ルネサス懇、2013春闘を語り合う。

− 春闘アンケートより(3) −

【春闘アンケートより(3)】

A) それでは、最後に自由意見を見ていくことにしましょう。今年も考えさせられる良い意見がいくつも
 寄せられています。最初は武蔵の方からのご意見です。

 「企業の不払い残業の改善には法律による規制のみでは不完全であるため、統一された仕組み(管
 理システム)が必要だと思います。 」


D) 旧NECエレクトロニクスでは、玉川や相模原の事業所の入り口に駅の自動改札のようなセキュリ
 ティーゲートが設けてあって、そこを通過する時間が自動記録されていました。しかしこれは大家であ
 るNECのシステムのため、昨年の春から使用できなくなって、現在ではパソコンからシステムに手動
 で記録するようになっています。自動記録から本人の自己申告になったのですから、管理方法として
 は後退しましたね。この方の言われるように、自動記録をベースとした管理システムは必要だと思い
 ますよ。

C) この方の言われている管理システムとは、おそらく単に自動記録されれば良いというだけじゃなく
 て、裁量労働などでも残業代がきちんと支払われる仕組みのことではないでしょうか。

D) 旧NECエレクトロニクスのVワーク制度(裁量労働)では、みなし時間(1日あたり7.75時間+残
 業分1.0時間)を超えた分の残業代を「超過申請」という形で別途申請できたのです。しかしこの制
 度は、1年前の人事制度統一化でなくなってしまいました。制度という意味でも、一歩後退したなと思っ
 ていますよ。

A) 明らかに違法な不払い残業であれば、勤務の記録をきちんと取って申告すれば、是正させること
 は可能です。しかし制度上違法とはならないが実質的に不払い残業であると言ったケースなど、グレ
 ーになっている部分が多いのではないでしょうか。

C) 労働力は有限の資源なんです。私は裁量労働なんて残業代をケチるために導入されたと思ってい
 ますけど、そのよこしまな魂胆が、労働力が有限であるという認識を鈍らせてしまったために、かえっ
 て労働生産性の向上を妨げる結果になったのではないかと考えています。労働の能率を上げる事に
 対して、使用者側も労働者側も本気で取り組まなくなったと思うのです。

A) では次に行きます。高崎の20代の男性からです。

 「昨今の減給措置により、一時は大卒入社した際の初任給を下回る被害を受け、会社の詐欺といっ
 た気持ちもあります。次年度も減額措置がとられるということで、将来に備えた資産形成も満足にで
 きず、家庭を持つ身として非常に将来が不安です。」


B) 大卒初任給さえ下回るという事は、月給で20万円程度なのでしょうね。裁量労働でない方は、残
 業時間の制限も出ていると思いますよ。ご家庭を持たれている方なら、それなりの住環境を確保する
 ために家賃の負担も大きいと思います。賃金カットは一律7.5%なんですけど、もともと月収の低い
 層に与えている影響の方が、より大きいのではないでしょうか。

D) 会社自体がいつまで持つか分からない状況で、資産形成もできないとなると、本当に不安ですよ。
 子供を持つことも躊躇してしまいますよね。日本ビルの30代の男性からも、次のような意見が来てい
 ます。

 「給料の原資に限りがある事は分かりますが、一律して年配者に厚遇し、若年層に冷遇でしかも給与
 が上がらない給与配分の仕方に大きな問題があると思います。若年層の子育て世代は、本当に生
 活が苦しいです。」


 「会社の経営危機で、賃金を下げられるのは仕方がない。しかし、担当者レベル(若手社員)と管理
 職以上の給与削減率が、一律である事に納得がいかない。管理職レベルの給与をもっと下げるべき
 ではないか。もともとの基本給が少ない若手社員は、非常に生活が苦しい。周りの若手社員の多く
 が外資系企業に転職しているが、当然の結果だ。」


B) 担当者と管理職の減額率が同じというのは誤解があるようです。担当者は7.5%、管理職は12
 %と言われています。とはいえ、やっぱり賃金の減額の仕方についても、もう少し見直す余地がある
 のではないでしょうか。年齢によって、もう少し傾斜をつけるとか。

A) 賃金カットそのものをやめろとは言わないのですか。1回やったことでクセになって、経営危機=
 賃金カットが常識化してしまうのも問題だと思いますが。きちんと賃金を支払うのは、経営の労働者
 に対する約束ですよ。賃金が100%払えないというのは、実質的には債務の不履行と同じです。如
 何に経営危機といえども、雇用と賃金は最後まで手を付けてはいけないし、まして1年間賃金カット
 を継続しながら利益を出そうなどとんでもないことです。順番から言えば、利益を出すのは賃金を回
 復させ、一時金をまともな水準に戻してからです。

B) そうですね。そう言う訴えは必要だと思います。ですけど、賃金カットをやるならやるで、やり方が
 あると思うのです。
  就職活動のときに会社は初任給いくらと提示しているのですから、新入社員がいきなり入って賃金
 カットでは、高崎の方が言われるように詐欺みたいなものです。それから、会社がこのような状況に
 なっている事に対して、入社年次の浅い社員に、果たしてどのくらい責任があるのでしょうか。ルネ
 サスエレクトロニクスになってから入社した3年未満の社員なんて、大赤字の会社再建の途中で加
 わったのであって、元々の大赤字になったことに対する責任なんて全く無いのですよ。4年目の社員
 だって、リーマンショックでメタメタの時に入ってきたのでしょう。そう考えて行くと、入社5年目くらいま
 での社員に賃金減額は、いくら何でもひどいと思いますよ。5年目まではカット無し、6年目から10年
 目が2.5%、11年目から15年目が5%、16年目以降が7.5%という風に傾斜をつけた方が良い
 と思います。道理というものがあるじゃないですか。
  それはもちろん、カットそのものが無くなれば、なお良いです。

D) ちなみに、1年前の人事制度改革によって、若年層の賃金上昇は改善しているんです。むしろ、
 技師クラスで月収が上限に達してしまうと、それ以上は上がらない仕組みになりました。ルネサスの
 賃金には、未だに年功的要素が残っているとはいえ、一律に年配者に厚遇とまでは言えなくなって
 来ています。少なくともルネサステクノロジ時代と比べて、年功的要素はかなり払拭されました。

C) 我々が活動している仲間には中高年が多いから、年功的要素が崩れることに対する反発も内部
 にありますよね。若い頃は低賃金で我慢して働いて来たのですから、ある意味当然だと思います。

D) 子供の養育費・教育費・住宅ローンなどで中高年の支出額が大きいから、その分の生活賃金を
 保証するのだとの考え方には、かなり無理があると思いますよ。教育とか住環境とか、本来なら全て
 の人が必要とするものを賃金で保証させようとすれば、中小企業の社員や非正規労働者や失業者
 など、そこから外れた人達がものすごく大変になるじゃないですか。

C) 海外のように職種別賃金を協定できるようになれば、中小だろうと非正規だろうと、同じ仕事をし
 ている限り大企業労働者と同じ賃金が原則ですから、このような格差は相当に是正されると思うの
 ですけど、そこに至る道のりは険しいですね。なにしろ日本は企業別労組が主体で、産別の組織が
 ほとんどありませんから。今、電機・情報ユニオンが産別組織として拡大を図っていますけど、まず
 は4桁の組合員獲得が目標と言ったところです。

A) ちなみに低賃金に関する意見は、他にもたくさん来ています。

 「冬のボーナスは無く困っている。子供の教育費はまだまだかかる!! (玉川 40歳代男性)」

 「給料が上がらなくて大変です。  (玉川 30歳代)」

 「現在武蔵ESに無期限出向中で、4年後には家賃補助が打ち切られる。来年度から、給与が減
 額され、残業も減りそう。このままでやっていけるのか、非常に不安。 (滋賀 40歳代男性)」

 「ボーナスカットはひどすぎる。リストラを押し付ける金融機関は製造業をわかっていない。 (横浜 
 40歳代男性)」

 「夏のボーナスは最低1ヶ月死守をして欲しいです。 (横浜 30歳代男性)」

 「このままでは生活できない。住宅ローンの支払いや子供の教育費に廻せない。出張へ行けば毎
 回赤字。福利厚生もない。本当に何とかしてほしい。希望を持てるような会社にしてほしい。 (北伊
 丹 30歳代男性)」

 「我が家は、嫁がパートに行っていますが、大学生、高校生、中学生の3人の子供がおり、学費に
 住宅のローンにと毎月赤字の状態です。 (RSO 40歳代男性)」

 「東京の私立大学性がいてボーナスがでないと言われ大変です。 (本庄 50歳代男性)」

 「いつ次の肩たたきが始まるか不安。子供も在学中。一時金は出ない。大変です。 (本庄 40歳代
 女性)」


A) こうして見ると、住宅ローンや教育費の負担で苦しいとの意見が多いですね。

B) 若い世代からは、「そういう人生設計をしているのが悪いのだ」みたいな声も時々聞かれます。

D) 家を買うから悪い、子供を作るから悪いという意味ですか。そりゃあ家を買うのも本人の選択で
 すけど。じゃあ賃貸で住み続けろと言うのでしょうか。賃貸だって高いんですよ。首都圏のちょっと
 便利の良いところだと、築20年で65平米くらいの3LDKが、平気で15万円以上するじゃないです
 か。これくらいの広さだと、子供2人の4人家族には少し狭いですよね。
  それに年をとって収入が無くなって、しかも身寄りがなくなると、賃貸に入るのも難しくなって来ま
 す。だから、自宅があって家族が居るというのは、現代でもやっぱり「保険」になっているのですよ
 ね。

C) 最後まで一人で生きていくのが難しい社会だと言うのも、変えていかなきゃいけないのですけど
 ね。

A) 続いて、玉川の40代の男性からです。

 「前回の早期希望退職で大幅に人が減ったが仕事量は変わらず、毎日23時過ぎまで残業し休日
 出勤しても仕事は終わらない。技師(主任)や担当の疲労は激しく、誰がいつ倒れてもおかしくない
 状況にある。それでいて早期希望退職を蹴って会社にしがみついた部課長連中はほとんど働いて
 いるように見えず、毎日10時頃に出社して17時には帰るという堕落っぷりであり、激しい憤りを感じ
 る。なぜ組合員と管理職でこんなに待遇が違うのか甚だ疑問である。このままでは会社の存続以
 前に社員の存続が危ない。死者が出てからでは遅いのだ。現に部下の一人はうつ病で自殺未遂
 を起こした。もうルネサスはおしまいだ。」


B) 深刻ですね。

D) アンケートでは、ルネサス全体で超長時間残業が増えているというデータにはなっていませんで
 したけど、個別に見ていくとこういう職場もあると言う事実認識は非常に重要だと思いますよ。毎月
 の安全衛生委員会に資料として提出されるヘルスチェックシート提出者数(月80時間以上の残業
 者数)が減っているからと言って、マクロな視点から喜んでばかりもいられないと言うことです。

B) それにしても、どこの部署でしょうか。技師、担当クラスが毎日23時過ぎまで残業をしていると言
 うのは。

C) 部課長が10時頃に来て17時に帰るというのもひどいですが。今はそうなんですか。

D) いや、私の部署の部課長は、ほとんどが定時の8時半よりかなり前に出社していますよ。およそ
 堕落している様に見える人はいないです。

B) 10月1日付で予定されている非月俸者の格付け見直しで、このような方は部課長職を外される
 かも知れませんね。課長職であれば、技師に降格して賃下げを飲むか、それとも早期退職を取るの
 かと、2者択一を迫られることもあり得ます。

C) そりゃあ、管理職が働いていないのは、まずいと思うけど、ノートパソコンを自宅に持ち帰って仕
 事をしているかも知れないから、一概に見た目だけでは判断できないと思いますよ。

D) とにかく、技師の方は裁量労働を外さないと。残業時間はきちんと計上して、残業代を貰わない
 といけません。こういう超長時間労働の問題を積極的に解決するためにも、客観的に残業実態が
 把握できるようにすることが大事です。それが結局、この会社における業務のボトルネックを解消
 して、全社の能率を上げることにつながるのですから。「自分の残業代を削って、タダ働きして会社
 に貢献しよう」なんて考えないことです。ルネサスをおしまいにしないためにもお願いしたいです。

A) 鬱病で自殺未遂というのは聞き捨てなりません。

C) 最近、ブラック企業だけではなくて、普通の大企業でも、鬱病に罹患するとすぐに休職させようと
 すると聞きますけど、仕事との関係で鬱病に罹った場合、本当は労災として申告すべきなんです。
 でも労災となると企業には都合が悪いから、「心が風邪を引いたようなもの」とか何とか言って、病
 気だから治るまで休みましょうと言う方向に持って行くんです。まあ、それでも治って復職できる会
 社はまだマシですね。ひどい会社だと、パワハラで鬱病に追い込んでおきながら、いざ復職の段階
 になると、戻る職場が無いと言って引き延ばし、やがて休職期間が満了したからと辞めさせたりす
 るんです。そういう会社では労働組合もかなりブラックで、表向きは「本人の健康のためにも、一旦
 退職して完治してから新しい道を進む方が良い」ってな感じで綺麗事を言いながら、会社の切り捨
 てを幇助していたりします。

D) 超長時間労働で鬱病に追い込まれた末に自殺未遂までされたと言うことは、やはり労災の疑い
 が濃いと考えられるのでしょうか。

C) 詳細な実態が分からないので何とも言えませんが、可能性はあるのではないでしょうか。目安
 として、月100時間を超える残業が3ヶ月間続くと、労災の認定の基準となる強い心理的負荷が認
 められる状態となります。それ以下では認められないという訳でもないです。特に若くて勤続年数の
 少ない人は、休職できる期間も短いのですから、「期間満了までに治らなかったから仕方ないね」
 と退職させられてしまわないためにも、労災だと思ったら申請を検討することを薦めたいですね。