ルネサス懇、抜本的構造対策を語り合う。

− 臨機の対応でどうなるか −

                                 参加者 : A委員(ルネサステクノロジ出身:座長)
                                        B委員(ルネサステクノロジ出身)
                                        C委員(NECエレクトロニクス出身)
                                        D委員(NECエレクトロニクス出身)


A) 今日は梅雨の間の貴重な晴天の日で、東京はさわやかな青空ですね。こんな日に、みなさんを半日
 拘束して恐縮です。
  さて、ルネサスエレクトロニクス社の発足とともに立ち上げたルネサス懇の活動も、3年目を迎えました。
 今年は100日プロジェクトの最終年として、正念場の年になることは分かっていましたが、5月9日に会社
 が社内外に発表した3月期の業績が予想以上に深刻で、にわかに暗雲が垂れ込めて来た感があります。
  5月23日の労使協議で、春闘にときに会社が言及していた「臨機の対応」を発動する事が告げられ、
 先月8日の臨時合同労使協議にて、会社提案の中身が明らかになりました。3週間の労使交渉によって、
 当初ゼロにしたいと申入れされていた冬の一時金は、1.0ヶ月支給まで押し戻す事ができました。しかし、
 その先には大リストラが控えているとの新聞やネットの報道が繰り返されていて、職場の不安は、むしろ
 そちらに向いていたと聞いています。そして先週7月3日に、ついに会社が「抜本的な構造対策」と呼んで
 いたものの輪郭が明らかになってきました。その内容は、ほぼ新聞報道の通り、工場の大規模な縮小と、
 5千人を超える早期退職者の募集です。まだ第一回目の合同労使協議が行われたばかりで、大リストラ
 の詳細は不明ではありますが、今後の展開を予測しながら、みなさんと議論したいと思いますので、よろし
 く御願いいたします。
 
  (※注:本討論は、2012年7月8日の時点の情報に基づいています。)


【臨機の対応でどうなるか】

A) ではまず、「臨機の対応」から話し合いましょう。はじめに「臨機の対応」が出てきた流れを、おさらいし
 てみませんか。
  3月の春闘が終わった直後に、皆さんと春闘結果について話し合いました。その中で、春闘回答時に会
 社の言っていた「種々の施策」とか「臨機の対応」という抽象的な言葉が、一体何を意味するのかと話し
 合いましたね。あのとき想定したのは、一時金0.48ヶ月のカットだけではなくて、昨年度4Qにおける賃
 金カットの再開のような費用削減策とか、工場や拠点の売却のようなキャッシュを失わない形でのリスト
 ラ施策でした。
  そして4月になり、表面上は平穏無事に新年度がスタートしました。100日プロジェクト最終年となる今
 年は、いよいよルネサスにとって正念場の年になると感じていました。昨年は震災や超円高やタイの洪
 水や欧州の金融不安があって最悪の年だったけれども、今年は市況の回復もあるから、普通にやって
 も営業黒字にはなるだろうと、漠然とですが明るいムードが出始めていたと思います。賃金カットも無く
 なり、年間の一時金も4.0ヶ月出ると言うことで、忙しい1年になるだろうけど、まあ頑張ろうみたいな雰
 囲気があったと思います。
  ところが、5月9日に不意に社内のポータルサイトに掲載された社長メッセージから、急激に雲行きが
 怪しくなってきました。メッセージを通じて、昨年度3月期の決算は626億円の赤字で、想定された570
 億円を更に56億円上回った事を社員は知りました。しかし社員がより不安に駆られたのは、626億円
 の大赤字ではなく、これから先の業績見込みが発表できないと言う報告の方でした。いくらなんでも今
 年は黒字だろうとの期待が簡単に裏切られたどころか、実態は受注が全く積みあがっていなくて、しか
 もそれが会社の構造的問題に由来するとの説明でした。その構造的問題を解決するために、施策を検
 討中だと言う事でしたが、施策の中身はおろか、構造的問題が具体的にどんなものなのかも明らかに
 されず、ただ社員は漠然とした不安を抱くしかなかったと聞いています。
  このあと、マスコミを通じて大リストラを匂わせる報道が相次ぎました。内容は5000人規模の早期退
 職とか、大規模な工場閉鎖や売却と言った、前代未聞末代一聞の恐ろしいものでした。そして社長メッ
 セージから約1ヶ月後の6月8日に、ようやく会社から「臨機の対応」の提案が労働組合に対し申し入れ
 されました。6月18日、6月28日の団体交渉を経て、最終的に決着した内容は、組合員の7月から来
 年3月までの賃金を7.5%カット、年末の一時金はゼロ(2.24ヶ月減額。ただし来年6月の一時金から
 1.0ヶ月分を前倒し支給)のほか、カフェテリアプランの凍結、時間外割増率の法定基準化、旅費日当
 の半減化等です。以上が「臨機の対応」のあらましです。

B) 私たちが春闘のときに立てた予想は、方向としては当っていたものの、会社提案の冬の一時金ゼロ
 は想定以上でした。年末に予定されていた1.76ヶ月分と、下期のどこかで払うとされていた0.48ヶ月
 分をあわせた2.24ヶ月分の減額ですからね。労働組合の交渉によって、何とか1.0ヶ月分は支給さ
 れる事になりましたが、これは来年の6月分からの前倒し支給であって、減額が2.24ヶ月分であるこ
 とに変わりません。

D) それでも、年末に1.0ヶ月分だけでも出ると言うのは貴重だと思います。以前、電機連合が一時金
 の使われ方を調査したことがあるのですが、「税・社会保険料」、「住宅ローンの返済」、「日常生活費の
 補填」などの「固定的支出」が5割を占めるとの結果でした。つまり電機連合の産別ミニマムである半期
 2.0ヶ月の5割にあたる1.0ヶ月を切ってしまうと、平均的な家庭で固定的支出を賄えなくなるのです
 から、1.0ヶ月が生活防衛ラインとしてぎりぎりではないかと思います。

C) 来年6月分を前倒しさせただけなので、朝三暮四のそしりは免れないでしょうけどね。それと、何で来
 年の分を前倒しできるのか、社員への説明が不十分だと思います。要するに、来年6月の一時金の原
 資は、支払いの決まっているお金として、本年度3月期の決算に計上しなくてはいけないから、この分を
 今年の下期に払おうと、来年の上期に払おうと、決算上の数値に影響が無いからですね。なかなか発
 想がしたたかだと思います。

B) 次の春闘はどうなるのでしょうか。会社は今年度の目標を経常黒字としていますよね。普段の年だ
 と、経常黒字なら当然営業黒字は達成できているわけで、一時金は少なくとも4.0ヶ月以上出るので
 すけど、今年度は経常黒字を達成できるまで一時金の原資が削られそうですよね。だから、来年6月
 の一時金が、1.0ヶ月を切ることも想定されるのではないでしょうか。むしろ会社としては、先に1.0ヵ
 月分を払ってしまうことで、業績によるストレッチとして残り1.0ヵ月分しか使えなくなったと考えている
 のではないでしょうか。

A) 一時金は賃金の一部であり、生活賃金として必須のものであるとの、私たちの立場を明確にしてお
 かないと、なし崩しになりそうですね。現実に、家族構成や個人のライフスタイルによっては、1.0ヶ月
 でも固定的支出の賄えないケースは多々あるでしょう。

C) NECエレ時代に、年間2.3ヶ月という低水準を経験しました。リーマンショックの年です。半期1.1
 5ヶ月は相当にきつかったと聞いています。

D) 先の電機連合の調査では、一時金に占める固定的支出の割合自体も減少傾向にあるとのことです。
 一時金があてに出来なくなってきているので、必要な支出は月例賃金で賄う生活へと少しずつ変化し
 ているようです。

B) ところが今回は月例賃金もカットですから、ダメージが大きいですよ。賃金カット率は、組合員が7.5
 %、管理職が12%で、昨年度4Qに実施したのと同水準です。ただし工場労働者に限り、帰休による賃
 金減額が発生している場合には、カット率は5.5%に抑えられています。

D) 前回の賃金カットでは、子供の教育費を労働金庫の教育ローンでしのいだけど、今度はもう車を手
 放さないといけないかも知れないと言う人も居ます。これでは生活できないという話を、あちこちで聞い
 ています。残業をさせて欲しいとか、残業もダメならせめて副業を認めろとか。副業については、会社の
 許可を得れば認めるとの回答がありましたね。

B) すみません。副業って具体的に何でしょうか。私は共働きで幼い子供が1人の3人家族なので、妻
 も私も副業をしている時間的、体力的ゆとりは無いです。副業させて欲しいと言っているのは女性が多
 いようですけど、どんな仕事をされるのでしょうか。

C) そう言えば、副業させろとの声は、男性からはあまり聞かれませんね。女性の副業とは、知り合い
 の店を手伝ったり、居酒屋みたいな夜の時間帯で出来るアルバイトだったり、テレワークでの在宅勤
 務に代表されるような内職だったり、いろいろあるみたいです。平日の夜や休日限定で出来る仕事や、
 細切れの時間を使える仕事が前提のようです。

B) そうですか。何だかたくましいですね。しかし夜間のお店のアルバイトだと、時給で1000円くらい
 まででしょうか。内職だと、賃金はもっと安いですよね。仮に月に40時間働いたら、体力的にかなりき
 ついと思いますけど、増収はせいぜい4万円でしょう。本当にそこまでするのでしょうか。

C) わかりません。本気で副業の意志があるのか、それともハッタリに過ぎないのか、人事総務は今後
 の申請件数を見ながら確かめたいと思っているのではないでしょうか。

A) 申請件数が少なかったらハッタリだったとの判断ですか。副業したいほど生活を切り詰めていたとし
 ても、さまざまな制約がある中で実際に副業をするのは、多くの人にとって困難ではないでしょうか。女
 性から副業の話が出てくるのは、たとえ自分は出来なくとも、出来る人にはさせて欲しいとの希望があ
 るからではないでしょうか。そういう他者への思いやりは、男性よりも女性の方が圧倒的に強いでしょう。

B) 副業するうえで、影響が一番大きいのは時間的制約でしょうか。もしそうなら、賃金カット分は労働
 時間の短縮をして欲しいとの意見が出ますよね。

D) 多く出ているのは、帰休日を設けて欲しいというものです。帰休なら、休業補償もありますし、休業」
 補償の原資の2/3から3/4は雇用調整助成金から出ますから、会社にとっても痛手は少なくて済み
 ます。帰休が難しいのなら、無給の休日でも良いから、賃金カット分だけ労働時間を短縮して欲しいと
 言いますね。当然だと思います。

B) ところが今回は、無給の休日さえ無しで、それどころか残業規制も出ていません。

D) 残業規制は、いずれ出るのでしょうか。フレックス休止だけは、もう2度とごめんだと思いますけど。

C) 今回の賃金一時金カットで、専業主婦の奥さんが働きに出るケースもあると思います。これまで身
 の回りの世話を奥さんに任せきりにしていた人は、定時出社が難しくなる場合もあるのではないでしょ
 うか。

B) フレックス休止のために、子供を保育園に預ける時間を早めざるを得なくなる場合もあると思いま
 す。延長保育代が更にかかる様では困ります。子供もかわいそうですし。

C) NECは、コアタイムを8時半からに設定してからも、結局は業績が回復せずに、1万人のリストラ
 に至っています。フレックス休止で業績回復なんて発想自体が、ナンセンスだと思います。そういう本
 質から外れたアンポンタンな施策を出せば、経営者に対する不信感が増すだけですよ。

A) カフェテリアポイントは、予想通り凍結ですね。これはRT時代にもありました。

C) 制度統合で、区分Eの社員もカフェテリアプランが使えるようになった訳ですが、その初っ端から凍
 結ですからね。カフェプラン自体が福利厚生における固定費の変動費化ですから、こうなる事も予想は
 出来ました。しかし、旅行代金の立替みたいなものが無くなるのは仕方ないとして、育児関係とか、重
 要なものも無くすのはどうかと思いますよ。カフェプランというコンセプト自体の問題でもあると思います
 が。

B) 6月分のポイント申請までは有効だったので、駆け込みで手続きする人が結構いたみたいです。
 今年使ってしまえば来年度付与されないのだから同じだろうと思うのですが、来年この会社があるか
 どうかさえ分からないから、使える内に使うのだとのことです。6月分の申請者数が、社員の不安度を
 測るバロメータになりそうです。

A)  ところで、時間外割増率は、またしても25%に引き下げですね。若い世代の方は、あまり重要視
 されないのかも知れませんが、私の年代にとっては何とも嫌な施策です。30%と言う割増率は、電機
 労働者の誇りなんですよ。その昔、電機業界は他の業界に比べて賃金が安かったのです。しかも残
 業が多かったから、せめて割増率だけでも上げろと労働組合が要求して勝ち取ったものなのです。最
 近こうして繰り返し法定基準まで戻されていると、電機労動者の誇りが傷つけられているように私には
 感じられます。

B) 裁量勤務手当が基本給の25%から24%になるのですけど、この理由をどなたかご存知ですか。
 昨年度までの旧人事制度では、RS1の裁量勤務手当は役割給の26%でした。だから、前回の時間
 外割増を130%から125%に下げたときには、比例計算で役割給の26%から25%に減らしていた
 のです。ところが4月からの新制度では、裁量勤務手当が最初から基本給(旧制度の役割給に相当)
 の25%になっています。裁量労働の時間外手当を125%で計算しているのだと私は解釈していまし
 た。それなら24%への減額は変ですよね。

D) 30時間の130%は39時間。つまり裁量勤務の時間外手当相当は、39時間分の賃金です。39時
 間を、1ヶ月の労働時間である155.6時間で割ると、およそ0.25です。裁量勤務手当が基本給の
 25%である根拠です。なぜ旧RTの制度では、26%だったのでしょうか。

A) 旧RTの裁量労働は、30時間の残業時間のうち、10時間は休日出勤と見なしていたような気がし
 ますが、はっきりとは覚えていません。とにかく、武蔵では相変わらず裁量勤務者の平均残業時間が
 月あたり30時間を超えています。いっそのこと、一部の方を除いて裁量勤務を外してはどうなのでしょ
 うか。

D) 私もその方が良いと思いますよ。裁量労働者に無条件で残業代がつくのが不公平で許せんと言う
 意見が、時間管理の労働者から出ています。残業した分だけ残業手当が付くようにした方が良いと思
 います。

A) 結局のところ、賃金の減額が7.5%×9ヶ月で0.675ヶ月分、一時金の減額が2.24か月分、こ
 れに時間外割増率の引き下げによる減額分を合わせると、およそ3ヶ月分の収入が減額となります。
 年収に占める割合は約19%です。組合員でも、多い人は150万円くらいの減額になりますね。

B) 管理職は賃金が12%カットですし、一時金の占める割合が高いと思いますので、25%以上の減額
 になっているのではないでしょうか。経営幹部が最大で4割の減額と聞いています。もっと減額しろとの
 意見が沢山出てきそうです。

C) 目一杯忙しいのに、賃金だけ100万円も150万円減るのでは、力が出ませんね。単純にやる気を無
 くすというのもあるけど、減収分が何らかの形で生活にしわ寄せされますから、従来と同じだけ働くのも
 難しくなると思います。大雑把に言うと、お金をかけられない分、手間をかける場面が増えますでしょう。
  むかし戦時中に、戦闘機などを造るのに金属が足りないと言って、各家庭から鍋だの釜だの、金属製
 のものをかき集めたことがあったのです。そうやって生活に必要な道具まで供出させられれば、人々の
 暮らしはやせ細って行きます。その結果、戦争はどうなったのか。

B) 今回の労使交渉で、労働組合が組合員の生活を守るとの指針を出したことは評価できると思います。

C) 組合員だけでなく、管理職の生活も大切ですよ。管理職と言っても、組合員の行く末です。あまりいじ
 めると、組合員が管理職になりたいと思わなくなってしまうのではないでしょうか。

D) そういう組合員は、今でもたくさん居ると思います。安全衛生委員会の資料を見ても、管理職の長時
 間残業者が多いのですよね。こき使われて、メンタル病んで働けなくなるくらいなら、出世なんかしない
 方がまだマシと考えるのが自然です。でも、それじゃあいけませんね。管理職になって、もっと充実した
 仕事をしたいと思えるようにしないと。

B) 課長クラスも見ていてかわいそうな事が多いですよね。課長は10%カットくらいで留めて、代わりに
 部長クラスを15%にする等、傾斜をつける方法もあったと思います。厳しいノルマを課して、定期的なト
 レース会を開いては、課長を毎度いびっている部長を見ると、本当にそう思います。

C) ところで、地味ですけど国内出張の日当が半額に減額されているのは、出張の多い私としては気分
 が良くないです。同じ国内出張でも、顧客のところに行く場合には、減額しないで欲しいと思いますよ。
 売上を伸ばすのが、この会社の最大ミッションでしょう、今は。

D) 日当って、交通費や宿泊費を除いた実費相当分ではないのですか。実費分を減額するとは、どうい
 うことでしょうか。

B) 同様の視点から言えば、海外業務研修の凍結とか、海外短期派遣の縮小って何でしょうか。海外売
 上を伸ばす方針に逆行していませんでしょうか。社内報(LOOK)の第10号に、海外業務研修を受けた
 方のお話が載っています。あれをやめると言うことですよね。

A) 方針がちぐはぐですね。費用削減の効果が薄くて、かつ現在の会社方針に照らして必要な制度は、
 減額対象から外すのが適当だと私も思います。