。家族は、互いに助け合わなければならない」という文言が追加されています。自助、共助、公助
 と言われますが、自民党としては自助の役割を増やして、公助の部分の予算を削減しようとしています。
 憲法に家族の義務まで書き込むことで、これを更に推進しようとしているのです。私たちが老いて介護
 が必要になったとき、家族の中に介護できる人がいる限り、行政は“まずは家族で何とかしてください”
 と言うでしょう。今介護に苦しんでいる方の中にも、現状が変わって欲しいと願う方が大勢いるだろうと
 思います。しかし、自民党の憲法草案が通れば、今よりももっと苦しくなる恐れがあります。これは一例
 ですが、単に変われば良いというのではなく、どのような方向に変わるのか見極めるのが重要ですね。

B) その意味で、やっぱり景気回復が一番期待されているのではないでしょうか。「アベノミクス」の放っ
 た矢への期待感からか、円安と株高傾向ですよね。電機のような輸出型の産業だと、円安による業績
 の改善が確かにありましたし、これが6月の一時金にも反映されていると思います。つまり目に見える
 変化があったと言う事です。ルネサスの一時金はゼロだったので関係ないですけどね。
  昨年末の衆議院選挙でも、電機労働者の票の相当数が、民主党から自民党に流れたと思います。
 自民党になって業績が持ち直したし、収入も増えたじゃないか、それに引き替え民主党が何をしてくれ
 たと言うのか、やっぱり自民党じゃなければダメじゃないかとの思いも、かなりあるのではないでしょう
 か。

C) 円安は、確かに短期的に見れば、私たちのような輸出型産業の業績を好転させます。しかしそれで
 貿易収支が黒字に向かえば、調整機能が働いて、再び円高に逆戻りします。業績を円安頼みにして、
 本質的な改善を先送りするのは良くないと思いますよ。

D) 円安の弊害も見えてきていますね。小麦など様々な食料品の物価が上がり始めています。来年以
 降は消費税が8%、10%と段階的に上がっていきますから、私たちの家計はどんどん苦しくなって行き
 ますね。健康保険は値上がりしているし、年金は目減りしているし、しかも政府はインフレを目指してい
 るし、将来を見越すと、収入が減って支出の増える要素がいくつもあります。

C) インフレについては、むしろアベノミクスで逆に金利が上がって、デフレを脱出できないのではない
 かとも言われています。
  アベノミクスの「3本の矢」のうち、一番期待されていたのが3本目の成長戦略なのですが、これが
 まったく期待外れだとのことで、発表された6月5日以降、ふたたび株価が下がりました。これが市場
 の評価を率直に反映したものだとも言えそうです。
  アベノミクスの成長戦略は、主に3つの要素から成っています。ひとつ目は「女性の活用」、2つ目は
 「世界で勝つ」、そして3つ目が「民間活力の爆発」です。
  「女性の活用」については、ルネサス懇でも過去に議論してきました。それを要約すれば、私たちと
 しては男女平等な社会を目指していて、まずは国会議員、地方議会議員、会社役員、管理職、研究
 開発職など、社会的に高いステータスに占める女性の割合を高めて行くことに賛成の立場です。しか
 し、社会が作り出す性差、つまりジェンダーの視点から見れば、生物学的な男女とは異なる、社会に
 おけるオトコとオンナの格差を如何に埋めていくべきかが重要な視点になります。そのためには、優
 れた女性が能力を発揮するのはもちろん重要なのですが、このような人はジェンダーの視点からは
 オトコであるとも言える訳ですから、男性女性にかかわらず、オンナの立場にある人の状況を如何に
 改善するかにも、並行して取り組まないといけません。その中心になるのは、オンナがオトコに経済
 的に依存しない状況を作ることだと考えます。経済的な自立が、すなわち生の自立であり、性の自立
 であり、人権が守られる基本と考えるからです。ところがいま、アベノミクスの「女性の活用」を見ると、
 「女性手帳」を発行するなど、育児や家事を基本的に女性の役割とするかのような価値観が見て取
 れます。まるで福祉に関わる領域をできるだけ女性に押し付け、福祉予算の削減に役立ってもらおう
 と考えているかの様です。
  それから「民間活力の爆発」と言いますが、そもそも企業は莫大な内部留保をため込んでいます。
 内部留保が溜まっているのは、企業が有効な使い道、つまり拡大再生産のための投資の方向性を
 見いだせていないからであり、それは需要が無いからであるとも言われます。しかし元をただせば、
 これら内部留保は非正規雇用の活用などによる人件費のダンピングによって生じた面が多々あり、
 本質的には労働者にこそ分配されて然るべきものと考えます。失業や低賃金のために、必要なもの
 も買えない労働者が大勢います。労働者が然るべき賃金を手にすることができれば、本当に生活に
 必要とされるものの購買が促進されます。そこに需要が生まれ、経済の活性化にもつながっていくは
 ずです。
  GDPなどの経済指標は、単なる指標以上のものではありません。1枚の神戸牛のステーキは、茶
 碗に100杯のご飯と同じか、それ以上の値段ですが、GDPはそれらを区別しません。一部の人の飽
 食と多数の人の飢えがセットになった社会と、多くの人がそこそこ食べられる社会と、どちらが望まし
 いのでしょうか。人々が真に必要とする需要と、それを満たす供給との関係を作って行くことが重要だ
 と思います。国として成長分野を定め、経済成長を目指すこと自体を否定はしませんが、成長の恩恵
 が多くの人に分配されないのであれば、成長そのものにどれほどの意味があるでしょうか。サプライ
 サイドからの経済成長を促そうとする以前に、もっと国民の生活に根差したデマンドサイドから経済を
 立て直すべきと私は考えます。

B) 経済問題に関心が行くのは当然としても、アベノミクスで本当に私たちが豊かになるのかどうなの
 かと言うことですね。