ルネサス懇、「2011春闘」を語り合う。

− 賃金体系維持の要求をどう見るか −

                                 参加者 : A委員(ルネサステクノロジ出身:座長)
                                        B委員(ルネサステクノロジ出身)
                                        C委員(NECエレクトロニクス出身)
                                        D委員(NECエレクトロニクス出身)


A) 今年の冬は昨年末から寒い日が続きますね。もう3月の上旬だと言うのに、つい3日前も東京で雪がち
 らつきました。皆さんも風邪などひかれないよう健康には十分気をつけてください。 さて、ここしばらく討論
 をお休みしていましたが、新年明けて第一回目となります今回は、春闘について語り合いたいと思います。
 半月前の2月17日(木)に、労働組合は会社に対し要求書を提出いたしました。要求内容は、すでにご承
 知のように賃金体系維持と一時金4.5ヶ月です。2月25日(金)には第2回目の団体交渉も行われていま
 す。今回話合いたいのは、主に春闘の要求内容と交渉状況に対する評価と、労働運動の方向性について
 です。それではよろしくお願いいたします。


【賃金体系維持の要求をどう見るか】

A) ではまず、賃金の要求から議論するとしましょう。労働組合は、賃金体系の維持を要求しました。つまり
 賃上げは定期昇給のみでベースアップはゼロと言うことですね。上部団体である電機連合の指示に従って、
 業績好調な大手電機各社も軒並みベースアップゼロですから、要求水準としては他社並みだとも言えます。
 これについて、どう考えますか。

D) 私は賃金体系の維持という言葉に違和感を覚えています。先日ルネサス懇の第3号ビラ作成の際にお
 話しましたが、「賃金体系」の維持と「賃金水準」の維持は同じではないと思うのです。

A) そうですね。先日のお話をもう一度お願いできますか。

D) 電機連合の方針では、開発・設計職基幹労働者の30歳の賃金を基準にしていますね。ELの賃金体系
 には、A職群からD職群まで、4つの職群があります。このうち、主に大卒以上のホワイトカラーがA職群に
 該当します。それからB職群は高卒や短大卒の事務系、C職群は製造関係です。そしてそれらのいずれに
 も属さないのがD職群です。
  さて、以上からELの開発・設計基幹職はA職群に該当します。そこでA職群の30歳時点の賃金を取り交
 わすことになる訳ですが、ベースアップゼロという事は、この金額は現行と同じ月給32万500円を据え置く
 との要求になります。

A) RTの開発・設計職基幹労働者の30歳の賃金は、30万2200円です。ぱっと見ると、ELの方が2万円
 弱も賃金が高いみたいに見えますね。

D) そう見えるだけだと思っています。それはこの32万500円という金額が、どうやって算出されたのかを
 追っていけば分かります。
  A職群は、等級が1級から3級までの3段階に分かれています。新入社員は3級で、数年経つと2級にな
 ります。1級は係長主任クラスです。EL労組が想定しているモデルでは、30歳でA職群2級から1級に昇
 格する、つまり30歳で担当から主任になると仮定しています。このとき、昇格前のA職群2級のモデル賃金
 を28万4千円と想定し、これが主任に昇格するときに一気に3万6500円も上がって、32万500円になる
 と仮定しているのです。昇給額3万6500円の内訳は、基本昇給9500円および主任への昇格昇給2万7
 千円です。

C) この仮説にしたがって30歳の平均賃金が32万500円になるためには、実際にみんな30歳で100%
 主任に昇格しなくてはなりませんね。でもそうはなっていないでしょう。

D) そうなんです。確かに私の同期の世代は、大半の人が大学卒なら9年目で、院卒なら7年目で主任にな
 りました。当時は年功制が今よりも濃厚だったから、同期はみんな一緒に主任になったのです。大学卒で
 9年目と言えば、浪人や留年をしていなければ31歳になる年で、この年の4月時点では30歳です。したが
 って昔であれば、30歳で主任昇格と言うモデルは正しかったと言えます。しかし今はどうでしょうか。

C) 大学卒だと、10年目や11年目で主任になる人も珍しくないでしょう。

D) 実際に何%が何歳で主任になっているかと言うデータはありませんが、感覚的に昔よりも昇格の時期が
 遅くなっていると思うのです。だから30歳の時点では、まだA職群2級の割合が結構高くて、平均賃金はと
 ても32万円まで行かないと思うのです。

B) つまり実態としては、RTとそんなに差が無いだろうと。

D) ええ、おそらく。それと細かいことを言えば、ELの計算式の基本昇給額にも疑問があります。9500円と
 言うのがどこから出てきたのか。A職群2級の標準的な昇給額は4500円なのです。なぜ5千円もゲタを履
 いているのでしょうか。考えられるのは、”主任に昇格する人は、成績が標準よりも上のはずだ”という仮定
 に基づいているのではないかと言う事です。

C) もし仮定どおり30歳で全員が主任になるのなら、成績が標準以下でも主任に昇格できると言うことです
 から、成績優良者の昇給額を適用するのは誤りですよね。成績標準者の基本昇給額が4500円ですから、
 せめてこれと同じか、またはこれ以下の金額で計算すべきでしょう。

D) 今一度計算し直してみましょう。仮に30歳で半分が主任になるとしますね。すると50%が32万500円
 になります。半分しか主任にならないと仮定したので、基本昇給額も9500円を採用しています。残りの50
 %は担当のままですから、28万4千円に基本昇給4500円をプラスして、28万8500円になります。ここか
 ら30歳の平均賃金は、30万4500円と求められます。RTの30万2200円とほぼ同額になりました。

B) 今までのお話は、RTのモデル賃金が正しいと仮定した場合ですが、実際にはどうでしょうか。RTでも、
 全員が30歳でRS2になっているとは限りませんよ。いずれにしても、会社との交渉で使っている数字と実
 態に乖離があるのは、まずくないですか。

A) まずいですよ。電機連合の中央委員会議案書ダイジェストを見直してください。4ページ目の中ほどに、
 「賃金水準の維持」という言葉が出てくるでしょう。つまり目的はあくまで賃金水準の維持です。それを実現
 する具体的手法として賃金体系を据え置こうとしているのです。 仮にELで主任になる年齢が遅くなって
 いるとすれば、賃金体系が変わらなくても賃金水準は下がりますね。さっき見たように、30歳で100%主
 任に昇格すれば賃金は32万500円ですが、半分しか昇格しなければ30万4500円となって、平均賃金
 は1万6千円も下がります。実質的に賃下げとなってしまうのです。

B) RTだって、RS2の12号俸給を基準にしていますけど、30歳のRS2で12号に達しない人の割合が増
 えれば、やはり賃金水準は下がるということですね。 理屈は分かりました。しかし、じゃあどのように交渉
 すれば良いのでしょうか。実際の30歳平均賃金を取り決めるという方法もあるかも知れませんが、計算が
 煩雑になりますし、会社としては昇進や昇号させる人数をコントロールせざるを得なくなって、運用には無
 理が生じるのではないでしょうか。

C) 確かに平均賃金で取り交わすのは困難でしょう。特にELは30歳が主任昇格の時期にあたっているだ
 けに、管理が難しいですね。しかし方法はあると思いますよ。「30歳の時点で80%以上が主任に昇格する
 」等、昇格率を協定するのです。こうすれば、賃金体系を維持することで、ある一定以上の賃金水準を保て
 ます。定昇維持と言うと、定期昇給の維持を意味しますけれども、昇格の維持も訴えたいですね。

B) とにかく、運用の仕方で何とかなると言うことですね。それから問題の根源は、どうやらモデル賃金を間
 接的に取り交わしている事にあるらしいと解りました。言い換えると、30歳の平均賃金をダイレクトに取り
 交わさずに、30歳時点で到達するであろう等級とか号とかを仮定していることにあるのですね。なぜなら3
 0歳でその等級や号に達する保証はないし、それは会社側に決定権があるからです。
  しかし会社側の言い分として、もし昇格とか昇号とかが遅れるのであれば、それは本人の努力不足か、
 または職場の運用上の問題だと返される可能性はないでしょうか。

D) 先日、私が新入社員だった頃の教育資料を見つけました。もう20数年前のNEC時代のものです。何
 でそんなものを後生大事に取ってあるのかって言われそうですね。いえ、年末の大掃除をしていて、物置
 の奥の段ボール箱を引っ張り出したら、中に入っていたのです。それらの資料を見て、改めて当時の新入
 社員教育の充実ぶりを思い出しました。
  私の新人の頃は、新人だけを集めた教育期間が長くて、実際に配属先の職場でまともに仕事を始めた
 のは7月になってからでしたよ。しかも7月以降も職場の先輩達が、いろいろと教えてくれたものです。集
 合性の教育の機会も多くて、入社してから数年間は、年に何回も受けていました。入社して5、6年経つと、
 今度は総合技術研修と言って、週に1回、まる1日使って技術系の講義を受けられる研修もありました。
 総合技術研修なんて、今はやってないのではないでしょうか。

B) つまり昔に比べて、今の方が社員の教育がおろそかになっていると言われるのでしょう。しかし教育の
 話と賃金の話と、何か関係あるのでしょうか。

D) ありますよ。今どき入ってくる若者はみんな優秀ですよ。その優秀な若者が、入社後まる8年間も過ご
 して、なおまだ主任の域に達しないとしたら、その理由は何でしょうか。主任になれない若者が増えている
 としたら、それは昇格のための評価基準が上がったか、または社内教育の衰退から若者が伸び悩んでい
 るか、どちらかではないでしょうか。いずれにしても、会社側に主たる責のある問題です。

C) もしその通りなら、社内教育をきちんとやらせて社員を育成させると言う観点からも、昇格率を取り交わ
 す事には意味がありますね。