ルネサス懇、「2011春闘」を語り合う。

− 内部留保の議論はどうなっているのか −

【内部留保の議論はどうなっているのか】

A) 我々は従来から、企業の内部留保に注目して、もっと従業員に還元すべきだと言って来ました。特に
 21世紀に入ってからは、リストラが横行し賃金が上がらない一方で、大企業が莫大な内部留保を溜め込
 んでいるという現実がありますので、益々この点を強調しています。
  企業の資産の中で、狭い意味で内部留保と呼べるのは、利益剰余金です。利益剰余金とは、事業活動
 で生じた利益を積み立てたものです。そこでルネサスについて、12月末時点での貸借対照表から利益
 剰余金を見てみますと、−2414億円となっていますね。利益剰余金がマイナスですから、内部留保があ
 るどころではないという事になります。ここが他の電機大手と最も異なる部分です。これは本業で長年利
 益を上げていない結果であり、かなり問題だと見て良いでしょう。

B) じゃあ、内部留保が無いから賃金も一時金も諦めなくてはいけないのでしょうか。今の話は、あくまで
 も狭義の内部留保ですよね。それで広義の内部留保はどうなるのかが大事ですよね。

A) そうです。何をどこまで内部留保に含めるかは、いくつか説がありますが、ここでは金額の大きい資本
 剰余金と退職給付引当金の2つに注目しましょう。
  退職給付引当金を内部留保に含める理由は分かりますでしょうか。これは従業員の退職以降に払う給
 付金の見込みに対し、現在の積み立て分が足りない場合に負債として計上するものなのですが、今すぐ
 退職給付として支払いが必要なのはその内のほんのわずかで、支払うまでは他の用途に運用可能です。
 また、いざとなったらJALのように約束を反故にして、支払わずに済ませることもあり得るので、いわゆる
 有利子負債とはかなり性質の異なるものです。だから内部留保に含めるのです。
  さて、ルネサスの資本剰余金は4504億円で、退職給付引当金は933億円あります。これと利益剰余
 金の合計は3023億円になります。仮にグループ会社48000人で頭割りしても、一人当たり630万円と
 言う莫大なものです。

B) つまり一人630万円も“貯金“があるのだから、少しくらい賃上げや一時金に回しても良いではないか
 という事ですよね。そういう議論も可能ですよね。

D) 確かに広義の内部留保から見れば、余裕が全くない訳でも無さそうです。資本剰余金が多いのが特
 徴ですね。しかしそうは言っても、これは親会社から資本注入された結果であって、これから先、借入金
 の返済などに充てられていくのではないでしょうか。ルネサスには、旧ELが持ち込んだ転換社債1100
 億円の負債があって、これを今年返さないといけないはずです。他にも主にRTが持ち込んだ短期借入金
 が1411億円もあって、転換社債以上に莫大です。これ以外に、1年以内返済予定の長期借入金も353
 億円あって、これら借金の合計が2864億円です。これを全部近い内に返済しないといけません。それに
 対し、現金および現金等価物は3343億円ですから、決して十分とは言えないのではないでしょうか。ど
 こかで資金調達をしないと、やはり運転資金が不足してしまいませんか。

A) 負債の影響を見る指標にはD/Eレシオがあります。これは、有利子負債残高を自己資本で割ったも
 のです。簡単に言うと、借金を払えるだけの財産があるかどうかを意味していて、これが0.4以下なら優
 良、2以上なら危険と言われています。ルネサスのD/Eレシオは1.09ですから、危険ではないにしても、
 良くはないですね。加えて、返済の近い負債が多いことを考慮すれば、実態は1.09と言う数字以上に悪
 いと考えて良いのではないかと思います。

C) 自己資本比率は今のところ29.2%で、見た目は何となく優良っぽいのですが、これも段々下がって
 いくのは既に決まっている事ですしね。

A) 私が言いたいのは、広義の内部留保があるから大丈夫だろうと言うことではありません。先も言いまし
 たように、利益剰余金がマイナスなのは、この会社が長年利益を上げていない結果です。この赤字体質
 自体は大変問題で、何とかしなくてはいけません。この点に関しては、多くの方が共通の認識ではないで
 しょうか。
  結局のところ、本業を何とかしない限り、ここで小金をけちっても本質的な解決にはならないのです。そ
 のためには、現時点でのスタティックな財務状況などを見ているだけではダメでしょう。もっと未来を見据
 えた議論が必要と考えます。