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ルネサス懇、2012春闘を語り合う。
− 賃金の交渉経過はどうだったのか − |
【賃金の交渉経過はどうだったのか】
A) ここからは、ルネサスの春闘の交渉経過を見直してみたいと思います。そのために、今春闘に至るま
での過去の交渉経過を振り返ってみましょう。昨年の春闘と、秋の人件費削減施策における私たちの論
議を思い出してください。
昨年の春闘は、一時金4.5ヶ月を要求し、4.0ヶ月をどれだけ上回れるかと期待して、交渉の行方を
見守っていました。そしていよいよ来週回答というところで、3月11日(金)の巨大地震があり、回答が流
れてしまいました。
震災より1週間ほど前に、私たちは春闘の行方について議論していました。その議論の中で、昨年こそ
は、統合会社が迎える最初の春闘として、今後のルネサスエレクトロニクス社の賃金水準を決める大事
な試金石になると考えました。100日プロジェクトの初年度として、営業黒字を目標に掲げていた昨年で
したが、2009年度の年度末対策で特約店在庫を増やしたことや、円高や、受注減退の影響を受けて、
外部にコミットした70億円の営業黒字は、達成できるか出来ないか微妙なところだったと言われました。
財務体質についても議論しましたね。製造業大手の溜め込む莫大な内部留保は社会問題ですが、ル
ネサスに限って言えば、狭義の内部留保である利益剰余金が2010年末で−2414億円にも上ってい
ました。資本剰余金は4504億円もありましたが、このうち半分は親会社からリストラ用に注入されたも
ので、昨年5月に償還したELの転換社債に1100億円を充てるなどで、減っていくことが判っていました。
だから、内部留保を取り崩すべしとの主張は、ルネサスには不適当だと考えましたね。そして何よりも本
業がずっと赤字であることこそがルネサスの最大の問題であるから、赤字体質脱却のために、目先の小
金をけちるのではなく、従業員を生かすためにも、一時金はある程度の水準の確保が必要だと結論付け
ました。従業員を単なる固定費を見なすような文化では、一人ひとりが主体的に仕事に関わろうとする意
識を阻害すると考えたからです。
それから、要求を実現するために最も重要なのは、労働者の要求を「集約」することだとの結論になり
ました。元来、一人ひとり異なる要求を持っている労働者が、お互いの妥協点を探って要求を纏め上げ
る過程が無ければ、強固な意志をもって経営者に対峙できないし、ストライキも打てないのではないかと
言う事でしたね。それこそが労働者の団結であると考えました。
C) 昨年の春闘は、一時金4.0ヶ月で一旦は決着し、震災の影響を見ながら、必要に応じて会社からの
申し入れを受けることになりました。そして8月末になって、ある意味「予定通り」会社から人件費削減の
提案がありました。震災で被った多大な被害の調整をさせて欲しいと言うことであれば、もう一度3月の
時点に遡って、年末の一時金の見直しを要求するのが筋ではないのかと思いましたが、会社は一時金
と賃金の両方のカットを提案してきました。賃金と一時金減額の根拠も、震災と言うよりは、2011年度
下期の半期での黒字化のためでした。見えている業績に対してではなく、半年先の未来の業績着地点
を確実にするために賃金カットをさせて欲しいとの会社提案は前代未聞でしたね。
とにかく、100億円分の人件費カットは、業績回復のための根本対策ではないと言うのが私たちの結
論でした。だから、前回の議論の最後は、「『予想以上に円高が進んで業績が伸びなかった。あのとき
に賃金カットの判断をして置いてよかった。さもなければ、もっと大変なことになっていた。』などと後ろ向
きな言葉を、次の春闘では聞きたくない」との言葉で締めくくりました。
D) 区分Eは、一昨年夏の一時金が1.75ヶ月で、区分Rの2.0ヶ月と差がついたのが尾を引いていま
したから、昨年の春闘では、久しぶりの4.0ヶ月回答に喜んだのです。ところが、年末から4Qにかけて
賃金一時金減額でしょう。また裏切られたかとの思いがありました。もはや一時金の産別ミニマム4.0
ヶ月確保でさえも悲願になっています。
B) 今年は厳しい会社事情と、悲願の一時金4.0ヶ月確保とがぶつかりあった春闘でしたね。100億円
の人件費カットをやったにも関わらず、1月末に発表された3Q決算報告によれば、更に赤字が拡大して、
最終損益は570億円の赤字見込みとなり、下期黒字化の目標を諦めざるを得ませんでした。ルネサス
の格付けも1ランク下がったと報告されました。
A) 以上のような背景のもと、2月16日に労働組合は会社に対し要求を提出しました。要求項目は主に
4つでした。ひとつ目は賃金体系の維持、2つ目は一時金4.3ヶ月分の要求、3つ目は産業別最低賃金
の引き上げ、そして4つ目が雇用延長制度の改定です。厳しい春闘になることは疑いありませんでしたか
ら、第一回目の要求提出の時点で会社から逆提案があるかも知れないと私たちは予測しました。しかし、
これは杞憂でしたね。
B) 賃金カットの継続とか、カフェテリアポイントの凍結とかが、あり得ると思っていました。職場では賃金
カットが4月以降も継続されるのではないかと心配する向きがかなり多かったです。
D) 制度一元化で区分Eにもカフェテリアプランが導入されることになりましたでしょう。毎年4万5千円分
のポイントが付与されるのは結構ですけど、福利厚生のための制度を何でもかんでも一まとめにしたこ
とで、会社としては業績ストレッチに使いやすくなりましたよね。一斉にポイント付与を凍結してしまえば
簡単ですからね。これは福利厚生における「固定費の変動費化」という面があるのだろうと思いました。
C) もし今後カフェテリアプランを凍結することがあるのなら、せめてポイントの凍結ではなくて一部メニュ
ーの凍結にしてもらいたいですよね。旅行代金の立替のようなものなら凍結しても我慢できますけど、
自動消化ポイントの対象になっているような必要性の高いプランまで一律に凍結されるとしたら問題だと
思いますね。
B) 育児関係などは、ポイント単価が110円に設定されていて、他のメニューよりも優先度が高いですか
ら、これも残して欲しいです。福利厚生として重要なもの、優先度の高いものと、そうでないものとのメリ
ハリをはっきりさせて欲しいと思います。
A) 賃金体系維持の交渉は、やや難航したようですね。経団連が定昇廃止や凍結を示唆していた影響
もあるのでしょう。会社は「人件費増額につながる賃金体系の維持は、現時点の企業体力を超えた対
応だ」と主張していました。
C) 定昇維持が人件費増額って、ホンマかいなと思いますね。3つの意味で疑問が生じますよ。ひとつ目
は、私たちが昔から言っている「ベースアップゼロは賃上げではない」ことです。定昇のみであれば、こ
れは1年先輩の社員の給料を踏襲するだけですから、会社の賃金原資に変化は無いのですよね。
ごく簡単な例で説明しますね。ある中学校では、1年生にアメ玉1個を与え、2年生には2個、3年生に
は3個を与えるとします。すると、誰でも入学した最初の年は1個もらい、次の年は2個もらい、最後の年
は3個もらうことになります。毎年1個ずつ増えますが、学校が生徒に与えるアメ玉の総数は、(各学年
の生徒数に変化が無い限り)変わりません。定昇も同じです。しかし仮に各学年に与えるアメ玉の数を
1個ずつ増やして、1年生に2個、2年生に3個、3年生に4個にすると、生徒が3年間でもらうアメ玉の個
数が6個から9個に増え、また学校が生徒に与えるアメ玉の総数も増えます。これがベースアップです。
つまり、ひとつ目の疑問は、ベースアップがゼロなのに、なぜ人件費増額なのかと言う点にあります。
それから、今の話は各学年の生徒が同数いることを前提にしていますが、ルネサスの場合、定年退職
者が多い割に新入社員が少なくて、社員は自然減の状況です。だから賃金原資はむしろ漸減するので
はないかというのが2つ目の疑問です。
最後の3つ目は、昨年の春闘で話題にした賃金水準維持の話です。仮に賃金体系を維持しても、昇
級昇格する人数を減らしたり、昇格する年齢を遅らせるなどの処置を会社が執れば、結果的に賃金水
準は保たれなくなるではないか、本当に賃金カーブは同じなのかという疑問です。
以上から、単なる定昇維持だけであれば、この会社の賃金原資は萎んでいくと考えられます。
B) 絶対額で言えば、定昇を行おうと行うまいと、賃金原資は減っていくと言う事ですよね。定昇をした方
が相対的には賃金原資が増えると言いたいのでしょうか。
A) 労働組合としては、賃金原資に対するこだわりが重要でしょうね。黙っていても賃金原資が減るので
あれば、もっと賃金を上げろと言っても良いのではないでしょうか。
C) 確かに、「賃金原資が増える」という理屈は、もともと賃金や一時金を抑制するために会社側が主張
していたものです。原資が減るのなら、賃金水準維持くらいは出来るでしょう。
D) 例年通りの昇級や昇格は、絶対に維持されてくれないと困りますよ。ベースアップゼロで定昇だけだ
としても、若い世代なら数千円から1万円を超える賃金改善があります。私のように、S1のミドルポイン
トを超えてしまっている人間は、数百円しか上がりませんけどね。一口に定昇と言っても、人によって上
げ幅が全然違いますから、維持されないと、ものすごく影響を受ける人と、そうでない人の差が激しく出
ますよ。特に若手社員ほど割を食うんです。
B) その議論は、生涯賃金を視野に入れれば、もっと格差が開きますよね。例えば、月給25万円の社員
が、定昇で来年は26万円にアップする予定だったとするでしょう。ところが定昇凍結で次の1年間は25
万円のままだったとします。すると、再来年は本当なら27万円になっているところが、26万円にしかなら
なくて、その次の年以降もずっと上がり損ねた分が尾を引きます。そのギャップは、ミドルポイントに達す
るか、管理職に昇進するまで続きますよね。仮にS職の人が6千円の昇給をフイにして、その後S1のミ
ドルポイントに達するまでに10年かかったとすると、生涯賃金では72万円も減額される計算になります。
とんでもないですよ。しかも頑張って業績を上げて、賃金の上げ幅が大きい人ほどダメージが大きいで
しょう。だから定昇凍結なんて有り得ないのではないかと私は思います。さもないと若い社員がやる気を
なくしてしまいますよ。
D) 成績不良で賃下げ予定の人には、かえってラッキーですね。(笑)
A) 年齢や業績によって、賃金の上げ幅に大きく差がある今の制度では、経団連が何と言おうと、定昇廃
止は会社にとって非常にやりにくいと考えられますね。せいぜい昇給時期を遅らせる凍結まででしょう。
当然ですが、電機連合は、定昇凍結も賃金体系の維持とは認めていませんよ。
B) 新人事制度における賃金制度も、制度一元化の中で決めたのですから、「制度一元化の論議を蒸し
返さない」とすれば、賃金体系も当然維持となりますよね。つまり、賃金体系を維持するための戦略とし
て、あえて制度改定の要求をしなかったとは考えられませんか。
D) それならそうと、はっきり言うでしょう。
A) それどころか、ではなぜ賃金体系維持を要求項目に掲げたのかと疑問が沸きます。 「賃金制度の有
効期限は1年だから、来年の賃金体系維持は春闘の度に要求する必要があるのだ」みたいなことを言う
人も居るけど、違いますよ。賃金制度に限らず、労働協約には有効期限があるのだけれど、労使とも何も
提案しなければ、現行制度のまま継続になりますから、単に今の制度を維持したいのであれば、それを
要求する必要は無いのです。
B) 賃金体系維持を要求項目に掲げていること自体が誤りではないかと言う事ですね。
D) それでも敢えて要求する意義は何なのかという事ですよ。今回の労働組合の主張で目を引いたのが、
第2回目の交渉における「賃金体系の維持とは従来規模の昇格・昇給原資を確保することだ」と言ったこ
とです。過去の交渉では、そこまではっきり言っていなかったと思うのですよ。この一言が無かったら、賃
金体系維持の要求が無意味になるところでした。労働組合が、このように要求した以上、今年の会社回
答における体系維持は、原資を確保することを含めた維持であると解釈できますね。
B) とにかく、労使の約束に従って、賃金カーブの維持を確実なものとして欲しいですね。4月の制度改定
前後で、賃金カーブがどうなったのか、ちゃんと比較して報告してもらいたいです。区分Rの場合、RSから
S職に変わったり、号俸給制が無くなったりで、制度の表面だけを見ているだけでは、比較は難しいと思う
のです。だから年齢毎の平均賃金がどうなっているのか、賃金カーブで比較するしか検証のしようが無い
と思うのですよね。
それと、賃金水準維持については、今年の4月と10月の異動状況を見ていれば、ある程度把握できる
のではないでしょうか。注目点は、区分EのA2からS1に昇格する人数や、区分RのRS2からS1に昇格
する人数です。それと管理職に昇進する人数も例年と差が無いかどうか見たいです。
C) 年齢も着目点ですよ。制度一元化の論議のときに、そもそもA1になる年齢とRS1になる年齢では、
RS1の方が高いとの話がありましたよね。現時点でA1とRS1が同じではないのに、新制度では「A1は
S1になります、RS1もS1になります」と説明されています。じゃあ、現在A2やRS2の人は、とりあえず
S2に移行するとして、そのあと何歳でS1に上がれるのでしょうか。S1からS2に上がる年齢は、区分R
とか区分Eとかに寄らず、同じでないといけませんよね。と言う事は、現在A2の人がS1に上がる年齢は、
後ろにずれるのではないでしょうか。
昨年の4月に、1年先輩が主任(A1)になるのを見ていた人は、自分もこの4月でA1=S1になるもの
と期待しますよね。ところが、制度一元化で昇格時期が10月へ半年先延ばしになり、更にそこでもS1に
上がれなかったら、どう思うのでしょうか。
B) 純粋に不公平だと思うのではないでしょうか。制度統合の結果だから仕方が無いとは思わないでしょ
う。人によっては「運が悪かった」と諦めてくれるかも知れませんが、損をしたとの思いは残るでしょうね。
D) 区分Eの制度だと、A1に上がるときに賃金が一気に27000円アップするでしょう。だけど次回からS1
になる人には、これが無いのですよね。だから余計に損をしたと思うのではないでしょうか。1年先輩の
給与明細と比較したら、ちょっとショックを受けるかも知れませんね。その差って、当面取り戻せませんか
らね。制度統合前に主任・技師クラスに成れたか成れなかったかで、賃金カーブに3〜4万円差が付くケ
ースが出てくるのではないかと思います。
C) 裁量労働の是非はこの際置くとして、A1とRS1が異なる以上、本来はどちらかに片寄せすべきでは
なかったのでしょうか。今回の場合であれば、A1=S1として、RS2の上位者もS1への引き上げをすべ
きだったように思います。それが一番文句の出ない区分けだったのではないでしょうか。だいたい、どの
制度もRかEに片寄せすると言っておきながら、何で職群は折衷なのでしょうか。
A) 区分Rの技師クラスと区分Eの主任クラスが同じであると定義せざるを得なかったのでしょう。
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