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ルネサス懇、2012春闘を語り合う。
− 春闘を取り巻いていた社会の動向 − |
参加者 : A委員(ルネサステクノロジ出身:座長)
B委員(ルネサステクノロジ出身)
C委員(NECエレクトロニクス出身)
D委員(NECエレクトロニクス出身)
【春闘を取り巻いていた社会の動向】
A) 本日もお集まり頂き、ご苦労様です。昨年末からずっと寒い日が続いてきましたが、ようやく少し和ら
いできたようです。もうあと10日もすれば桜の咲く季節ですね。
さて、今年の春闘は、先週水曜日の会社回答により集約しようとしています(※)。そこで今日は、今春
闘の経過を辿りながら、毎年恒例の「振り返り」をしてみたいと思います。みなさんそれぞれの感想や思
いなどを、大いに語って下さい。1年前にここで話合った内容を覆しさえするような、元気で熱い論議にな
ることを期待します。
(※注 : 本討論は、3月18日の時点の情報に基づいています。)
【春闘を取り巻いていた社会の動向】
A) ルネサス個社の春闘を論じる前に、外部環境がどうだったのかを少し見ておきましょう。
まず、1月の後半から2月上旬にかけて、電機各社が軒並み業績の下方修正を発表しました。中でも
一番目立ったのがパナソニックで、今年の3月期の最終損益が、7800億円もの赤字になる見込みだと
報告されています。それからソニーも2200億円の赤字予測ですし、シャープも2900億円の赤字予測を
出しています。これらの会社に共通するのは、テレビ事業の不振です。自前生産にこだわって、各社とも
生産工場に大規模投資をしたものの、最近の急激な価格下落に追随できずに、事業そのものの見直し
を迫られていると言うものです。我々半導体業界と似たような現象が、テレビ事業でも起きている様です。
C) つい10年前、私たちの会社は、デジタル三種の神器と言われた薄型テレビ、DVD、デジタルカメラ用
の高機能なシステムLSIを、事業の中核に据えるのだとの方針を出していました。そのとき、パナソニック、
ソニー、シャープなどの国内家電大手は、私たちがターゲットとする最重要顧客の位置づけでした。薄型
大画面テレビなどは、EMMAと表示デバイスで攻略していく方針でしたのに。こうした市場動向は、私た
ちの会社の事業にも大きく影響していますね。
B) システムLSIは、顧客の御用聞きになってしまって、高機能だけれども、高コストで汎用性の乏しいも
のを多種造ってしまったのが失敗の原因だったと聞きます。日本の半導体事業の出自が、大手電機の
部品供給部門だったために、とにかく顧客の要求するものを造るという体質から抜けられなかったと言わ
れていますね。
D) 国内顧客の不振は、我々にとっても痛いですね。だからルネサスは、100日プロジェクトで海外売上
比率のアップを掲げて、特に中国などの新興国市場でのシェアを伸ばそうとしているのですが、努力が成
果に結びつくまでには時間がかかりますからね。
A) テレビ事業で大赤字を出した会社以外では、私たちの”大株主様”であるNECも、1000億円の赤字
見込みを発表しています。
C) あれはおかしいと言うのが、私の見方です。営業利益は700億円の黒字が出ているのです。ところ
が、繰り延べ税金資産の取り崩しとか、リストラの費用とかを計上したために、見た目で大赤字になった
のです。
A) 先の3社にしても、パナソニックは300億円の営業黒字、シャープは損益ほぼゼロの予測ですね。ソ
ニーだけは営業赤字ですが、赤字額は950億円で、純損益の赤字よりはだいぶ少ないですね。パナソ
ニックなどはNEC以上にリストラの大ナタを振るった結果だと言えます。
B) 大金をかけてリストラをすると、例え大赤字になっても株価が上がったりするでしょう。あれは、「まだ
リストラできる体力がある」とか、「リストラによって不採算部門が整理されて今後は利益が出るに違い
ない」とかの評価を市場から受けた結果だと言います。そういうところに、現代の行き過ぎた投機経済の
病理を感じます。
C) まあNECの場合も、そうした投機経済の圧力を相当に受けているのは間違いないですね。NECの
株価は100円台まで下がっているし、外部機関の格付けも下がっていますからね。格付け会社である
R&Iの評価は「A−」、スタンダードアンドプアーズの格付けでは「BBB−」ですよ。ルネサスよりはマシ
ですけど、良くないですね。
それで、今回の業績下方修正と同時に1万人のリストラを発表しましたでしょう。つい2年前に2万人の
リストラをやったばかりですよ。一体何なのだと思いますよね。その前回の大リストラの2010年2月に、
NECが発表した再生プロジェクトが「V2012」で、この中では、2012年度を一区切りに業績をV字回復
させようとの目標を掲げていました。私が思うに、V2012の最終年である来年度の業績を良く見せるた
めに、今年の内に出来るだけ赤字を計上しておいて、しかも赤字を口実にリストラをして固定費も減らそ
うとしているのでは無いかと言う気がします。すべては来年のためではないかと言う事です。
矢野−遠藤体制は、もしV2012に失敗すれば、当然ながら経営責任を問われて、退陣するしかない
と言われていますが、本当は今の時点でもV2012自体が半分くじけているのです。当初の目標が、20
12年度に売上4兆円だったにも関わらず、現時点の見込みでは3兆円台前半に留まりそうだからと言う
ので、3兆円規模でも利益が出るようにリストラをすると言っています。目標を大幅に下方修正している
時点で失敗を認めないのでしょうかね。他の電機大手に比べて低い海外売上比率についても、まずは
20%から25%に上げようと目標を立てながら、実は10%台に下がってしまったのですよ。それらの落
とし前を、大量リストラで従業員に押し付けようと言うのでしょうか。普通は経営者が責任を取るのが先
でしょう。
A) 私たちの古巣であり、”大株主様”であるNECの業績不振もまた気になるところです。リストラに関し
て言えば、NECだけでなく、他の電機大手も大リストラの嵐です。現在調査結果をまとめているところで
すが、例えばパナソニックなどは、パネルの工場を5拠点から2拠点に集約しようとしています。それから
TDKは、向こう2年間で全従業員の13%にあたる1万1000人を国内外で削減すると言われています
し、つい先月の日経によれば、リコーは早期退職を募集した結果、予定数の1600名を大幅に超える応
募があったとのことです。
<電機の主たるリストラ情報>

A) 私達の半導体業界に絞ってみても、まず東芝が北九州工場をはじめ、千葉県の茂原と、静岡県の浜
岡の工場を閉鎖すると報じられています。大分の工場も縮小され、500名が配置転換されると言います。
それからパナソニックの半導体についても、富山県の魚津と砺波、それに新潟県の妙高の3工場をリスト
ラするとの報告があります。他にも、日本TIの大分県日出(ひじ)の工場が売却を検討されていたり、シリ
コンウェハーの大手であるSUMCO(サムコ)も、兵庫県の生野工場を閉鎖し、長崎と伊万里の工場のラ
インも縮小して、全従業員の15%にあたる1300人の削減を図るとの情報があります。
D) 電機も半導体も、えらい一年でしたね。ものすごい円高があり、タイの洪水があり、欧州の金融不安が
あり、そして何よりも1年前の震災があり。
B) あの大震災では、ルネサスも大変な被害を受けましたし、地震の直後には、本当にこれからどうなっ
てしまうのか、会社の存続さえも分からないのではないかと、気をもみました。あの1年前のことを思い出
せば、今日、こうして会社が存続し、来年の業績を見据えながら春闘を語れることもまた、大変ありがた
い事に思えます。
A) 確かに、震災を筆頭にして、外的要因によって半導体業界の受けたダメージは、非常に大きかったと
言えます。しかし、各社が抱えている構造的問題があるが故の業績不振であって、外的要因はそれを早
めたに過ぎないと言うのが、大方の見方でもありますね。
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