ルネサス懇、制度一元化を語り合う。

− 裁量労働 −

【裁量労働】

A) みなさん、おはようございます。昨夜はよく眠れましたか。今日もさわやかな陽気ですね。海も真っ
 青で、伊豆大島がよく見えます。昨日は、夕食後の雑談も含めて、大いに盛り上がりましたね。飲み
 すぎて二日酔いの方はいませんか。
  さて、今日は勤務制度と福利厚生制度について議論します。まずは勤務制度からです。育児関連
 施策については、先月議論していますので、今回は省きますが、それで良いでしょうか。では、はじ
 めに裁量労働制を見てみましょうか。 新制度における裁量労働制は、区分Rの方にあわせている
 ようですね。対象は総合職1級(S1)です。みなし労働時間は1日あたり8.75時間で、裁量労働手
 当は残業代30時間分がつきます。

D) 裁量労働については、いろいろと議論すべきことがありそうです。まず裁量労働手当ですが、区分
 EのVワーク手当は1日1時間分ですので月に約20時間分です。したがって新制度になると約1.5
 倍に増えます。しかし、代わりに一時金の「Vワーク加算」が無くなります。Vワーク加算とは一時金へ
 の加算金で、金額にして約20万円です。同じA職群1級でも、Vワーク制度の適用者にだけ加算金
 があるのです。
  このVワーク加算は、98年ごろにVワーク制度を作ったとき、Vワーク制度の適用者と非適用者との
 間に差を付けるために設けたものと解釈しています。Vワークは、適用するにあたって本人の同意を
 必要としています。元は会社が残業代を減らすために作った制度であることはミエミエでしたので、V
 ワーク適用者が得をすると言うよりは、Vワークでないと損をする制度を織り交ぜたのだと私は見てい
 ます。なぜなら、Vワーク加算を設けるにあたって、一時金の原資は変えないと説明されていたから
 です。原資が変わらなければ、Vワーク適用者に上乗せされる分だけ、非適用者の一時金が減るこ
 とを意味します。実際、Vワーク制度が出来る以前の主任の一時金水準よりも、制度開始後の非適
 用者の一時金水準は下がったと言います。非適用者に限って言えば、賃下げになっているのですよ。
  だから私は、Vワーク加算など要らないと、以前から思っていました。今回無くしてしまうことには、ど
 ちらかと言えば賛成です。
  ただし当然ながら、新制度でトータルの収入が減るのではないかとの懸念が生じるでしょう。毎月
 の裁量労働手当の増加分と、一時金のVワーク加算の約20万円と比較すれば、基本月収の少ない
 人ほどVワーク加算廃止の影響が大きいでしょう。しかし私は、Vワーク適用者の収入は減らないと
 予想しています。なぜなら、正直に一時金を20万円減らしてしまえば、それは区分Rの裁量労働者
 の一時金も同じく減らすことになるからです。それは出来ないでしょう。現在のRS1の一時金水準を
 見ると、Vワーク適用者の一時金水準と、だいたい同じくらいに見えます。だから、Vワーク加算がな
 くなっても、これまでの一時金の水準が保たれるのではないでしょうか。こうして考えると、新制度の
 裁量労働制は、区分Eの裁量労働者にとっては収入増の方向だと推定できます。

B) 区分Rにとっては、収入減です。裁量労働手当が名目で残業30時間分と言うのは変更ありませ
 んが、これまで役割給の26%だったものが、基本給の25%になっています。この25%という数字は、
 来年1月から3月に適用される賃金減額の数字と同じです。つまり残業代割増率130%のところ、新
 制度では125%の法定基準下限値にしたと言う事ですね。125%が恒久的になるのは、納得が行
 かないと思いました。
  それから、新制度の基本給は、役割給から家族手当分の18000円を差し引いていますから、この
 分も減額になります。

A) 簡易的に計算すると、RS1の賃金は年収ベースで約30万円も減額になります。このことは、来週
 配布予定の「むさしNet」で周知して行く予定です。

C) みなし時間が1日8.75時間というのは、どう考えたら良いのでしょうか。区分Eでは、Vワークが
 スタートした当時のみなし時間が7.75時間でした。それから実態に合わせるとか何とか言って、
 8.75時間にした記憶があります。
  さっき、残業代を払わないために裁量労働を導入したのではないかとの見解がありましたが、残業
 代だけでなく、Vワークは残業時間そのものをあいまいにする形でスタートしました。それまでタイム
 ズと言うシステムに社員証を通して出退勤時間を管理していたものを、Vワーク適用者は通さなくて
 良くなったのです。
  ところが、こうしたいい加減な労働時間管理によって、労働者の残業代が支払われないことが社会
 問題化したために、2001年に厚生労働省が「労働時間の適正な把握のために使用者が構ずべき
 措置に関する基準」と言う通達を出して、例え裁量労働であっても、使用者が始業時間と終業時間
 を把握し、記録することを求めたのです。これは2003年には義務化されています。
  NECの各事業所の通用門などにフラッパーゲートが設けられ、出退社時間が記録されるようになっ
 たのが、翌2004年からです。フラッパーゲート敷設の理由は、セキュリティーの強化だけでなく、従
 来のタイムズの記録だと、社員証を通してから職場に戻るケースがありましたし、タイムズには残業
 時間を1時間とか2時間とか指定できるボタンがあって、22時まで会社に居て4時間残業しながら、
 2時間のボタンを押して帰るとか、不正な使用があったからだと聞いています。通用門で、出入りとと
 もにチェックすれば、そのような不正が出来ないと考えられたのです。
  NECがみなし時間を変更した理由は定かではありませんが、みなし時間と実労働時間が異なるの
 は、おかしいではないかとの議論があった事は確かです。では、新制度の8.75時間は実態に合っ
 ているのでしょうか。武蔵事業所の残業実績では、裁量労働者は35時間前後と言う話でしたね。
 合っていないのではないでしょうか。

B) 武蔵の場合、残業時間は自己申告なので、35時間より多い可能性も否定できません。各自が
 パソコンの画面からプルダウンで時間を選んでいるのです。だから残業隠しが行われないとも言い
 切れません。日本ビルも、似たようなものだと聞いています。

A) 日立超Lなどは、入り口でカードを通して入退出時間を記録していると聞きます。武蔵よりも正確
 でしょうね。玉川などNECの事業所と似たような管理と思われます。

D) 玉川の平均残業時間に関する定期的な報告は見ていませんが、何かの機会で報告がある時に
 は、いつも20時間前後ではなかったかと思います。ただし、これは全従業員の平均ですので、裁量
 労働者だけを比較したときに、武蔵よりも少ないかどうかはわかりません。

C) 厚生労働省の通達では、武蔵のように時間管理が自己申告制である場合に、使用者側に実態
 を確認する事も求めています。とにかく、みなし時間は、実労働時間と一致していることが原則でしょ
 う。

B) すると、武蔵の場合には、みなし時間が35時間、玉川なら20時間にするのが適当になるので
 しょうか。事業所によってばらばらで良いのでしたっけ。それに同じ事業所でも、仕事によっても職場
 によっても、かなり差があると思います。みなし時間を設定すること自体に、かなり無理があるように
 思えます。

A) いずれにしても、みなし時間が定時を超えることが問題では無いでしょうか。8時間労働制という
 のは、19世紀の後半に欧米諸国で実現されてきたもので、1919年に設立したILOの第1号条約と
 もなっているものです。いわば労働条件の中でも、最も基本的なもののひとつです。これを、ごく当た
 り前のように突破するみなし時間とは何でしょうか。それをまず問いませんか。
  労働基準法には、1日8時間や週40時間労働を突破できる例外規定として、36条があります。従
 業員の代表と使用者が協定を結べば、法定労働時間を超えて働かせることが出来るというものです。
 ここで結ばれる協定を「36協定(サブロク協定)」と言います。
  裁量労働者についても、36協定を結べば、1日8時間や週40時間を超えるみなし時間を取り決め
 ることが可能になるのですが、従来の36協定が残業時間の上限を決めていたのに対し、残業を含
 む時間をみなし時間として制定することは、そこまでは働いて当然との意識を与えてしまうと言う意味
 で、我々から見て後退と言わざるを得ません。

C) 私も賛成です。本来なら、7.75時間をみなしとして、残業代は別に払うべきだと思います。そうい
 う裁量労働制を敷いている会社があるかどうか知りませんけど、最初から残業を当て込んでいるなん
 て、おかしいと思いますね。
  区分EのVワークには、超過申請という制度があります。これは、みなし時間を越えた残業をする場
 合に、超過分の残業代を申請できる制度です。新制度でも、7.75時間をみなし時間にして、これを
 超えた分をすべて超過申請の対象にすれば良いのです。裁量労働を、残業代を払わなくても済む勤
 務制度にしないためには、超過申請制度は外せないと私は考えているのですが、新制度では削除さ
 れてしまっています。とても問題だと思います。

D) その超過申請制度も、どこまできちんと運用されているか分かりませんよ。私はVワーク制度発足
 時から、一部の期間を除いて、Vワーク適用者でした。多いときは1ヶ月に60時間から70時間くらい
 残業をしましたけど、上司から超過申請をする様に促されたことなど一度もありませんでした。第一私
 自身が、そんな制度があることさえ知りませんでした。超過申請は、いつ出来た制度なのでしょうかね。

C) 以前からあったと思いますけど。Vワーク制度が始まった頃の超過申請は、事業部長クラスの承
 認が必要だったのですよ。そうすると、上かららの圧力で申請できないから、途中から上司承認で申
 請できるように変わったのだと思います。
  いずれにしても、制度の正しい運用が職場で指導されていないみたいですね。すると超過申請を残
 してもダメですか。それなら時間管理者と同様に、確実に残業代がつくようにしないといけませんね。
 それと同時に、裁量労働手当そのものを無くして結構と私は思います。だって、裁量労働は成果を重
 視するのでしょう。成果によらず一律に30時間分の手当って何ですか。意味がわかりません。

B) 30時間分のお金を出すから、その分成果を上げてくれと言うことです。その成果を上げるための
 残業時間が30時間だろうと、60時間だろうと、0時間だろうと、それは働く側の要領次第です。

C) それで平均的な能力の人は残業30時間になると言うことですか。

B) 武蔵は平均が30時間を超えています。

C) 月30時間は年間なら360時間で、これが36協定における上限ですよ。平均がそれを上回るとは
 由々しき事態です。36協定を何だと思っているのでしょうかね。

D) 業務の能率を上げれば残業が減るなんて幻想ですよ。周りを見てください。仕事の出来る人で長
 時間働いている人と、同じく仕事の出来る人で残業していない人と、どちらが多いですか。私の周囲
 では、圧倒的に長時間働いている人の方が多いですよ。仕事の出来る人は、たいていの場合、公私
 を問わず仕事に取り組んでいる時間が長いから出来るのだと私は考えています。個々に例外はある
 としても、定性的にはそうでしょう。

C) 長時間残業は昔から問題だったのですよ。かつては労働時間が長いことが問題だったのですが、
 代わりに残業代は出ていました。裁量労働制になって、残業代もまともに払われなくなってしまいま
 したね。

D) 残業代が払われないのは、非常に問題だと思いますよ。もちろん、労働者にとって許し難い事で
 すが、実は企業にとっても、決して良い結果にならなかったのではないかと私は考えています。詳し
 いことは別の機会に述べたいと思いますが、端的に言って労働生産性の向上を阻害したと思うので
 す。労働者にとっては、頑張り甲斐の無い制度として、企業にとっては、残業頼みで効率化のインセ
 ンティブの働かない制度として、それぞれ悪い方向に作用したと思うのですよね。
  新制度は、そういう悪弊を断ち切るべく、過去の反省に立った制度設計にして欲しかったと思いま
 すが、区分EのVワークと比較しても、少し遅れた制度になっているように見えます。今回の制度改
 定で一番残念に思う点のひとつです。

B) 私は改善した点もあると思いますよ。区分Rの裁量労働制は、土曜日が平日扱いです。だから、
 土曜日に出勤しても、休日出勤手当が出ないのですよ。新制度は、土曜日の休日出勤手当がしっ
 かりつくでしょう。人によっては、これで増収になるケースも出てくると思いますよ。

A) 見方を変えれば、区分Rの裁量労働者が、これまでと同水準の収入を得るためには、積極的に
 土曜日の休日出勤をするしかないとも言えますね。

C) 区分Rの裁量労働は、何だか怪しい制度ですね。法律の盲点を突いたとしか思えません。だって
 週40時間の枠組みはあるのですよ。土曜日が平日扱いなら、みなし時間のうち、1日あたりの定時
 は何時間で、残業時間相当は何時間なのでしょうか。定時の合計が40時間の範囲に収まっていな
 いといけないはずです。それに残業時間だって、裁量労働者にも年間360時間の縛りはあるのです。
 どのような法的整理が為されてきたのでしょうか。

B) わかりません。そこまで疑問に思いませんでした。土曜日が休日扱いになるのは、正常化と見て
 良さそうですね。

A) 正常化と言えば、そうでしょう。しかし、新制度を見るに、やはり従来から問題になっていた、裁量
 労働制を残業代削減施策に使うという点では、改善傾向が見られませんね。裁量労働手当が30時
 間分になることで、区分Eの裁量労働者にも圧力がかかるのではないかと心配します。

D) 大いに有り得ますね。私の上司などは、非常にまじめで部下思いの良い人ですが、それでも「V
 ワークは残業20時間分の持ち時間がある」とか、「裁量労働なので、自宅で仕事をしても構わない」
 とか言っていますね。まあ、部長からそう指導するようにと言われているのだと思いますけど。来年か
 ら裁量労働手当が30時間になったら、“持ち時間は30時間”って言うでしょうね。

A) 私が心配しているのは、そこです。裁量労働者に、当たり前のように残業させるなど、とんでもな
 いことです。しかし、会社は「S1は原則裁量労働」としたいのではないかと思うのです。もし裁量労働
 を外す人がいたら、何だかんだと理由をつけてS2へ降格させるとか、管理職への道を閉ざすとか、
 何らかの制裁を併用することで裁量労働の長時間過密労働を維持しようとするのではないかと恐れ
 ています。

C) 裁量労働制は、制裁労働制ですか。

B) 昨日、賃金の議論をしたときに、管理職になりたくないS1をいじめるのではないかとの“予言“が
 ありましたよね。それがつまり、裁量労働で長時間労働をするか、さもなければ、降格を受け入れる
 かと言うことでしょうか。裁量労働の適用者を絞ること、S1=裁量労働としないこと、残業代がつくよ
 うにすることなど、S1を守るルールが欲しいですね。

C) それと裁量労働手当という見せ金を無くすことです。代わりに成果によって基本月収にもう少し差
 がつくのは認めるとしましょう。差が付きさえすれば良いというのでも無いですよ。S1の昇給テーブル
 を見ると、降給があるだけでなく、一番評価が高いときの賃上げ額も、現在の区分Eの制度より抑え
 られています。全体的に低いほうにシフトしていますね。低めにシフトしたらメリハリのある処遇でしょ
 うか。違うでしょう。