ルネサス懇、抜本的構造対策を語り合う。

− 抜本的対策の輪郭−工場のリストラ −

【抜本的対策の輪郭 − 工場のリストラ】

A) 「臨機の対応」については、以上としておきましょう。ここからは「抜本的構造対策」についてです。
  ご存知のように、5月の業績発表以降、工場の売却・閉鎖や人員削減について、マスコミで度々報道
 されてきています。報道の中には、鶴岡のTSMCへの売却など、具体的な工場名や売却先の企業名ま
 で明らかにしているものもありました。また、人員削減規模では、5月22日に5500人と報じられたあと、
 5月26日には1万2千人とか、1万4千人と言った数字が出てきて、あまりの数字の大きさに衝撃を受け
 ました。ところが会社からは、新聞報道から1ヶ月半もの間、何ら具体的なものは示されませんでした。
 そして7月3日の合同労使協議で、ようやくその輪郭とも言うべきものが明らかになりました。
  会社から示されたのは、全国18拠点のうち、那珂、西条、川尻、北セミ米沢の4工場を除く全ての工場
 の譲渡(売却)・集約・縮小と、グループ全体で5千数百名の早期退職実施です。これらの細部について
 は不明な部分が多いとは言え、ほぼマスコミでリークされてきた内容と同じであり、改めて職場には不安
 が拡大しています。

C) いよいよ地獄の釜の蓋が開きましたね。

D) 2008年にNECエレクトロニクスが早期退職をやったときも、事前にマスコミ情報が出て、「何で社内
 よりも社外の情報の方が早いのだ」という怒りの声がありました。あれから今日まで、リストラがあるたび
 に、外部の報道によって事前にキャッチされてきました。
  外部報道には主に2パターンあって、会社発表の直前にすっぱ抜かれてしまうケースと、NECエレクト
 ロニクスと東芝の合併のように、噂のレベルで何時の間にか立ち消えになってしまうケースです。しかし
 今回が異様なのは、会社が発表する1ヶ月半も前から何度も繰り返し報道されていたのに、実際の会社
 発表がマスコミ報道をほぼなぞる内容だったことです。

B) 外部の報道がある度に、会社のホームページには「当社が発表したものではありません」との注意書
 きが載りました。私も会社の言うとおり、憶測報道であって欲しいと、嘘であって欲しいと願っていました。
 しかしそれは虚しい期待でしたね。
  それにしても、リストラだ、リストラだと繰り返し騒ぐかのような外部報道が、ひどく社員の神経を逆なでし
 ていた様にも見えました。それと同時に、社内外に対する不信感が募りましたね。社内でもほんの一部の
 要人しか知り得ないような情報が、どうして簡単にリークされるのか、誰がリークしているのかと。

A) 情報を知っている者のうち、リークするメリットのある者は誰だったのでしょうか。そう考えると、今回の
 リストラを推進したい者がリークしていたと推量するのが妥当ではないでしょうか。

C) 金融機関が怪しいと言う事ですね。外部からリストラをやるぞ、必要だからやるぞと固めておいて、も
 し会社がマスコミの事前発表を下回るリストラ策を発表すれば、市場の評価が下がって更にダメージを
 受けるようにしてしまうと。

D) リストラを推進すべく、外堀を埋めていたのでしょうか。

B) 何か心に引っかかります。例えば、5月26日の日経は、「最大1万4千人を削減する方針を固めた。」
 と断定して報道しています。報道機関には取材源秘匿の権利がありますが、これは主に取材源が個人
 など弱い立場にある場合に守るためにある権利ですね。しかし、そうした例外を除けば、取材源は原則
 開示であるべきです。とりわけ政府や官庁や金融機関や大企業が情報源であれば、100%開示すべき
 ですよね。仮にリークして来たのが、これらの機関に勤める個人だとしても、今回のようなリストラ報道が、
 果たして取材源を秘匿しなければならないケースに該当するのでしょうか。あるいは秘匿するならするで、
 ニュースそのものを断定的に書くべきものなのでしょうか。報道機関の姿勢がおかしいと私は思います。

A) 裏を返せば、報道機関が断定的に報じているのに、それに対し会社が事実関係の誤りを質せないの
 なら、報道内容が正しいと認めている様なものだと言う事です。今後似たようなケースにおいて、会社が
 如何に「憶測記事である」と言おうとも、関係者による根拠に基づく記事と見なすのが妥当だと考えた方
 がいいでしょう。

B) すると、例えば高知工場の報道はどう解釈すべきでしょうか。会社は6インチを縮小しながらも残すと
 の方針を出しました。ところが翌7月4日の朝日新聞では、やはり水面下で売却が検討されていると報じ
 ています。やはり報道が正しいと考えた方が良いのでしょうか。

A) まず、売却と閉鎖では、かなり異なります。売却は事業の存続か、少なくとも雇用の継続を確保する
 ための施策ですが、閉鎖となると、働く場所そのものが失われてしまいます。高知工場の場合、売却が
 検討されているのも、おそらく報道の通りなのでしょう。
  高知工場は、以前から第2棟の拡張計画がありましたが、建設用地を買収したものの、ずっと着手で
 きずにいると聞いています。この第2棟建設のための工業用水を公費23億円(内、高知県の負担は17
 億円)かけて整備し、しかも維持費として毎年1億円が使われていると言います。だから高知工場が閉
 鎖されるかも知れないとのニュースが先行して飛んだときには、地元の税金を使っておいて一体何事か
 と県議会で問題になったと聞きました。高知という土地柄は、もともとは三菱財閥の創業者である岩崎
 弥太郎の出身地ですし、三菱電機の工場を建設した経緯にも、そうした歴史の影響があったようです。
 現在でも、ルネサスは地元を代表する工場ですし、閉鎖となれば大変な雇用問題となります。そういう
 事情を鑑みると、簡単に売却とか閉鎖とは言えないでしょう。たぶん今は、売却の目処が立っていない
 のだと思います。閉鎖だけは何としても避けたいと会社も考えているから、縮小と言う以上の、はっきり
 した方針が示せないのではないでしょうか。

B) じゃあ大分はどうでしょうか。会社発表では当面継続し、将来は譲渡もあり得るとされています。とこ
 ろが、朝日新聞の報道では「×」印が付いていました。

A) 売却と言う点では、後工程の工場は前工程よりも厳しいと考えられます。とにかく、何とか存続させて
 欲しいですね。

D) ルネサスSKYは、後工程の工場が山口、福岡、熊本錦、大分の4工場ありましたが、福岡を昨年閉
 鎖しています。山口と熊本錦も譲渡または集約の対象になっています。大分は、車載品の工場として、
 わりと最近まで設備投資をしていたこともあり、さすがにここは残るだろうというのが大方のNECエレ出
 身者の見方だと思います。逆に大分までが無くなってしまうと、何で三菱と日立の後工程は1社ずつ残っ
 ているのに、NECは全滅なのかと言う声が必ず上がってくると思います。

C) 今話題に上がった山口は、二井知事が7月5日にルネサス本社を訪れて、宇部にあるルネサスSK
 Yの工場と、柳井のダイオードの工場について、事業継続と雇用維持を要請されたそうです。山口も高
 知と同様に、工場拡張用の土地を確保したものの、8インチも300mmも新棟建設が見送られて、前工
 程は6インチまでとなっています。ただし6インチの工場としては、生産効率は良いと聞きますよ。

D) ですが、設備が15年前に開発を終えた0.35μmルールまでしか対応していないので、延命継続さ
 せるためには、こうした古い製造プロセスでも勝負になるような新製品を入れていかないといけませんね。
 MCUの工場ですけど、A&Pの製品で造れるものはないでしょうか。

C) 山口、柳井の両工場をあわせると、従業員数は約1500名です。雇用問題は深刻ですよ。

B) 「地方の工場の労働者は、実家が農家の人が多いから、解雇されても家業を継いでやって行ける」
 とか言う噂が、都市伝説のように首都圏の事業所には存在すると知ったら、工場の労働者はきっと怒
 るでしょうね。

C) そんな都市伝説があるとしたら、本社の人間も、地方の工場から雇用が失われて良いなどとは思っ
 ていないことの裏返しでしょう。その思いが牧歌的な妄想を生んで、現実逃避で心を合理化しているの
 だと思います。

B) でも、その都市伝説を口にする人が、別のところではTPPに賛成していたりします。TPPで、最後の
 よりどころの農家も潰れるかも知れないのに。

C) 熊本錦も、境遇は似ているでしょうね。とにかく地方のあまり人口密度の高くない地域に建てた工場
 は、ひとたび閉鎖となると雇用の受け皿自体が無くて、本当に困るのだと言う事を改めて思い知らされ
 ます。

D) いえ、熊本錦はもっと厳しいかも知れません。7月6日に鶴丸執行役員が地元に出向いて説明を行っ
 たらしいのですが、ここは売却ではなく閉鎖対象であることを伝えたようです。
  錦工場は、福岡県柳川市にあったルネサスSKY福岡工場が閉鎖になったときに、福岡工場の製品を
 移したばかりです。それなのに閉鎖とはひどいではないかと思いますね。ちょっと想定していませんでし
 た。しかもここは、従業員415名のうちの9割が地元出身者だそうです。錦町全体で大きな工場と言え
 ばルネサスと武蔵精密工業くらいしかなくて、もともと製造業従事者が千数百名しかいないところで約4
 00名が職を失うのは、町にとっても大変な打撃です。

A) 青森県北津軽郡にあるルネサスハイコンポーネンツの青森工場も閉鎖かと噂されています。ここはA
 &P用の小型のパッケージを扱っている工場です。やはり地元にとっては重要な工場なだけに、何とか
 存続をと望む声が強いです。

D) A&Pで小型のパッケージ工場と言うと、RSKS福井工場もそうですね。この工場に私はあまり馴染
 みがありませんが、以前は確かCANパッケージのような小型小ピンの特殊なパッケージも手がけてい
 たと思います。旧NECエレクトロニクスでは、福井工場にしか無いパッケージというのが結構あって、仮
 にここを閉鎖と言う事になると、代替となるパッケージが無くて集約しなくてはならない製品が沢山出て
 くるのではないでしょうか。ルネサスの売上を確実に落とすことになりそうです。

A) 特殊なパッケージと言えば、函館にあるルネサス北日の工場もそうですね。ここは、車載用の高信
 頼度パッケージも手がけている工場ですので、正直、私は存続すると思っていました。

B) 前工程の工場で、甲府は事あるごとにリストラ対象ではないかと言われて来ましたけど、今回の発
 表では主力の8インチが残りますね。

A) 甲府の従業員数は千名を超えますから、高知等よりも大きな工場です。問題は6インチのライン集約
 によって、どの程度のインパクトがあるかです。ライン集約と言うのも問題です。工場のラインが半分に
 なってしまえば、現場の労働者の雇用も確実に失われるはずです。このように、事業所そのものは存続
 するけれども、雇用の大幅な減少が心配される工場が、特に前工程でいくつかありますね。

B) 例えば高崎ですよね。ここは5インチ2棟に6インチ2棟があって、すでに5インチの集約は決定してい
 たのですけど、新たに6インチも縮小ですからね。ラインはどうなってしまうのでしょうか。ラインで働いて
 いる直接の人達の用は、守られるのでしょうか。

A) 人員削減の対象にされていく心配があります。高崎事業所そのものは、技術部門もありますし、これ
 からも継続していくのですから、事業所内での職種転換で働く場所を確保する努力が会社には求められ
 ると思います。甲府も同様ですね。関東の別の事業所による受容れも必要でしょう。

D) 滋賀工場もです。ここはA&Pの前工程の主力工場で、NECEL時代には表示デバイス事業の伸張
 に期待して8インチのラインを増強したのです。ところがご存知のように表示事業は市場の激変から急激
 に縮小し、とうとう昨年集約するに至りました。滋賀工場には2千人近い人が働いていますので、人減ら
 しのターゲットにされないか心配です。

C) 継続される事業所についても、雇用問題への影響が大いに心配です。