ルネサス懇、制度一元化を語り合う。

− 休職 −

【休職】

A) 私傷病休職制度も変わりますね。率直に言って、改悪ではないでしょうか。まず目を引くのが、復職
 取り消しの取扱です。これまで区分Rは復職後4ヶ月間に同一の傷病で欠勤すると復職取り消しでした
 が、これが6ヶ月に延びます。区分Eの制度に合わせた様ですが。

D) 確かに一見すると、区分Eに合わせた様ですが、区分Eは、復職後の6ヶ月に30日以上の欠勤があ
 ると復職取り消しでした。新制度は基準が書かれていないのが気になります。

B) 区分Rは、4ヶ月の期間で会社が復職を不適当と認めると取り消しになります。具体的な欠勤日数は
 設定されていないようです。復職取り消しの判定基準そのものは、もしかしたら区分Rの方が厳しいのか
 も知れませんね。復職取り消しとして、どのような場合が想定されるのか、会社の方針を知りたいですね。

D) 新制度は、この6ヶ月間を通じて、「通常勤務が可能となっているか否か見極める」とされているでしょ
 う。ですから「通常勤務が可能」とする判断基準が問題になると思います。「通常」という言葉が心に引っ
 かかるのです。区分Eの現行制度では、ある程度の欠勤を容認しているのですが、例えば週に1〜2日
 欠勤するような状態も通常勤務と認めてもらえるのでしょうか。
  それから復職の条件についても書かれていませんが、区分Eでは産業医などの判断に基づき、会社が
 就労可能と判断すれば復職できたのです。つまり全体として、区分Eの制度というのは、病気が完治しな
 くとも、ある程度働ける段階になったら、就労しながら治療していくことを前提にした制度設計のはずなん
 ですよ。
  ところが新制度では、「治療に専念させ」るとされているでしょう。そういう考え方であれば、休職期間を
 もっと延ばして、代わりに復職してからの慣らし期間は短くても良いと思うのですよ。なんだか中途半端に
 区分Eの6ヶ月を持ってきているように見えるのです。

C) ちょっと違うのではないでしょうか。区分Eの制度がある程度の欠勤を認めているというのは、就業規
 則の79条を読めば、確かにそう解釈できます。だけど、59条では「就業させることが不適当と認められる
 者は就業させない」と規定しているのです。だから、区分Rの制度と、基本的に違わないと思いますよ。
  ある程度症状が回復して復職しても、再び悪化して休みがちになる事もあります。休職していると、復職
 後の有給休暇の付与日数も少ないから、風邪をひいても休めなくて苦しいのですよ。それでも頑張って
 出来るだけ出勤しようとするのですが、やがて休暇を使い果たし、欠勤せざるを得なくなると、人事は再
 休職を促すのですよ。実際の手続きとしては、産業医の診断に基づいて、就業不適当と人事が判断する
 と、本人と上司と人事との面談が行われ、通算で欠勤が30日になる何月何日から休職してください、そ
 れまでは就業禁止ですから欠勤ですと言われるのです。つまり、症状の悪いときだけ間歇的に欠勤し、
 あとは勤務するという働き方を、本人の自由な意志で選べる訳ではないのです。

B) では、現行の区分Rの制度も区分Eの制度も、会社が「就業することが不適当」と考える基準がどこに
 あるかが問題ということですね。

A) 最近はメンタルヘルスによる休職が増えていると聞きますね。メンタルヘルスなどは、どこまで行けば
 完治したと言えるのか不明確ですからね。カウンセリングを受けるだけでは完治しないし、日常の人間関
 係の中で日々の生活リズムと心の健康を回復していくしかないというのが私の理解です。だから就労しな
 がら治療していくとのコンセプトが、基本的に正しいと考えますよ。

C) それと、メンタルヘルスは一回病んでしまうと、回復するのにとても長い時間を要する点も見逃せない
 と思います。治療する間には、当然ながら波があるし、時として欠勤が重なる事だってあるでしょう。長期
 的な視野から治療回復を考えないといけないのではないでしょうか。「治療に専念させる」と言っても、回
 復途中の波が下振れしただけで、再休職ではたまりませんね。

A) 治ってから復職なのか、ある程度働けるようになったら復職なのか、その考え方の違いが大きいと言
 えますね。

C) ええ、ですから、復職の条件が何であるのかも、もう少しはっきりさせる必要があるのではないかと思
 うのです。

B) 休職に入るときの条件も厳しくなっていませんか。これまで7ヶ月中126日以上の欠勤があると休職
 に入るとされていましたが、新制度では4ヶ月で72日に変わっています。なぜ短くしたのでしょうかね。

C) 区分Eの規程は、ある意味もう少し厳しくて、欠勤日数が通算で60日に達すると、休職とされていまし
 た。連続欠勤3ヶ月で休職に入ることになります。

B) 両制度の折衷で、4ヶ月にしたと言う事でしょうか。

C) それはどうか分かりません。しかし会社は別に、欠勤が72日溜まるまで放って置くつもりで制度設計
 しているのではなくて、ここでも欠勤になる頃から休職を薦めるケースが多いはずですよ。復職後の場
 合と同じです。欠勤期間も実質的には休職期間ですから、7ヶ月が4ヶ月になることで、休職可能期間が
 3ヶ月短くなったも同じだと見るべきです。
  病状が進行する見込みは少ないけれど、長期間にわたって通院などの治療をしながら就労しなくては
 ならない場面もあると思うのですよ。だから本当は、休職が必要なケースかどうかを見極めて、働ける人
 は継続して働ける制度にしておいた方が良いと思うのです。

D) 私の職場に以前、疾病に罹って1年以上の長期療養をしていた方がいました。伝染性の無い病気で
 したし、入院が必要なほど重症ではなかったので、休職する前は、週に1〜2日くらい出勤して働いても
 らっていました。その1、2日が貴重でしたね。休職されると、誰かがその人の仕事を全部引き継がない
 といけないから、辛いのですよ。時々出社することが治療に悪影響を与えないのであれば、認めるよう
 にした方が、職場にとっても良いでしょうね。

B) 要するに、休職前にしろ、復職後にしろ、100%フルで働けないときに、ある程度休みながらも働き
 続けられる制度を設けるべきだと理解しました。これは慢性的な疾患や、しょう害についても言えますよ
 ね。

C) そうです。もう一つの問題は、治る見込みの無い疾病や、しょう害をともなう疾病をどうするかです。例
 えば脳梗塞によって不自由が残った場合とか、パーキンソン病のような有効な治療法の無い難病などで
 す。単純に休職すれば良いとの判断をされると、二度と復職の見込みはなくなります。
  現在、電機・情報ユニオンが扱っているケースの中に、病気のために半身の自由が効かず、就労が困
 難になっている労働者を救済するべく取り組んでいる事例があります。困難はあっても働ける限り、出来
 るだけの就労の場を保障させる活動は、社会の中における労働とは何かという本質的な問題を問うもの
 ですので、長い年月をかけても取り組んでいかなくてはならないと思っています。

B) 休ませて治療に専念させることも大事だけど、治療すれば完治するというモデルしか想定しない制度
 では困りますよね。心も体も普段は完璧に健康で、たまに病気になるという人は、恵まれていますね。年
 齢が増すほど、どこかに悪いところを抱えながら、体と相談しながら働き続ける人が増えるのではないで
 しょうか。やはり高齢化社会に向けて、半健康な労働者が働き続けられる制度の整備が必要ですね。
 そこにはおそらく、政府からの何らかの援助も必要だと思います。

A) メンタルヘルス問題を抱えた相談者も、電機・情報ユニオンに次々来ていますね。

C) いろいろな企業から相談者が来ますね。ソフトウェア関係は特にひどいとの印象です。職場でひどい
 パワハラなどのいじめに遭って、心に不調を来たしてしまうケースです。
  今、どこの職場でも、大抵メンタル関係で休職している方が1人2人はいるのではないでしょうか。しか
 も、そのまま休職期間満了で退職してしまう割合が多いと聞きます。人事異動通知の退職者に、以前か
 ら休職していた方の名前を見つけることがあります。なぜ退職に至ったのか、ほとんど誰も知らない内に
 辞めていかれるのですよね。本人のプライバシーを理由に情報が著しく制限されているために、会社の
 中にいて何が起きているか知る機会は、私たちにほとんど無いといえるでしょう。だから、電機・情報ユ
 ニオンに相談に来られた方から事情を伺うと、そのひどさに衝撃を受けるのです。現代の企業社会の裏
 側を見る思いですよ。

A) 相談者は大手からも来ます。必ずしもメンタルヘルス対策が整っていないからではありませんね。む
 しろ、運用そのものが、かなり密室で行われていて、チェックされないことに問題があると思えます。

C) そうですね。事例をひとつ挙げると、ソフトウェア関係の会社に中途採用された方で、ひどいパワハラ
 を受けた方がおられました。もともとは決して弱い人ではなく、むしろ人一倍忍耐強い方だったのですが、
 上司から離され、仕事を取り上げられ、新たな職場に編入されたところで”自分で仕事を探して来い”だ
 の何だのと命令されて、しかも毎日、さらし者のように長時間立たされ、怒鳴られ罵声を浴びながら、部
 長に進捗報告をさせられていました。それが延々続いたのち、とうとうメンタルに不調を生じてしまったの
 です。これだけなら、パワハラの問題だと言う事になりますが、ここから先はもっとひどいのです。
  この方が人事に相談したところ、ただちに休職するようにと指導され、休職に入ったのです。その間に
 通院し、生活リズムを整えて、産業医が復職可能と判断するまで回復したのですが、会社は復職のため
 の面談の設定を拒否して、本人の同意も無いまま、むりやり退職させてしまったのです。

B) いま、新入社員が会社の中で、ものすごいしごきに遭うという話があります。「ブラック企業」という言
 葉もありますが、しごきに適応できない者は、排除の対象になるのです。排除された人は、心をぼろぼろ
 にされているので、社会への適応力そのものを、大きく失ってしまうと言います。社会全体として、憲法も
 労働基準法もそっちのけの異様な厳しさに適応できない者を、メンタルヘルスを口実に企業の外に放り
 出す流れがあるように思えます。

D) ルネサスがどうなのかは分かりませんが、そういう非人道的なことが将来とも行われないよう、常に
 チェックする仕組が必要でしょうね。
  今回、会社は”治療に専念させる”とのコンセプトを出していますから、実態として治療できているのか、
 休職満了退職者の数や、休職者に対する割合とか、そういった数値なども、安全衛生委員会などを通じ
 て定期的にトレースすべきだと考えます。

B) 病気とか治療とか言う言葉を強調しすぎると、100%個人の問題であるかのように錯覚されかねま
 せんが、メンタルヘルスなどは、長時間労働とか、きついノルマとか、パワハラとか、職場にも原因のあ
 る場合が多いのではないでしょうか。根本問題の解決を遅らせるような休職制度では困りますね。

A) この問題も、別に機会を設けて、もう少しじっくり話し合う必要がありますね。