ルネサス懇、2013春闘を語り合う。

− 春闘アンケートより(4) −

【春闘アンケートより(4)】

A) 次は玉川の50代の女性からです。

 「55歳2人持家で年間500万円の必要生計は高すぎ。58歳3人持家だが月額17万円位しか使わ
 ない。標準生計費は贅沢!!。会社からの配偶者手当の廃止が必要。働いている人の賃金カットし
 ているのに、働いてない人へ手当てがあるのはおかしい。年金の第3号の廃止。自分で年金を納め
 ていない人へ年金を出すのはおかしい。4万円もの金額を毎月払って月額15万円しかもらえず、1
 回も払わない人の第3号が月額9万円もらえるのは不公平! 」


B) ルネサス懇のホームページからアンケートにご回答頂いた方は、この方が何を言われているのか
 分からないだろうと思います。実は春闘アンケートには回答用の葉書もあって、葉書の方には電機連
 合の「標準生計費」を資料として付けてあるのです。



B) この標準生計費が高すぎるという批判は毎年来ていますね。この方以外からも同様のご意見を頂
 いています。これはルネサス懇や電機懇が計算したものではなくて、調査元は電機連合なんですけど、
 電機連合は組合員に生活実態のアンケートを採って、その上で計算しているから、これはこれで電機
 の職場の組合員の実態を反映したものなんですね。

D) この生計費は結構妥当だと私は思いますけどねえ。被服・履物費の月3万円はちょっと高いかなあ
 と思うけど、あとはこんなもんじゃないでしょうか。注意して欲しいのは、これが年間分の経費を月割りし
 た金額だということです。
  教育娯楽費が月5万2千円と言うのも、年間なら62万円でしょう。新聞や雑誌を購読して、年に2回
 旅行に行けば、それだけで4〜50万円くらい使うんじゃないでしょうか。趣味でスポーツとか釣りとかを
 やっていれば、もっと使いますよね。交通通信費が7万円というのも、年間に直せば84万円です。車を
 持っていれば、車代、税金、保険料、JAF、駐車場代、ガソリン代、車検および定期点検、それにアク
 セサリー類で年あたり50万円はかかりますよ。これに携帯や固定電話のお金、ネット料金、公共交通
 利用料金などが加われば、84万円は決して多くないと思います。

B) それにこのデータは、あくまでモデルですからね。55歳なら住宅ローン完済の家庭も多いでしょうけ
 ど、まだローンが残っていれば、住居費で11万円くらいかかるでしょう。
  全国的な家計調査は総務省が行っていて、こちらのデータでは平均で月に29万円くらいですから、
 確かに金額的には電機連合の調査の方が高くなっていますが、総務省の方はモデルではなく消費実
 績を基にしたデータですし、世帯構成を考えないと単純に比較はできないです。

C) 電機連合のデータの目的自体が、組合員に質素な生活を要求するものではありませんしね。これく
 らいの生活水準には、これくらいの賃金が必要だと言いたいのですから。

A) この方の主張される配偶者手当の廃止についてはどうでしょうか。

C) 基本は賛成ですけど、注意が必要と思います。今でこそ、電機連合の組合員も共働きが過半数を
 占めるようになりましたが、昔は結婚や出産を機に妻が退職して、夫のみのシングルインカムになるの
 が普通だったんです。夫に毎日残業して夜まで働いてもらうためには、妻には専業主婦になってもらっ
 て、家の事を全て任せてしまいたかったのです。配偶者手当は、退職して夫を支える側に回る妻への
 「ご苦労さん代、これからもよろしく代」です。
  女性の就業を促し、男女の固定的役割分担をなくそうというのが現在の方向ですから、配偶者手当も
 なくすべきものと思います。ですが、過去のこうした経緯で妻が専業主婦になっている家庭も、まだたく
 さん残っているはずですから、一気に廃止するのはどうかと思います。

D) 働いている人が賃金カットされている様な状況で、働いていない人がお金を貰うのはおかしいので
 はないかと言われています。つまり賃金原資が限られている中では、支払う優先順位があるだろうし、
 そこでは何より労働の対価としての賃金が、配偶者手当などよりも優先ではないかという意味ですが、
 この点はどう考えるのでしょうか。私はこの考え方にも道理があると思いますけど。

C) 難しいですね。ルネサスという会社には、今でも長時間労働体質が残っていますし、そのために夫
 婦がフルタイムで働きながら子育てをするのが、まだまだ厳しい環境にあるのは間違いないと思いま
 す。本当は共働きを続けたかったのに、夫の多忙な状況から妻が就労を諦めた場合も多かったはず
 です。また、夫が遠地へ転勤したことをきっかけに妻が退職するケースも多いです。つまり実態として、
 妻の退職が本人の自己都合というよりも会社の都合による場合が多々あると思います。したがって、
 就労を諦めざるを得なかった妻に対し、配偶者手当を会社に補償させることは、労働の対価としての
 賃金とはまた別の意味を持っていると私は考えます。

D) 単純にどちらが優先とは言えないということですか。

C) 配偶者手当を、働いていない人への手当ではなく、夫の就労継続のために自らの就労を諦め、収
 入の機会を失わざるを得なかった妻に対する最低限の収入補償と考えれば、減額の対象外とするの
 が妥当とも考えられると思います。それに所詮、配偶者手当も「はした金」ですしね。

B) 一応誤解の無いようにお願いしたいのですが、専業主婦だって働いていますよ。ただルネサスな
 ど会社の中で働いていないと言うだけです。この問題を考えるには、「ペイドワーク」と「アンペイドワー
 ク」の関係について注目しないといけないと思います。
  ペイドワークとは賃労働で、私たちの様に会社で働いている人達の仕事ですね。それに対してアン
 ペイドワークとは、賃金の支払われない労働のことです。アンペイドワークには、家事、育児、介護を
 はじめとして、実は社会のインフラを支える、人間にとって欠くことのできない労働が多く含まれていま
 す。

D) 他にもボランティアとか、町内会の仕事とか、保育園の父母会、学童保育の運営、こども会、PTA、
 いろいろありますね。日本の男性は勤勉だと言われますけど、これらの労働に対しては世界的に見て
 も「サボリ魔」なんですよね。

B) それらアンペイドワークの価値は、少し古いデータですけどGDPの23%にもなるという経済企画
 庁の調査結果があります。仮に専業主婦の労働に対し賃金が支払われるのであれば、年間で304
 万円、育児の負担の増える30代であれば410万円にもなるとのことです。

D) それだけ働いていても、貰うギャラはゼロ。

B) それがアンペイドワークですから。

D) 収入が無ければ、年金も納められませんね。

B) いかに夫がしっかり稼いでいる専業主婦であっても、自らの収入が無ければ、夫に経済的に依存
 して生きていくしかありません。日本のジェンダーギャップ指数は世界101位で、男女平等に関しては
 後進国なんです。原因はいろいろとありますが、女性の経済的地位の低さも一因です。

C) これだけ貨幣経済が発達している社会で、無収入で生きていくというのは難しいですね。

D) ここ数年の間に、「ベーシックインカム」と言う言葉が急速に広まりましたよね。最低限の生活が出
 来るだけのお金を、国民すべてに支給するというものです。これなら専業主婦でも一定のお金を手に
 することが出来ますね。

B) 兼業主婦もです。以前Fさんから聞いた話ですけど、育児短時間勤務中の女性は、もともと賃金が
 安いうえに、労働時間が短い分、さらに収入が少ないんですよね。しかも朝も夜も家事育児があって、
 1日の労働時間は一般的なフルタイム勤務の男性以上です。それだけ働いても、会社ではなかなか
 忙しいことに気づいて貰えないと言います。普段は子供の迎えのために、時間が来ると退社せざるを
 得ないのですけど、飲み会の日は何とか都合を付けて参加したら、「あの人は普段は仕事を放ってで
 も定時で帰るから、私はいつもその尻ぬぐいをさせられているのに、こういう楽しい場だけは定時後で
 も来るのね」と独身の女性が陰で言っていたのを知って、ショックを受けたそうです。おまけに、少ない
 収入から保育園代を差し引くと、いくばくかしか残らなくて、一体何のために自分はこんなに苦労して
 働いているのだろうかと、落ち込む事があるそうです。ベーシックインカムがあれば、兼業主婦も恩恵
 を受けることになります。

D) 税の所得移転機能を働かせるのであれば、ベーシックインカムの財源は所得税が中心になるでしょ
 うか。所得税率の引き上げは必須と思いますが、それ以外にも例えば残業代にもっと税金をかけても
 良いと私は思っています。長時間残業する人は、アンペイドワークに従事する時間が短いですし、そも
 そも残業によって雇用創出を妨げている面もあります。だから残業代割増分のそれこそ50%とか、そ
 れ以上を所得税として徴収すれば良いのではないでしょうか。もちろん残業をさせる企業の方にも問
 題があるのですから、割増率も現在の25%から100%まで引き上げるとか。

C) 日本の社会は、賃金や年金に頼りすぎていると思いますよ。ベーシックインカムのように、誰でも一
 定のお金を得られる仕組みとか、お金が無くても必要に応じて現物が支給されるような福祉を拡充して
 いく方が良いと私は思います。これに職種別賃金が合わされば、若い人でも十分な収入が得られて、
 結婚してもつつがなく子育てをしていける環境が整う方向に行くと思います。

A) ところで、玉川からは、労働組合に対する抗議のコメントも来ていますね。30代の男性の方からで
 す。

 「組合の幹部連中が春闘は会社のいいなり、ボーナス0や減給はそのまま通ると思われます。それど
 ころか、逆に組合費を値上げしたあげく贅沢三昧、組合って組合員のためにいるんですよね?敵は経
 営者ですよね?なんで経営者に媚びて、組合員を苦しめるのか理解できません。ルネサス懇さんが会
 社と組合幹部にビシっと文句を言っていただくことを期待しております。」


D) 労働組合が過去の春闘で、会社の言いなりになっている印象を与え続けて来たのは問題ですね。
 私たちとしては、会社であれ労組であれ、批判すべきは批判するとのスタンスなんですけど、労組につ
 いては盛り上げようと言うのが基本方針です。ところが、ルネサス懇に入ってくる投稿には、最近は多
 少減りましたけど、労組をけちょんけちょんにけなすものが少なくないでしょう。こうなると、労組を盛り
 上げるどころか、否定しかねなくなってしまいます。労組への批判が否定に結びついてしまう状況では、
 批判そのものをしづらくなりますね。

C) 会社に対してもですよね。私たちとしては、より力の強い者、より大勢に影響を及ぼしている者の
 批判をしたいと考えている訳ですが、今のルネサスの経営陣は最強の者では無いのですよね。経営
 陣の向こう側に、旧親会社とか、金融機関とか、産業革新機構とか、政府とか、もっと強い存在が居
 るからです。それらの責任を問わずして、経営陣だけを批判するような事はしたくないと思っています。
 まして末端の労働者に責任を問うようなことはしたくないですね。

A) この方は、ルネサス懇から「会社と組合幹部にビシッと文句を言」って下さいとの事です。これはル
 ネサス懇広報担当のBさんの仕事ですね。

B) 私はビシッと言うのが苦手なんですけど。だいたい技術系の人間と言うのは、「Aである」と言われ
 れば、「Aでは無いかも知れない」と思うし、「Bという可能性もある」と言われれば、「Cの可能性もあ
 るかもしれない」と発想するのに慣れています。これだと決めつけるのが本質的に性に合わないので
 す。ルネサス懇のビラやホームページは私とDさんで分担して作成していますけど、肝心なところでの
 らりくらりとした表現が多いのは大目に見て頂きたいです。もしどうしてもビシッと言う必要がある場合
 には、AさんとCさんで言って下さい。私はそれを文字にして掲載しますので。