ルネサス懇、一時金を語り合う。

− 労使の責任 −

− 経営責任 −

A) さて、これまでは秋闘の行方について話し合いました。次に一時金とはそもそもどんなもので、どうある
 べきなのか、基本的なところをもう一度見直してみたいと思います。

D) いえ、少し待ってください。その議題に行く前に、責任問題についてどうしても話しておきたいと思います
 が良いでしょうか。

A) 結構です。どうぞ。

D) まずは経営責任についてです。秋闘の決着については、まだ先が見えていないし、ELにとって最低限
 のラインである2.25ヶ月は確保するかも知れません。しかし一時金の妥結額自体が低水準になっている
 のは、この会社の経営状況がそれだけ良くないからでしょう。その責任が100%経営者にあるとは言いま
 せんが、0%でもないですよね。一時金だけでなく、工場閉鎖や早期退職や、特約店への出向や職種変
 更とか、地方の拠点への異動とか親会社への移籍とか、もういろんなリストラもやり始めていますよ。親会
 社への移籍と聞くと「戻れてよかったね」と皮肉交じりに言う人もいるけれど、この10月頭に戻った人の中
 には、NECフィールディングだのロジスティクスだのと、いきなり関連会社へ出向になっている人が何人も
 いるんですよ。従業員が受けているこれだけのリストラも、この一時金の低水準も、結局は経営状況から
 来ているのですよね。ならば経営責任を全く追及しないなんて、おかしいではないかと思うのです。

C) それは私も感じています。特に昨年度は、ルネサステクノロジもNECエレクトロニクスも、どちらもものす
 ごい赤字を出しましたよね。ところが会社が統合されたら、過去の事は水に流れたかの様に問われなくな
 りました。だけど、こうしてリストラや一時金の低水準として引きずっているのなら、当然追求されるべきです
 よね。

B) 「だから会社統合したのだ」「だから100日プロジェクトをやるのだ。」と言うのはわかりますよ。だけど、
 「このプロジェクトをやり切るのが経営責任だ。」なんて言われると、居直りのようなものを感じますよね。
 だって、やり切るのは誰なんですか。そういう言い方をするのなら経営者だけでやり切って下さいよ。でも
 そうじゃないでしょ。

A) 経営の責任で重要なのは舵取りですよ。社内的に言えば、過去の経営に関して舵取りに問題が無かっ
 たのかどうか、解かるように説明するべきでしょうね。まずは経営トップから社員に、今まではこれが悪かっ
 たのだ、その理由はこうだ、そのためにはこうする必要がある、だからこれからはこうするのだと。それだけ
 で終わりではありませんよ。社員ひとり一人が、これからは何をどうすればいいのか、見えて来るようにな
 らないといけません。それには社員が問題意識を持つことは必要ですが、個人がばらばらに問題意識を持
 って考えているだけでは、答えは出てきません。そこまで落とし込むことも経営の責任です。実行するうえで
 必要な環境を整えることも、そうでしょう。

D) そうですね、まずは説明責任ですよ。ELの場合、ここ数年ずっとリストラをやっているという感覚です。
 その中で経営判断としてのブレや誤りは無かったのかと疑問に思います。EL時代にも何千人も社員が辞
 めているし、これからも国内で5000人くらい削減しようとしている訳でしょう。
  ELが独立してすぐに上場したでしょう。上場した当初は確か8000円くらいの株価をつけましたけど、そ
 れからどんどん下がり続けました。本当にあの判断は正しかったのでしょうか。それから情報システム改革
 でGBTに数百億円つぎ込みました。しかし造ったものの活かせませんでした。いま統合会社では、RT側
 のシステムに寄せられつつありますよね。いったい何だったのかという感じになっています。NFASの分社
 はどうでしょうか。単にリストラして終わったようにしか見えませんよ。それから2008年度には現場の派遣
 社員をほとんどゼロにしたのに、次の年にまた雇いましたよね。モロに雇用の調整弁ですよ。雇い主として
 のモラルを感じません。先端プロセスの扱いや、工場への投資もブレが無かったと言えるでしょうか。そし
 て昨年はフレックスを休止して、勤務時間管理を徹底してやり、仕事の能率を上げましょうなんて言ってい
 ましたが、何の成果があったのかわからない内に終わっています。そもそもEL発足当時、NECから独立
 することには社員の反発があったんですよ。せめてEL社とは何だったのかくらい、総括くらいしてくれても
 いいではないですか。

B) ELの株価はハタから見ても悲惨でしたね。実は春闘のとき、RTは一時金2.0ヶ月を確保しましたけど、
 ELよりも赤字額は大きかったのですよね。内部では、上場会社じゃないから難を逃れたんだという噂が
 ありました。社員にとっては、上場じゃなくて良かったのかも知れません。


− 労組の責任 −

D) もう少し話を続けさせてください。以上は経営の責任についてですが、労働組合の責任についても言っ
 ておきたい事があります。先ほども話しましたが、この春闘ではEL労組として初めてスト権を確立して臨
 みました。会社回答が2.0ヶ月を下回ったらストライキに入る予定だったはずですが、結果はストライキを
 せずに1.75ヶ月で妥結しました。だから、この冬の一時金で何とか2.25ヶ月を獲得して通年で4.0ヶ
 月を確保するのがEL労組のミッションと理解しています。もし取れなかったら、やっぱり責任問題になる
 でしょう。

C) そうかも知れませんが、どう責任を取りますか。

D) 職場の人の中には、幹部は辞めるべきと言う人も居れば、執行部全員が総辞職すべきではないかと
 言う過激な発言をする人も居ます。

C) 私は反対ですよ。酒井啓子という人が「イラク 戦争と占領」などの著作で書いている事ですが、サダ
 ムフセインが居なくなった後のイラク政府では、フセインの出自であったバアス党の党員を、国政からこと
 ごとく追い払ってしまった為に、行政が崩壊して、かえって国内が大混乱になったと言うのです。フセイン
 と比べるのは適当ではないかも知れませんが、総辞職というのは現実的ではないでしょう。こういう場合、
 大抵は委員長一人が退任し、残りは続投だと思います。さもないと労働組合の統制が混乱しかねないの
 ではないかと危惧します。それに委員長にしても、辞めるよりも先にすべき事がありませんか。ここでも求
 められるのは説明責任だと私は思います。

D) なぜ上手くいかなかったのか、説明はもちろん必要と思います。私が気にしているのは、いまのEL労
 組の組織形態です。今年の6月に執行委員の選挙がありました。毎度の事ですが、立候補者と定数が同
 数で、信任投票となりました。立候補者は執行部が選んでいる事は間違いないと思います。なぜなら、立
 候補受付期間前の広報が無いからです。正確に言うと、無くはないのですが、労組のホームーページの
 片隅の誰も気がつかないような場所にひっそりと掲載されていました。本来なら労組が普段使っているメ
 ールマガジンで通知すべきところです。きっと意図的に流さないのでしょう。執行部が執行委員のメンバー
 を完全にコントロールしたいからだと思います。その点で非常に閉じた組織だと言えます。それに、春闘の
 時に一度も職場会を開催しなかった事もあります。つまり一般組合員の参加を促さない組織形態なので
 すよね。そのような組織形態で運用しているのであれば、執行部の責任はそれだけ重いことになります。

A) 選挙の広報も流さないというのは、ちょっとひどいですね。いまどき自ら執行委員に立候補する人も少
 ないですから、職場からは文句は出ないのでしょうね。

D) 出ませんね。それでもここまで徹底するという事は、ただの1人でも自分たちの意図しない立候補者が
 出たら困ると考えているのでしょう。強烈な排外主義でもあるのでしょうか。そういう執行部に、お呼びで
 無いと知りながら、単身乗り込んで行こうと言う勇気は私にはありません。仮に選挙で当選して執行委員
 になれたとしても、ちゃんと会議の開催通知が自分に来るだろうか、役割を割り当てられるだろうかと不
 安になりますよ。
  とにかく、今のEL労組の執行部を遠い存在だと思っている人は大勢いると思いますよ。だからもし2.2
 5ヶ月を割って誰も辞めないと、ますます遠くに、私たち組合員とは相当に違う感覚で生きている人達の
 集団に見えてくると思います。

B) もしそうだとしたら、別に表立って責任を追求しなくとも、執行部はある種の制裁を受けていますね。現
 在執行委員をやってる人だって、これから退任して職場に戻ったら、「あの時の執行委員だった人」という
 認識を職場で末永く持たれるのではないでしょうか。

C) 私はもう労働組合を卒業してしまったので、感覚的によくわかりませんが、私の知っている元執行委員
 を見る限りでは、EL労組はそんなに変な組織ではないと思いますよ。それに一時金が低水準なのは、経
 営側の問題と労組の交渉力の問題と、どちらが主原因なのでしょうか。私は経営だと思っています。さっ
 き過去の経営問題を総括すべきと言う話をしましたよね。ならば労組がそれを徹底的に追求すれば良い
 ではないですか。そういう前向きな責任の取り方もあると思いますよ。

A) 経営問題の追及という点では、RT労組も同じでしょう。やはり過去の総括を徹底的に追及してほしい
 ものです。今の電機の労組は、経営問題に強いですね。彼らの特技を存分に生かしてもらいたいもので
 す。