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ルネサス懇、2012春闘を語り合う。
− 電機の春闘 − |
【電機の春闘】
A) 電機連合が1月末に開催した中央委員会をもって、今年の春闘方針が決定しました。電機連合が出
した方針は、賃金体系の維持、一時金は年間5.0ヶ月を中心に要求するというものです。また、今年は
2年に1回の、労働協約改定の年にあたります。労働協約関連としては、雇用延長制度について、「希
望者全員の雇用」の実現を目指す方針を掲げました。それ以外としては、時間外割増率の改善や育児
介護施策に関して、目標に達していない組合の前進を図るとしていました。以上から、総じて要求事項
の乏しい春闘だったと言えます。
D) 一昨年の春闘では、時間外割増率の改定が目玉でしたね。日本の法定時間外割増率は25%です。
電機大手は法定基準を上回る30%ですが、それでも他の先進国の多くが50〜100%に設定している
のに比べると、低い水準にあります。30%の割増率では、「残業代割増分を含めても、たくさん残業させ
た方が、会社にとっては得」なのです。そこで、割増率をもっと上げて、「残業させたら損」の構造に変え
て行くべきだとの主張は、かねてからありました。ですが、労働基準法の改正は保守派の強い抵抗に
遭って、「月に60時間を超えた分を、従来の25%から50%に引き上げ、60時間以下は現行通り25%」
という、かなり限定的な改善しか出来ませんでした。これが今の日本の到達点です。労働者の心身の健
康、ワークライフバランスの向上、労働の機会創出といった目的から、残業時間を減らして、年間1800
時間の目標に到達させようとしていますが、実現には、まだまだ長い年月が必要なのでしょう。
B) 改正労働基準法の施行は2010年の4月からでしたよね。割増率の改定も、既に適用されていない
とおかしいと思いますが、今春闘で電機連合の言う「未達成組合」とは、何を指すのでしょうか。
A) 法に従えば、50%の割増率が義務化されているのは大企業だけで、中小企業については、当面猶
予されているのです。したがって未達成組合とは、中小の組合のことを指します。そこで、企業規模に関
わらず50%の割増率を適用すべきと言うのが電機連合の方針です。法律に先駆けた達成を目指してい
るのです。
D) 一昨年は、45時間から60時間の間も割増率を引き上げようと取り組んでいましたよね。結局、これ
は叶いませんでした。法律とオンラインで妥結することになりましたので、単に法律に従っただけとも言
えます。つまり何も勝ち取れなかったのだと。
A) 形式的には、その通りですが、割増率を改定しようとの世論を造り、法改正につなげていく段階でも
労働組合は役割を果たしているのですから、何もしなかったと言う訳ではないですよ。そこは評価してく
ださい。
B) しかし、一昨年の春闘のリベンジを図るのであれば、45時間から60時間の割増率引き上げは、今
春闘でも当然要求して良いはずですよね。
A) そうです。そこが私にも解せないところです。上部団体が掲げる方針の中には、年間1800時間労
働のように、20年以上も前から掲げ続けているものもあります。1回や2回の交渉で実現せずとも、粘
り強く要求を続けていくのが基本だと思いますよ。なぜ今回、割増率引き上げを要求事項に入れなかっ
たのか、理由を知りたいですね。今の日本の割増率の水準が十分であるとは、私には思えません。
C) 時間外割増率を上げても、長時間労働問題の解決にはならないとの批判もありますよ。ルネサスの
管理職などは月報制で、残業時間管理があいまいですよね。そのような労働者は、その分基本給が高
めに設定されているのだから、もし仮に時間管理を徹底し、かつ割増率を上げれば、今度は基本給が
下げられてしまうと言うのです。だから、今と同じ収入を得るために、やっぱり長時間残業するか、さもな
ければ収入の減少に甘んじなくてはならなくなると言うのですよ。
A) 基本給の賃下げは、労働条件の不利益変更の最たるものですね。変更には、労働者側の同意が
必要になりますから、その議論は使用者側の立場を代弁しているとしか思えません。
続いて、今春闘のメインテーマである雇用延長制度の充実については、どうお考えでしょうか。
C) 電機懇では、NEC&関連労働者ネットワークが中心となって、長い間この問題に取り組んで来まし
た。2006年の改正高齢者雇用安定法では、希望者は誰でも雇用延長を取得できることが原則となり、
仮に「成績下位の者は除外する」のような基準を設ける際には、会社と労働組合で労使協定を結ばな
ければならないと定めたのです。この改正法の下で、電機連合は、「希望者全員を対象にしなければ、
労使協定を結ばない」との方針を出しましたから、大いに励みになりました。NEC真空硝子で雇用延長
を訴えていた鈴木さんを応援する取り組みでも、この電機連合の方針を活用させてもらいました。
B) 法律への対応が必須なのは理解しますが、高齢者の雇用確保のために賃金原資が使われること
で、若年層の雇用を圧迫して、就職難に拍車をかけているとの考えが、未だに残っています。こうした
考え方に対して、きちんとした説明が必要ではないでしょうか。
C) その通りだと思います。労々対立の構造と言うのは、至るところにありますが、中高年と若年労働者
の対立の図式もその一つですね。
A) Bさんなら、どう説明されるのですか。
B) どう説明すべきか悩んでいます。話し言葉で説明するのって、難しいんですよね。こちらが理屈を順
番にきちんと説明しようとしても、相手が聞いてくれないと話が途切れてしまうのですよね。実際に、話
をじっと聞いてくれる人は少ないですよ。思い込みの強い人ほど、人の話は聞いていないし、すぐに話の
腰を折ろうとします。じゃあ、書き言葉で伝えられるのかと言うと、これも最近では、携帯の画面からはみ
出す文章は「長文失礼しました」でしょう。理念とか概念とか主張って、どうやったら伝わるのでしょうか。
A) それは永遠のテーマですね。ひとつ言えることは、伝えるテクニック以上に、まず機会がなくてはなら
ない事です。それは我々が伝える機会であり、相手に考えてもらう機会です。考えてもらう為には、ひと
こと、ふたことで足りる場合もあります。例えば、相手の思考の前提に「AとBは同じである」という命題が
あることに気付いたとすれば、「AとBって違うよね」と、ひとこと言うだけで、相手は考えるものです。
B) はあ、そういうものですか。抽象的ですね。
A) じゃあ「国際競争力」を例に上げましょう。国際競争力という言葉は、企業の競争力を言うこともあれ
ば、日本国の競争力を言う事もあります。「日本経済は国際競争力を持つべきだ」と考える人は多いと
思いますが、そういう人は同時に、「企業は国際競争力を高めないと生き残れない」とも考えるかも知れ
ません。そのとき、日本国の競争力と、企業の競争力は、同一視されている可能性があります。
しかし現実には、ルネサスのような国際企業などは、市場にあわせて海外展開をしないと競争力は高
められないでしょう。だからルネサスは100日プロジェクトで、中国をはじめ海外の雇用を増やす代わり
に、工場閉鎖や早期退職や転籍などで国内雇用を減らしているのです。日立なども、来年度はグルー
プ企業全体で国内の採用を5千人とし、海外は1万人にすると言っていますね。企業が海外展開ととも
に国内の雇用を減らせば、国内消費が減って、それだけ国内の経済は沈滞するし、失業者や低賃金の
労働者が増えて、日本国全体の競争力は失われる方向に傾きますよ。だから企業の競争力と国の競
争力は、必ずしも一体ではないのです。
そんな感じで、「企業が国際競争力を保つためには積極的な海外展開が必要だけど、そうすると日本
全体の競争力を低下させてしまいかねないよね」って言えば、相手は「おっ」と思って考えてくれるかも
知れません。考えた結果、「いや、その2つは両立するはずだ」と思うかも知れないし、「じゃあ、海外展
開以外の方法も必要だ」と思うかも知れないし、「一企業よりも国全体の方が大事だ」とか「失業者対策
やセーフティネットをきちんとしないと、海外展開が日本国民を不幸にしてしまう」と思うかも知れません。
どう考えようと、それは相手の自由で、考えてもらう事に意義があると私は思います。相手に考える意
志があれば、伝える機会もできるからです。
B) 何だか分かったような、分からないような。雇用延長制度の充実に反対する人の主張には、それが
若年層の就職難に繋がるから、つまり雇用延長がAなら、若年層の就職難がBで、AとBは一体だと考
えている訳でしょう。だからAとBが違うと言える根拠が必要だと、私は言ったつもりなのですが。
A) そうやって、いきなり核心を説明しようとせず、別の区分けを考えてみたらどうでしょうか。例えば、「
雇用延長できないと、中高年の失業者が増えて、失業手当や生活保護や医療費など、社会保障費の
支出はますます増える方向だよね。しかも税と社会保障の一体改革の財源として消費税増税が検討さ
れているよね。消費税増税だと、生涯で払う税金の負担は若い人ほど重いよね。」とか、「雇用延長者
の賃金って、産業別最低賃金よりも低い場合があるけど、企業が経験豊かな人の労働力を、こんな低
賃金で確保できてしまったら、ますます若者の就職は難しくなりそうだよね。」とか。
B) 「日本の労働力人口は毎年減っているのに、なぜ失業率が一向に改善しないのだろう」とか。
A) 「GDPは労働力人口に概ね比例するから、働く人が減ったら日本経済はマイナス成長に向うよね。
日本経済の縮小を抑えるには、労働者の数を増やさないといけないよね。」とか、「長時間労働を対策
する方が、雇用の創出に有効なんじゃないの。それに、みんなハッピーになる方向だし。」とかね。考え
れば、次々と出てくるでしょう。
C) それもそうなんですけど、そういう議論は、経済的な側面からの要求によるものですね。しかし考え
て頂きたいのですが、なぜ最低賃金並に低い賃金であるにも関わらず、60歳を過ぎてなお働きたいと
思う人が大勢いるのでしょうか。日立や三菱やNECと言った、全国に名の知れた有名企業に40年も
勤めてきて、なおかつ低賃金の雇用延長を欲するとしたら、その原因は何でしょうか。その程度の収入
しか得られなかったということでしょうか。雇用延長制度は「希望者全員」が原則ですが、裏返すと、本
人が希望しなければ延長させなくても良いのですよ。そこまでして働きたいのは何故なのかを考えるべ
きでしょう。
D) 私が高校生の頃、これから大人になって就職したら、もう60歳の爺さんになるまで遊べないのだろ
うなあと思って、暗澹たる気持ちになったのを思い出しました。ところが現在は、60歳になったら遊べ
るどころか、経済的に困窮して、もっと働かせてくださいと御願いしなくてはならないのだから、この事
実を今の子供や学生が知ったら、何と思うでしょうかねえ。
この国は、労働力が不足しているのか足りているのか、さっぱり分からないのですよね。
C) 低賃金にも文句一つ言わず、長時間働き続ける優秀な労働力なら、いつでも不足しているのでしょ
う。雇用延長者の賃金を買い叩いているのも、弱みにつけ込んだ「労働ダンピング」の一環だと私は考
えています。今は年金の不足分を賃金で補うとの考え方が根底ありますが、それならば年金不足分を
充足できる賃金に見合った労働時間でも良い筈です。時間給が下がらないように労働時間を短縮する
のが筋でしょう。ただし労働時間短縮には、労働者側の反発もありますけどね。
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