ルネサス懇、抜本的構造対策を語り合う。

− 抜本的対策の輪郭−早期退職 −

【抜本的対策の輪郭 − 早期退職】

A) 話を早期退職に戻します。先に制度の中身を少し見ておきましょうか。一番気になるのが目標とされ
 ている5千数百人という人数の多さです。個社の時代にELは685名、RTも約600名の早期退職者を
 出し、1年半前も1487名が応募しました。これだけやっておきながら、今回は前回をはるかに上回る
 人数を募集すると言います。

C) 目標人数がはっきりと設定されているあたりからして、今までとは違いますね。

A) しかも5千数百名の応募が事業運営上必要で、「これを達成すべく不退転の決意で臨む」と会社は
 言っています。はじめに数値目標があって、何が何でも実現すると言うのです。一体どうやって実現す
 るつもりなのか、それこそ苛烈な退職強要をがんがんやって、数多くの従業員の人格を再起不能なま
 でにぼろぼろに破壊してでも絶対に達成してやるとの意志表明なのかとも受け取れ、大変な脅威を感
 じます。退職強要の可能性については後で論じる事にして、次に対象年齢を見てみましょう。
  募集年齢が前回と比べて若年層に拡張されています。総合職や監督職は35歳以上で、専任職は3
 0歳以上となっています。ほとんどの方はこの年代に含まれると思います。要するに入社年次の浅い一
 部の方を除いて、ほぼ全ての方が対象になっています。

B) RT時代の早期退職が50歳以上で、前回が40歳以上でした。やるたびに若年層に範囲が拡大して
 いますね。想定人数が5千人を超えているのですから、これくらいにしないと集まらないと思われている
 のでしょうね。ここにも、何が何でも目標人数を達成するのだとの意気込みを感じます。

D) 40歳以上だと、何か特別な技術を持っていない限り再就職も難しいから、転職には躊躇するのが普
 通だと思います。30代だと、ルネサスに見切りを付けて、割増金を幸いと受け取って出て行く人いるので
 はないでしょうか。

B) 再就職が難しいのは、35歳以上とも言われています。ふつう簡単に転職は考えないでしょう。

C) 前回の早期退職では、私の知り合いが取ったのですが、それから1年くらい就職先が見つからなくて、
 ようやく特許関係の職を得たと聞いています。給料はルネサス時代と比べて格段に下がったそうですが、
 50代だし夫婦2人の生活なので、それほど問題はないとも言っていました。自分の経験の生かせる職に
 就けた人は、まだ良いほうで、タクシーの運転手になった人も居ます。重労働の割に賃金は低いですね。

A) プレミアムについては、どうでしょうか。前回の早期退職では最大で40ヶ月分の割増がありました。今
 回は36ヶ月に減っています。言うまでもないかも知れませんが、36ヶ月には一時金や残業代や年金へ
 の積立分などが含まれないので、年収の3年分ではありません。

C) 前回よりも減るだろうとは思っていましたので、その点は予想通りでした。57歳以上は、前回同様に
 残月数分の月収が支給されます。57歳以上は辞めてくださいと言う事ですね。実際、早期退職で辞めて
 アルバイトをしてもいいかなと言う気がします。前回の早期退職のときには、無年金期間を雇用延長でカ
 バーしたいが故に会社に残った人も結構居たと思いますが、今回はどうでしょうか。会社がこういう状況
 になって来ると、諦めて退職を選ぶ人が増えるのではないかと思います。
  それとセカンドキャリア制度取得者に対する退職時のプレミアムも、前回が10%だったのに比べて今
 回は20%に増えています。雇用延長者も、この機会に辞めてくださいと言われているようですね。

A) 今回の募集期間が9月18日以降に設定されています。夏休み明けから面談が始まるとして、面談の
 期間は1ヶ月しかありません。前回は、1月募集で前年の11月から面談が始まっていましたから、期間
 がずいぶん短いですね。

D) 早期退職の目的が人件費の削減でしょう。5千数百人を退職させると年間で430億円の削減を見込
 むとされています。12年度中に、ある程度の成果を刈り取ろうと思えば、出来るだけ早く退職させないと
 いけないため、退職日を10月末に定め、そこからスケジュールが決まっているのでしょう。

C) 面談期間がわずか1ヶ月と言うのは、ある意味ありがたいですね。この期間が長期化すると、それだ
 け退職強要の心配が増すことになりますから。
  NECでは、1万人のリストラを実行中です。5月から早期退職の面談を行っているのですが、各地の職
 場から退職強要を受けているとの悲鳴が上がっています。本人が退職の意志が無いことを示しているに
 も関わらず、執拗に何度も面談をするケースが多々あります。5回も6回も面談を受けたという人がたくさ
 ん居ます。一番多い人では、2ヶ月間で9回面談されたと言います。あまりにもひどいので、労働基準監
 督署に行って、次長(署長に次ぐ役職)に直接お話を伺ったところ、面談回数に明文化された規程は無
 いものの常識的には2〜3回までが限度で、それ以上は退職強要になるのではないかとの見解を頂き
 ました。

A) やはり一番気になるのが、退職強要が行われるかどうかです。これまでのNECの動向を見ると、明
 らかに上司のためのマニュアルがあって、それに従って違法と判定されないグレーな領域を最大限利用
 しながら退職に追い込んでいるのではないかと考えられます。明確な退職強要は違法だが、退職勧奨
 は合法だから、いくらやっても構わないとでも思われているのでしょうか。
  ルネサスでは、前回の早期退職のときに面談回数を2回までと制限しましたね。原則は2回まで、2回
 目までで本人が退職を希望した場合などは例外的に3回も可としておかないと、歯止めが利かなくなりま
 す。今回も回数制限が必要でしょう。

B) もう一方で気になるのが、優秀な社員が流出してしまわないかと言う事です。前回も、「この人が」と
 思うようなキーマンが、何人も退職してしまいました。その方がご担当されていた開発プロジェクトを引き
 継げる人が居なくて、頓挫してしまったケースもあります。ルネサスの売上が伸びていない原因の一端
 は、そこにあるのではないかと私は疑っています。
  それでも前回は、ルネサスは100日プロジェクトで復活するのだとの希望がありました。今回が違うの
 は、希望がかなり失われていることではないでしょうか。沈没する船と運命を共にするよりは、救命ボー
 トがある内に脱出を図りたいと考える人が、かなり出てきそうです。

D) 同感です。会社は100日プロジェクトの構造対策と統合シナジー効果については、計画を上回る成果
 をあげたけれど、成長戦略が出来ていなかったと言っています。だけど、早期退職を含む構造対策によっ
 て会社の成長力が損なわれたからこそ、売上が伸び悩んだのではないのでしょうか。だいたい100日プ
 ロジェクトの総括が「固定費は予定以上に削減できたが、売上がそれ以上に伸びなかった」なのに、何
 でまた固定費の削減なんですか。矛盾しているじゃないですか。なぜ売上拡大に全力で取り組もうとし
 ないのか。
  とにかく、前回1487名の退職でさえ、これだけのダメージを受けたのだから、もし今回その4倍もの人
 員が退職してしまったら、本当に会社はボロボロになってしまいそうです。たぶん優秀な人ほど、こんな
 施策でルネサスが復活するなどと信じていないと思うのですよね。もうここらが潮時だと判断すると思う
 のです。

A) 優秀な社員が、前回の何倍もの人数で抜けてしまうのは避け難いでしょう。その意味では、早期退
 職を実施することが本当に正しいのかどうか疑問が沸きます。

D) 私もそう思います。ところが、早期退職の正しさを多くの人が疑っているにも関わらず、この施策が淡
 々と現場に下りてくるのではないかと私は予想しています。職場毎に人員割り当てを決められて、「全社
 で決まったことだから」、「ノルマだから」、「他にどうしようも無いから」、「他部門もみんな痛みを分かち
 合っているのだから」と、粛々と退職勧奨が行われるのではないかと。6月の「臨機の対応」では、何度
 も職場説明会がありましたが、あれも部長が淡々と説明するだけでしたよね。

B) 自部門には退職させられる人員は居ないから、やめてくれと言って、上と闘える部長が何%くらい居
 るでしょうか。私は、少なくとも部長は部下を守るために力を尽くすべきだと思うし、それでダメだったの
 なら、どう主張してどうダメだったのかを、早期退職の面接に入る前に部下に説明すべきだと思います
 よ。それくらいやらないと、部下に信頼されて職場を統率することなど出来ないと思います。

A) 過去には、そうやって部下を辞めさせられず、自分が辞めた部長も居たと聞きます。

D) 今回の早期退職なんて大いに疑問の余地があるから、自己主張の出来る部長は上に文句を言うと
 思いますよ。そういう部長こそルネサスには必要と思うのですが、耐え切れなくて大勢辞めてしまうかも
 知れませんね。逆に、上に向って文句一つ言わない小者が、部下を退職させて自らは保身して、会社に
 残ったりして。結局辞めるのは、優秀な社員と、優秀な管理職ですかね。

A) 人件費削減430億円という数字が出ているのですから、どの役職からどのくらい退職させる等のめ
 ぼしは既に付けてあると考えた方が良さそうです。5千数百名で430億円という事は、想定退職者の平
 均年収は500万円を超えます。工場労働者だけでなく、管理職クラスも相当にターゲットにされていると
 考えられるでしょう。

C) 前回も部長クラスが100人近く辞めましたしね。しかしどうでしょうか。私は5千数百名のうち、中心に
 なるのは工場からの退職者だと予想しています。そして残りも、ルネサス販売などの関連会社が多くて、
 首都圏は管理職と定年に近い層が中心で、技術部門については、かなり残されるのではないかと思い
 ます。ここは削れないでしょう。

D) 夜の20時過ぎに玉川事業所の31、40、50号館を見に来て下さい。顔色の悪い人、疲れた表情の
 人だらけですよ。あの表情を見るにつけ、もう限界だと思うのです。これ以上人員が減ったら、今でも滞っ
 ている業務が、更に滞ると思います。

B) 武蔵から玉川の設計部門に仕事で問い合わせをしても、ちっとも答えが返ってこない事が多いので
 すよね。きっと返信している余裕も無いのですね。