ルネサス懇、抜本的構造対策を語り合う。

− 責任問題 −

【責任問題】

A) ここで責任問題に触れておきたいと思います。5月の社長メッセージは、この会社の経営自体に問
 題があったと認める内容になっていましたから、その後社長や経営幹部の責任を追及する声がすごい
 です。そこで責任問題について、みなさんのご意見を伺いたいのですが、議題として私は3つの責任を
 取り上げたいと思っています。1つ目は企業の社会的責任です。具体的には雇用責任と地域経済への
 責任についてです。それから2つ目は、経営者の経営責任についてです。そして3つ目は、外部の金
 融機関や政府の責任です。
  ではまず、1つ目の企業の社会的責任からです。工場閉鎖や縮小のニュースで、工場のある地元は
 どこでも、工場は継続されるのか、雇用は維持されるのかと、大問題として取り上げています。ところが、
 首都圏にあるルネサス本体では、工場を心配する声は残念ながら小さいのが実態です。設備が老朽
 化し稼働率の落ちている工場を閉鎖するのは必然の流れであるとか、会社の経営が傾いている以上、
 仕方の無いことだと多くの人は捉えていると思います。それを間違いだとは言いませんが、納得できな
 いものも感じます。その最たる理由は、設備の老朽化も、小規模の工場で量産効果が出ないことも、
 受注が減って稼働率が落ちていることも、工場の労働者の努力ではどうしようも無いことであり、彼等
 の責に帰すべき事ではないからです。そうであるにも関わらず、最も辛い目に遭うのが工場の労働者
 であることを、純粋に理不尽だと私は思います。労働者の受ける辛苦、そして地元に与えるダメージの
 大きさを考えれば、この上で果たすべき企業の責任についても考えざるを得ません。

B) まず、工場の閉鎖は極力最後まで避けるべきでしょうね。例え売却してルネサスとは別会社の工場
 になったとしても、存続されるのが優先です。それが出来なければ、縮小しても残すことを考えて欲しい
 と思います。外部からは、規模の小さい工場が沢山残っているのは非効率に見えると思うのですが、無
 理やり統合して工場を減らしさえすれば効率が上がるものなのでしょうか。私にはちょっと信じられませ
 ん。高知には、他工場では造れない製品が多数流れていると聞きました。これを無理やり西条の8イン
 チに持っていくのは、相当に骨の折れる仕事だと思います。確かに8インチにインチアップすれば、生産
 効率も上がるので、生産数量が多くて、かつ移管が容易な製品を何品種か選んで持っていくだけで効
 果はあると思います。あとは高知に残しておけば良いのではないでしょうか。

D) 早期退職制度を、工場の人はどう受け止めているのでしょうか。もう先の無い工場なら、これを機会
 に退職して、次の働く場所を見つけた方が良いと考えるのでしょうか。早期退職制度の中に、再就職支
 援会社を利用可能と書いてあるのですが、これは工場でも利用可能なのでしょうか。仮に利用できると
 して、まともな再就職先の斡旋はあるのでしょうか。
  企業の雇用責任という意味では、より多くの人が継続して働ける場を提供すべきだと思います。私に
 は、地元の職業訓練を援助したり、雇用拡大のための支援金を自治体に出すとか、もっと積極的な支
 援が必要な気がします。

C) 経営状態がどうであれ、企業の社会的責任は免れ得るものではありません。日本の製造業が地方
 に工場を建設したのも、元は安い人件費や税負担の軽減などを求めてのことです。利益を上げるだけ
 上げて、採算が合わなくなったらハイさようならでは困りますね。BさんやDさんの意見に賛成です。
  それと、地元の自治体の側に問題は無かったのでしょうか。半導体の生産には、もともと地産地消と
 いう概念は無くて、その土地の風土とか文化とかとは、ほとんど無関係です。そういう産業は、工場が
 無くなれば地元には何も残らないのですから、最初からそれを承知しているべきだと思います。
  だから、企業の調子の良い時に回収した税金で、じゃんじゃん道路や箱物などの過剰なインフラ設備
 を造るのではなくて、未来のために本当に地元に根付いた産業を育成することにお金を使うべきだと
 思うのです。

A) では、2つ目の経営責任に行きましょう。過去の流れから言って、赤尾社長が退任されるのは時間
 の問題ではないかと思いますが、相当に厳しい声が職場から上がってきているようですね。労働組合
 の追及が弱すぎるとの意見もあります。どう思いますか。

D) 今にして思えば、社長が誰であっても上手く行かせるのは難しかったと思います。私が恐れている
 のは、次の社長が誰なのかです。赤尾社長は、旧NECELの社員には、必ずしもウケが良くないよう
 です。山口前会長が、熱心に毎週メッセージを発信したり、現場に足を運んでいたのに比べて、赤尾
 社長の姿が見えないことが批判の元になっています。本当は山口さんの方が特異で、赤尾社長の方
 が普通な気もするのですけどね。まじめだけど少し不器用なところがあるとの印象です。2年前に、週
 刊ダイヤモンドのインタビューに答えて、「50年後もその先も、存続できる会社の”礎石”を築きたい」
 と言っておられるのを見て、ああ赤尾社長は半導体を愛しているのだなと思いました。今どき、大企業
 のトップには「利益、利益」って言う人が多いですからね。事業を存続させたいという赤尾社長の意思
 表明は良いなと思いました。これって大事なことですよ。次の社長が誰であれ、半導体を愛していない
 人には就任して欲しくないですね。
  それと、赤尾社長には、今の事態に至ったのは自分の責任だとの思いがあると思うのです。だから、
 社員が痛みを感じるようなリストラは、極力避けたいと考えると思うのです。ところが、仮に外部から社
 長を招聘すれば、その人には今の事態に至った責任が自分に無いだけでなく、末端の従業員に至る
 まで、すべて責任があると考えて、情け容赦のないリストラを断行するかも知れません。だから、私とし
 ては今この局面での社長交代は望みません。

C) 私はさっき、この会社の再生には資金が不可欠だと言いました。現時点における経営者の責任は、
 外部から資金を調達してくることではないでしょうか。だけど、赤字を続けている会社を信用して貸して
 くださいと言うのにも限度がありますね。だから再生のためのシナリオを再度練り直す必要があるので
 はないでしょうか。この会社にある構造的な問題にも切り込んで、市場を睨みながら、勝てるシナリオ
 の作成が求められます。それが経営者の責任だと私は考えます。

B) 私にとって分からないのは、構造的な問題への気付きが何故これほど遅れたのかと言うことです。
 そのこと自体、構造的な問題が影響しているのでは無いかと思いました。正しい情報が上に伝わって
 いるのかなあと、疑問に思うのです。このような事態に至った責任が社長だけにあるとは思えないの
 ですよね。経営責任を拡散させてしまうのは良くないのですけど、今のままだと、社長だけ交代しても、
 本質的には何も変わらないのではないかと言う気がします。

A) では最後に3つ目の金融機関や政府の責任についてです。工場閉鎖も早期退職も、金融機関が
 やらせている可能性が高いとの話が出ました。そうであるならば、その結果の主たる責任は、金融機
 関にあるとも言えます。みなさんはどうお考えですか。

C) 以前、何かの論議の際に、産業を育成するのが金融機関の役割だと言った気がします。ところが現
 実はどうでしょうか。単に金儲けを追及する機関になってしまっていませんか。以前、大銀行が消費者
 金融の資金源になっていて、しかも取立ての仕事まで手伝っていた事が話題になったことがあります。
 お金の儲かる融資先であれば、何でも構わないという事でしょうか。
  震災を機に、顧客にも2社購買化の動きが出てきて、車載用の半導体の商談がライバルであるフリー
 スケール社に行っていると聞きますね。でもまだフリースケールにシェアを取られていません。それは、
 現在の商談が実際に量産となって寄与するのが4,5年先だからだと言われています。そうなんですよ
 ね。半導体と言うのは、開発期間が短いもので数ヶ月、長いものなら数年かかるし、それが量産として
 立ち上がって、ある程度の数量が出るまでには、やはり2〜3年くらい必要なんです。
  100日プロジェクトで成長戦略を描いたときに、本当は4〜5年くらいのスパンで描きたかったのでは
 ないのでしょうか。ところが、外部ステークホルダーの信頼を得るために、2年で高い利益率を上げる絵
 を描かなくてはなりませんでした。今回もそうですよね。2014年には、2桁の利益率必達としています。
 これが達成可能だと、果たして社内の何%の人が信じているでしょうか。そういう無理な絵を描かせる
 側の責任は、もっと問われて良いと思います。

B) いま、100日プロジェクトの話が出ましたが、あの時資本注入をしたのは親会社でした。NEC、日立、
 三菱から増資によって約2000億円の資本を得たのですが、実はこれらの使途はほとんど決まってい
 ました。まずNECELが持ち込んだ転換社債の償還に1100億円、それから早期退職に200億円余り、
 鶴岡工場などの減損処理にも大金を使いました。結局のところ、これらで殆どを使ってしまって、開発費
 や設備投資には、あまりお金が使えませんでした。売上を拡大するうえで、大変な足枷をはめられてい
 たと思うのです。もちろん、震災で更に500億円以上が失われたことは想定外でしたけれども、100日
 プロの時点で、注入された資本が足りなかったのではないでしょうか。たった2000億円の増資で、わ
 ずか2年で会社の経営を立て直せと言われてしまった時点で、「負けの流れ」が始まっていたのではな
 いかと、今さらながらに思います。
  あのとき、親会社以外からも、もっと資金をかき集めなくてはいけなかったのではないでしょうか。なぜ
 それが出来なかったのでしょうか。サムスンなどは、財閥の財力と経営判断で、ドンと投資するから、事
 業拡大に成功したのではないですか。

D) 半導体産業は、ワールドワイドで25兆円の産業ですが、半導体の組み込まれた製品を造る産業や、
 それを利用したサービス産業、半導体製造装置産業や素材産業などを合わせると、500兆円もの産業
 になります。本当に産業のコメと言われるとおり、産業全体を支える基幹的な位置にあります。そういう
 産業なのだと言う話を、山口前会長もされていました。 だから、そのような基幹産業をどうするのかとい
 う産業政策が必要だと思うのですが、民主党政権になってから、自民党政権時代以上に、産業政策が
 無くなっていませんか。
  今は、半導体産業が莫大な設備投資を前提としているから、株式市場からお金を調達しないといけな
 いし、バクチみたいな産業であるが故に、高い利益率が必要にもなっているのですが、そこを何とかでき
 ませんかね。やっぱり公的機関の力で育成すると言う面がないと。そもそも本当に全ての半導体事業が
 ボロ儲けしなくてはいけないのでしょうか。半導体産業50余年の歴史の中で、製品も多様に分化して来
 ました。ディスクリートや汎用リニアなど、随分昔に開発を終えて、減価償却の終わった古い製造装置で
 造っているものもあります。こういう製品が、これから急拡大することは無いと思いますが、産業を底辺で
 支える部品として、それらを生産する国内の工場とともに極力残すことを考えるべきではないのでしょう
 か。
  東京商工リサーチの調べでは、ルネサスが売却・閉鎖する予定の10工場や一部ライン閉鎖をする工
 場と取引のある企業は全国で3200社にも上るとのことです。日本の産業全体に与える影響が甚大で
 はないですか。それこそ基幹産業ですよ。今回の工場の閉鎖や縮小で、関連する中小企業に倒産する
 ところが出るかも知れません。それなのに、ルネサスという個社の、2012年度単年度の決算が赤字だ
 との理由だけで、本当にこんな工場閉鎖をしても良いのでしょうか。産業全体の発展を考えたり、どこで
 儲けるかを考えたりするのが産業政策ではないのですか。
  金融機関も同じですよ。大銀行なら、産業全体で考えないと。なんで瀕死のルネサスに、首切り用の
 お金だけを融資して、半導体事業の特性も無視して、2年後のV字回復を求めるのですかね。バブル崩
 壊後に、銀行が不良債権の処理に窮したとき、公的資金を投入しましたね。それで復活した銀行が、単
 なる目先の金儲け追及機関になり果てているとしたら、一体あの公的資金投入の意味は何だったのだ
 ろうかとさえ思います。

A) 金融機関が産業を育成する責任を忘れて、単なる金儲け追及ばかりしているのではないかとの指
 摘ですね。現在では、地方の信用金庫の方が、大銀行よりも産業を育成しようと真面目に取り組んで
 いるとの話も聞きます。責任問題については以上とします。ありがとうございました。

D) 労働組合の責任は問わないのでしょうか。

A) 労働組合について言えば、組合員の生活防衛という視点を打ち出している点は評価しています。こ
 れから期待するのは主に3点です。1つはとにかく雇用を守るために知恵を絞ること。1つは、会社のリ
 ストラの妥当性を厳しく追及することです。そして残り1つは、早期退職で退職強要が無いかを徹底して
 見張ることです。他に何かありますか。

D) それで良いと思います。その責任を果たして欲しいです。早期退職は、面談回数を制限しないとだめ
 でしょう。それと、退職強要を受けたときの相談窓口の開設が必要です。

B) 組合費は安くならないのでしょうかね。組合収入の大半は役員の人件費に消えている訳でしょう。
 役員も賃金カットになるはずだから支出は減るはずです。組合員の賃金カットで収入も減りますが、一
 時金からは組合費を徴収しないから、支出の減少分の方が多いと思うのですよね。差し引きで、1割く
 らい減額して基本給の1.8%になりませんかね。

D) 早期退職で組合員が退社すると収入も減るから、やっぱりトントンのような気がしますよ。

B) 残念です。