ルネサス懇、抜本的構造対策を語り合う。

− まとめ −

【まとめ】

A) 本日は半日にわたる議論で、大変お疲れ様でした。まとめとしまして、本日皆さんから頂きましたご
 意見のエッセンスを、以下に列挙いたします。


 ・一時金は、半期1.0ヶ月が生活防衛ラインとしてぎりぎりである。

 ・会社発表の前に繰り返されたリストラ報道は、報道機関の姿勢がおかしいのではないか。

 ・報道機関が断定的に報じているのに、それに対し会社が事実関係の誤りを質せないのなら、報道内
  容が正しいと認めている様なもの

 ・早期退職の面談回数に明文化された規程は無いものの、常識的には2〜3回までが限度で、それ以
  上は退職強要になると考えられる。

 ・早期退職制度で一番気になるのが、退職強要が行われるかどうか。

 ・面談には回数制限が必要。

 ・かえって優秀な社員が早期退職で流出してしまわないか

 ・今回が前回と違うのは、早期退職をやれば会社が良くなるという希望がかなり失われていること。

 ・早期退職を含む構造対策によって会社の成長力が損なわれたからこそ、売上が伸び悩んだのでは
  ないか。

 ・前回1487名の退職でさえ、大きなダメージを受けたのだから、もし今回の早期退職でその4倍もの
  人員が退職してしまったら、本当に会社はボロボロになってしまいそう。

 ・部長は部下を守るために力を尽くすべきだと思うし、上と交渉してダメだったのなら、どう主張してどう
  ダメだったのかを、早期退職の面接に入る前に部下に説明すべき。

 ・ルネサスの生殺与奪は金融機関が握っていて、生きさせる条件は今年度の黒字化。

 ・金融機関が主導して人員削減をやらせているのだとすれば、その主たる結果責任は金融機関にあ
  る。

 ・ルネサス復活の確率を少しでも上げるためには、人を辞めさせてはいけない。固定費が減っても、そ
  れ以上に売上が減ってしまったら、結局利益だって出ない。

 ・臨機の対応の人件費カットを来年以降続けてでも、早期退職だけはやめる方が、マンパワーは損な
  われない分だけ再生の確率は上がる。

 ・ルネサスは人的資本の投資効率が悪い。こういう現象はビジネスそのものに問題があるのであって、
  人員を減らしても問題は解決しないばかりか、益々事態を悪化させることになる。

 ・解決方法としては、人員削減ではなくて、賃下げを容認した方が良い。賃下げを飲む代わりに、人的
  投資効率の悪い仕事を整理して、残業しなくてもやって行ける会社を目指す方に舵を切るべき。

 ・何をやろうにもお金がなくて、開発が滞ってきている。

 ・工場のリストラは、費用面でどのような効果があるのか根拠が全然示されていない。

 ・とにかく「勝てる確率」を上げること。

 ・赤尾社長が5月に言及した会社の構造的問題が明らかになっていない。ルネサスの構造的問題に
  ついても、なぜなぜ分析が必要なはず。真の原因を見つけて対処しないと、この会社の構造的問題
  はいつまで経っても解決しないし、いつまで待っても売上を拡大できる会社にならない。

 ・今回の抜本的構造対策は、要するに構造的問題を解決するためのものではない。

 ・外部の金融機関の思惑にしたがって行う工場縮小と人員削減が、今回の抜本的構造対策。

 ・ルネサス再生の確率を上げるためには、内政面の改善だけでなく、経営戦略において勝てるシナリ
  オが無いとダメ。

 ・持てる経営資源を効率的に使える市場の切り取り方があるはずで、それが勝てるシナリオの前提に
  なる。

 ・ルネサスの場合はお金がないので、まず外部からの調達は必須。

 ・ルネサスにとって最大の経営資源が人である事は間違いない。

 ・自分でやろうとする事と、自分だけでやろうとする事の違いがポイント。自分だけでやろうとするから
  失敗する。

 ・設備の老朽化も、小規模の工場で量産効果が出ないことも、受注が減って稼働率が落ちていること
  も、工場の労働者の努力ではどうしようも無いことであり、彼等の責に帰すべき事ではない。

 ・企業の雇用責任という意味では、より多くの人が継続して働ける場を提供すべき。地元の職業訓練
  を援助したり、雇用拡大のための支援金を自治体に出す等。

 ・経営状態がどうであれ、企業の社会的責任は免れ得るものではない。

 ・再生のためのシナリオを再度練り直す必要がある。この会社にある構造的な問題にも切り込んで、
  市場を睨みながら、勝てるシナリオの作成が求められる。それが経営者の責任。

 ・産業を育成するのが金融機関の役割。

 ・半導体と言うのは、開発期間が短いもので数ヶ月、長いものなら数年かかるし、それが量産として
  立ち上がって、ある程度の数量が出るまでには、やはり2〜3年くらい必要。

 ・100日プロの時点で、注入された資本が足りなかった。たった2000億円の増資で、わずか2年で
  会社の経営を立て直せと言われてしまった時点で、「負けの流れ」が始まっていた。

 ・半導体産業は、ワールドワイドで25兆円の産業だが、半導体の組み込まれた製品を造る産業や、
  それを利用したサービス産業、半導体製造装置産業や素材産業などを合わせると、500兆円もの
  産業となる。

 ・今回の工場の閉鎖や縮小で、関連する中小企業に倒産するところが出るかも知れない。

 ・ルネサスという個社の、2012年度単年度の決算が赤字だとの理由だけで、工場閉鎖をして良いの
  か。産業全体の発展を考えたり、どこで儲けるかを考えたりするのが産業政策ではないのか。

 ・金融機関が産業を育成する責任を忘れて、単なる金儲け追及ばかりしているのではないか。

 ・労働組合の責任は、雇用を守るために知恵を絞ること、会社のリストラの妥当性を厳しく追及するこ
  と、退職強要を防ぐこと。退職強要を受けたときの相談窓口の開設が必要

 ・上に対して「No」と言えない、上が責任やリスクを取らない構造がある。

 ・末端が辛苦を吸収すると同時に、本来は上が取らなければいけないはずの責任が解消し、無責任
  化、無罰化されている。

 ・下が「罰」を受けることで責任が解消する無責任構造があるとすれば、下の者は「罰」を受けたくない
  から「隠す」しかなくなる。

 ・封建的資本主義から脱却して、もっと民主的な資本主義に移行しないと、日本経済も構造的な問題
  を一向に解決出来ないまま、益々地盤沈下をしていく。



  今日はこのように、多様なご意見をたくさん頂きました。日本の半導体産業は50年余の歴史を持ち
 ますが、おそらく今が歴史の一大転換期であることは間違いないでしょう。月刊経済の7月号で、名古
 屋経済大学名誉教授の坂本雅子氏が、「電機・半導体産業で何が起きているか」と題した27ページ
 にわたる大論文を掲載しています。内容の詳細は省略しますが、氏は日本半導体の凋落の原因には、
 アジア企業への安易な技術移転・流出があったと分析しています。氏の最終的な主張は、自国の技
 術を保護すべきとの技術ナショナリズム的な結論に至っています。もともとトランジスタもそれをシリコン
 ウェハー表面に集積する技術も、アメリカで発明されたもので、これを日本が輸入した経緯を思い出せ
 ば、半導体に関し技術ナショナリズムを強調することが本当に正しいかどうかについては疑問が生じま
 すが、現在においてもルネサス社内に優秀な技術者や優れたスキルを持った労働者が多く働いてい
 るのは事実で、これが今のルネサス社にとって最大のかけ替えの無い財産である事は、本日議論し
 てきた通りです。
  資本と一口に言えば、資金の事を思い浮かべますが、過去の資本を投入した結果としての技術やス
 キルを持った人の存在もまた、目には見えなくとも貴重な資本たり得るものです。この人と言う資本は、
 会社の中で生産手段と結びつくことで半導体という商品を生み出すことが出来ますし、人と人とが結び
 ついて作り出す組織がまた、新たな付加価値を生む源泉でもあります。しかし、その人も、個々にばら
 ばらに切り離されたり、半導体生産の場から離れる事になれば、途端にその価値を大いに失います。
 人や組織が技術を蓄積するのには長い年月が必要ですが、失われるのは早いものです。私たちはこ
 の財産を簡単に失って良いのでしょうか。私はこれを守り次世代に残していくべきと考えています。優
 れたスキルを有した労働者を大量に失う工場閉鎖で本当に良いのか、優秀な技術者集団を解体する
 早期退職が本当に正しいのか、失われる財産の大きさを考慮に入れて判断すべきだと思います。
  さて、先ほど言及した坂本論文に対し、電機労働者懇談会の幹部役員からは、「日本の電機・半導
 体産業凋落の原因は円高・ウォン安であり、アジア共通通貨があれば、日本製品は今でも競争力が
 あるのだ」との主張がされています。また、その主張に対し、別の若い役員からは、その考え方は戦前
 の大東亜共栄圏と何か本質的な違いがあるのかとの疑問も出されています。
  そういう議論も大いに結構でしょう。歴史的大転換期であれば、先を見通すのも困難です。今は、何
 か正しい解を見つけようとするよりも、間違っていてもいいから、こうではないかとの主張をする方が良
 いと私は思います。その意味で、本日の論議の中で、Bさんからは封建的資本主義のお話がありまし
 たね。また、Cさんからは、金融機関や政府の問題への重要な指摘がありました。いずれもルネサスと
 いう個社の浮沈を超えた視点からの考察で、良かったと思います。
  ところで、本日出てきた金融機関や政府の責任に対する追求は、ルネサス自身が資本さえあれば再
 生できる事を前提にした主張です。ですが、その前提が正しいという保障はありません。本当は、例え
 ば既に技術的アドバンテージが失われていたり、あるいはマーケッティング力などで致命的な欠点を抱
 えていて、どんなに資本を注入しても、今のままでは再生しない可能性も否定はしません。そうした理
 由から、ルネサスという会社は、早晩市場から姿を消す運命にあるかも知れませんと言ったらみなさん
 は怒りますか。いや、そうじゃないと。ルネサスは必ず復活するのだと。多くのルネサス関係者は、私も
 含めてそう信じたいに違いありません。
  では、仮に復活したとしても、半導体市場そのものが新興国を中心に拡大している現状を鑑みれば、
 復活したルネサス社が長期にわたって繁栄していく上では、新興国を中心とした積極的な雇用は不可
 避で、日本国内の雇用は相対的に減少して行くに違いありません。では、やはり国内工場の閉鎖や、
 国内雇用者の早期退職も不可避なのでしょうか。それが嫌なら、我々が海外に出て行くしかないので
 しょうか。私は、そこで諦めてはいけないし、そこから先を考えるのがルネサス懇としての役割だと思っ
 ています。
  本日議論した中では、金融機関や政府の責任を追及する話がありましたが、それは重要な突破口
 だと思います。特に産業政策という観点から何らかの施策が必要ですし、それは工場のある地方自治
 体の訴えにも呼応するものです。また、今のところ会社の立場は、ルネサスという個社の存続を第一
 にする位置にありますが、すでに今回発表のリストラが実行されればルネサスの何割かが失われるの
 は間違いなく、なおかつそれで再生できなければ、更に何割かを失う可能性もある状況にあっては、
 ルネサス社の存続を「絶対善」とする考え方には疑問を持ちます。究極の選択になりますが、ルネサ
 スという個社の存続と、ルネサスの持つ事業の存続と、我々にとってより重要なのはどちらでしょうか。
 私は事業の存続だと考えています。
  現時点では、会社の発表した内容は大リストラの輪郭と言える範囲に留まっており、具体的な内容
 には乏しいため、詳細な検討は、それらが明らかになってからにしたいと思います。それと早期退職に
 ついても、退職強要を防止するための対策を考えなくてはなりません。近日中にまた召集をかける事
 になると思いますので、その時にはよろしく御願いいたします。本日は長時間ありがとうございました。