ルネサス懇、2013春闘を語り合う。

− 春闘アンケートより(1) −

                                 参加者 : A委員(ルネサステクノロジ出身:座長)
                                        B委員(ルネサステクノロジ出身)
                                        C委員(NECエレクトロニクス出身)
                                        D委員(NECエレクトロニクス出身)


【春闘アンケートより(1)】

A) 今年の冬は、かなり寒い時期が長く続きましたが、今週から急に暖かくなってきましたね。今日など
 はまるで春のような暖かさです。首都圏でもあと1週間余りで桜が咲き始めると言いますから驚きます
 ね。気温の上昇とともに、花粉が大量に飛び始めたようです。花粉症のDさんは、今日も目が真っ赤で
 すね。

D) もう、目がかゆくてかゆくてたまりません。特に雨が降った翌日などで、気温が高くて風の強い日は
 最悪です。今の季節、遠くの景色が黄色く霞んで見えるでしょう。あの霞が全部花粉に見えるんですよ
 ね。もう家の中でさえマスクが外せません。
  だけど、今年は中国からPM2.5という微粒子が大量に飛んで来ているでしょう。私の場合、どうせ
 花粉症でマスクするから関係無いやという感じです。それに花粉症は体の過剰な防衛反応だから、
 PM2.5への耐性も向上しているんじゃないなあと。そう考えると、ひょっとして花粉症でラッキーなの
 かも、なんてね。もしかしたら、こんな事もあろうかと私の体が事前に察知して、体質を花粉症に作り
 替えたのかも知れません。

B) 花粉症は「ニュータイプ」ですか。

A) ニュータイプとは、どういう意味でしょうか。

B) ガンダムに出てくる超能力を持った新しい人類のことです。

C) Aさん、あまり突っ込むと、またBさんのオタッキーな談義が始まってしまいますよ。

B) ガンダムくらいは、みんな知っていると思うのですけど。

C) 私は名前しか知りませんよ。観たことないです。

A) 今日の議題は、残念ながらガンダムではなく、春闘とリストラについてです。2月半ばに労働組合が
 要求を提出し春闘がスタートしましたね。今年の要求内容は、6月の一時金1.0ヶ月以外にめぼしい
 ものが無く、本当にミニマムなものとなっています。

B) それと言うのも、1月17日に会社から新たなリストラの提案があって、その提案がすさまじいために、
 要求どころでは無くなってしまったからです。

A) 会社のリストラ提案の中身は、賃金カットの1年間継続、6月の一時金はゼロ、それから多数の販
 売拠点や設計拠点の閉鎖、そして9月末を退職日とする早期退職の募集。

C) それに管理職から組合員への大量降格も10月1日付けで行うことを仄めかしています。

A) これほどのリストラが本当に必要なのか、リストラでどうなるのか、こんなリストラを提案されている
 春闘はどう闘うべきなのか、私達なりに批判的に検討しましょうというのが本日のテーマです。

D) 何だか、またどーんと暗い気分になりそうです。

A) テーマがテーマですから、あまり思い詰めずに、明るく行きましょう。

 (本討論は、2013年3月10日時点の情報に基づいています。)



【春闘アンケートより(1)】

A) 今年ほど労働者の要求と会社側の意向との間に深い溝のある春闘は過去に無かったと言っても良
 いでしょう。会社提案の是非についても当然検討が必要です。しかし、こういう時は、まず私たちの立ち
 位置を確認するために、原点に立ち返って働く人達の声に耳を傾けませんか。そこで今日は春闘アン
 ケートの結果のレビューを重点的に行いたいと思います。今年は合計93件の回答がありました。早期
 退職で人が大勢減った後でありながら、去年の92件を1件上回る回答を得られた事は、素直に喜ばし
 い事ですね。回答をお寄せ下さった方々に感謝したいと思います。では、集計結果に見られる特徴的な
 傾向をいくつか拾い上げてみましょう。
  まず、生活実感からです。生活が「かなり苦しい」または「やや苦しい」という回答が76%を占めてい
 ます。昨年の64%から一気に12ポイントも増えました。反対に、「かなりゆとりがある」および「ややゆ
 とりがある」が6%から僅か1%に減りました。生活実感が相当に悪化しているのが分かります。


      <生活実感 − 2013年>              <生活実感 − 2012年>
  


B) 理由は言うまでもないですね。賃金と一時金のカットが大きく影響しているのが、はっきりと見てとれ
 ます。

D) そうでなんですけど、ちょっと驚くのは武蔵と玉川の差です。玉川では苦しいという回答が92%に達
 しています。


  


B) 玉川だけでは無いですよね。その他(武蔵と玉川を除く拠点の合計)も、玉川とほぼ同じ91%です。
 むしろ武蔵の方が特異であるようにも見えます。

C) 武蔵の結果は、日立やNECや沖や東芝など、電機の他社の結果に近いですから、特異では無い
 と思います。それよりも旧NECエレクトロニクスは、ずっと低水準の一時金が継続していますから、旧
 ルネサステクノロジよりも生活実感が悪化しているのでしょう。実際に、「月額であといくら必要か」の
 回答でも、玉川では2/3が「5万円以上」と回答しています。


 


B) 今年は与党でさえ賃上げに言及したことで、少しはプラスの影響が出ることに期待したのですけど、
 社会全体はともかく、ルネサス個社では期待できませんからねえ。

C) ちょっと驚いたのは、2月半ばに麻生副総理が、企業の内部留保を勤労者の所得に還元すべきだ
 と言ったことですね。自民党でさえそう言うのかと。

B) あの発言は良かったと思います。

D) 確かに、今年の春闘はどこの企業で何%賃上げとか言うニュースが聞かれますけど、中身は結構
 あやしいですよ。私たちの言う賃上げとは、ベースアップのことです。つまり同じ年齢・職種の賃金が底
 上げされることです。それに対して、連合系の労働組合が言う賃上げには、定期昇給や手当の増額が
 含まれているのですね。定期昇給を賃上げと呼ぶのも問題だと思っていたのですけど、今ニュースで
 流れているものの中には、一時金を増やすというものまで賃上げと呼んでいるでしょう。言葉の定義事
 態が全く違うじゃないですか。

B) それはそうなんですけど。今までは「内部留保を還元しろ」という言葉自体が、特に若い世代にはネ
 ガティブ に捉えられる部分があったと思うのです。それを麻生さんが内部留保を賃金に回せと発言さ
 れたことで、ネガティブなイメージをかなり払拭できたのではないかと期待しているんです。

D) ネガティブとは、どんな意味でしょうか。

B) 内部留保の源泉って企業が上げた利益でしょう。企業が努力して成功して上げた利益を、外部の
 人が取り崩せと要求するのは、ずるいとか、ひがんでいるんじゃないかとか、とにかく卑しいことだ、み
 たいな感じです。

D) なるほど、竹中平蔵さんみたいな捉え方ですね。

A) 事実は逆ではないですか。自動車や電機産業が莫大な内部留保を溜め込んだ過程には、製造業
 派遣などによる労働者の賃金の買い叩きがありました。本来きちんと払わなくてはならない賃金を、
 払っていないことで利益を計上した結果ですよ。

C) 企業努力という意味では、21世紀に入ってから、日本の電機産業は魅力的な製品をなかなか造り
 出せていないんですよ。それなのに利益だけは上げて来たんです。人件費を削ることによってです。
 労働者にしわ寄せさせることで、本当の問題を不可視化して、先送りにしてきてしまったと言えます。
 今年ルネサスが業績を大幅に落とした原因には、国内主要顧客のシェアダウンがありましたが、これ
 などは先送りした問題が、ここに来て噴出したものとも考えられます。

A) しかし、Bさんの話を聞いて、単に内部留保を取り崩せと言うだけでは、私たちのアピールの仕方と
 して不十分かも知れないことが分かりました。

C) 私は経済の仕組みからの説明も必要なのではないかと思います。お金の巡りというのは、体の血
 液の巡りみたいなものです。体の組織全体に血液が行き渡らないと健康体になれないのと同じように、
 お金も社会の隅々、最終的にはすべての人に行き渡らないといけません。
  内部留保は企業が溜め込んだお金ですが、これは別に企業の本社の金庫の中に現金が入ってい
 るのではなくて、通常は新たに投資に使われたり、固定資産に置き換わったりしています。投資の中
 には投機、つまり金儲けだけを目的にした財テクも含まれています。もちろん、金融商品や株式を買う
 ことで、社会の必要なところにお金が回って経済が活性化するではないかとの考え方も正しいでしょ
 うし、企業が生き残って行くために株式購入によるM&Aが必要だという意見もあります。また、もっと
 シンプルに「お金儲けしちゃいけないの」という疑問もあると思います。しかし考えるべきは、その儲け
 たお金が、一体いつになったら一般の人々に還元されるのかと言う事です。

A) お金の使われ方には、良い使われ方と悪い使われ方があると私は考えています。良い使われ方と
 は、人々を幸せにする使われ方であり、悪い使われ方はその逆です。一番良いお金の使われ方は、
 私たちが生きていくうえで絶対に必要なもの、例えば住居とか、衣服とか、食料とか、そう言ったもの
 を買うために使われることです。次に良いお金の使われ方は、教育や文化、医療や保育、趣味や娯
 楽など、私たちの生活を豊かにする目的で使われることです。反対に、悪いお金の使われ方とは、戦
 争や破壊のために使われるとか、全く役に立たない事業にムダ使いされるとか、私たちの生活を妨げ
 るような投機活動、これには例えば食料やエネルギーや資源を買い占めて高騰させると言ったことな
 どが該当しますが、こうした私たちの多くを不幸にする用途に使われることです。さて、内部留保が増
 えていくと、結果的にどちらの方向に向かうのでしょうか。

D) 製造業の現場には、非正規雇用でワーキングプア、つまり働いているにも関わらず生活していくの
 に十分な収入の得られない人が大勢いるんですよ。Aさんの話からすれば、働く人の賃金を買い叩い
 て、当たり前の生活に使われる筈だったお金を削って企業の利益に回すことで内部留保を増やすと
 いうのは、なんぼなんでもおかしいと思いますね。まともな水準の賃金をきちんと払えば、それが生活
 に本当に必要なものの消費に使われて、Aさんの言われる一番良いお金の使われ方になっていきま
 すからね。

C) 何年か前に村上ファンドの村上世彰(むらかみよしあき)さんが「お金儲けって悪いことですか」って
 言ってましたけど、江戸文化研究者の田中優子さんは、はっきりと「お金儲けは悪いことです」と言われ
 ていました。「お金を儲ける」と「お金を稼ぐ」では意味が違うのですよね。ジャーナリストの内橋克人(う
 ちはしかつと)さんは、労働の対価を「お金」、投機のために世界中を駆け巡っている実体経済を超え
 た架空のお金を「マネー」と呼んで区別しています。「お金を稼ぐ」とは、労働の正当な対価を受け取る
 ことです。一方で「お金を儲ける」とは、不労所得を大量に得ることです。私は金融の役割を否定しませ
 んが、全世界で労働によって生みだされる価値をはるかに上回るマネーが駆け巡っている現在の状
 況は、不健全でおかしいのではないかと思っています。世界中で金儲けが際限なく肥大していけば、
 巨大なマネーの動きによって実体経済が破壊されてしまうのではないでしょうか。実際、90年代後半
 に起きたアジアの通貨危機なども、国の外部から大量に外貨が押し寄せてバブルを起こし、その後で
 さっと引き上げることで一国の経済を引き倒してしまっていました。
  こうした世界中を駆け巡るマネーは、米国のサブプライムローンが引き起こした住宅バブル問題に
 見るように、一時的には私たちの生活に潤いをもたらす事はあっても、長期的視野で見たときには、
 人々をさらなる貧困に陥れ、リーマンショックの様な世界金融大恐慌さえ引き起こすことが分かりまし
 た。

A) ですから、「地に足の着いた経済」と言うのが重要なのだと思います。働く人に十分な賃金が回っ
 て、本当に生活に必要なもの、生活を豊かにしてくれるものに消費が回れば、それらを生産している
 事業者も利益を得て、更にこうした事業が活性化し、雇用の機会が生まれるとともに、もっと良い製
 品が世の中に出回る様になるでしょう。

C) むかし、労働者の賃金を上げるとインフレになるではないかとの反論が経済界からあったのです。
 しかし、今ほど賃上げによるインフレがウェルカムな時期は無いと私は思いますよ。

B) そのくらいにしておいて貰えませんか。そういった経済とか労働問題の難しい議論じゃなくて、もっ
 と生の感情に訴えるメッセージが必要だと私は思います。きちんと理屈を言えば理解してもらえるに
 違いないって言う考え方だけではダメだと思うのですね。だって、そういう考え方って、「きちんと理屈
 を言っても理解されないのは、相手の勉強が足りないからだ」みたいな傲慢な考え方に、容易にすり
 替わると思うからです。
  内部留保を取り崩せという訴えを、ずるいとか、ひがんでいると捉えるのは、そう考える人にとっては
 正しい物の見方なんです。だから、「なぜそれが正しい考え方になるのかを自分たちが学ぼう」としな
 い限り、相手の心に届くようなメッセージを発するのは難しいと思いますよ。

A) では賃金についてはこれくらいにして、次に残業時間を見てみましょう。