ルネサス懇、「100日プロジェクト」を語り合う。

− 先端プロセス開発について −

− 日本の半導体史における重要な転換点 −

A) では次に、先端プロセスに関して検証してみたいと思います。今回の発表によると、先端プロセス品の
  社内工場での量産は40nmまでで打ち切って、次世代の28nm以降は100%ファンダリーに出すことに
  なりました。最先端プロセス品の自前量産から撤退すると言う発表は、私としては何と言いますか、日本
  のものづくりの歴史から見ても、ある意味歴史的な方針転換ではないかという気がしています。みなさん
  はどのようにお感じでしょうか。

D) ついにこの日が来たかという感じです。ルネサスエレクトロニクス社が発足したとき、日の丸連合の結
  成の様な雰囲気があったと思います。国内のライバル企業同士が呉越同舟してでも、海外のメーカーに
  対抗するのだと。ところが出てきた結論は先端プロセスの量産からの撤退に見えますね。産業のコメと
  も言われる半導体の分野において、トランジスタの発明から間もない頃から、日本の電機メーカーは半
  導体生産に乗り出しました。その半世紀あまりに及ぶ歴史を思うと、今回の決断は確かに感慨深い、そ
  れも残念さや無念さを伴う感慨深さであると私も思います。

B) 私は設計側の人間ですので、あまりそうは思いませんでした。ルネサスという会社自体、もっと早くファ
  ブレス化への舵を切ってもおかしくないと思っていましたので。先端プロセスの開発自体、世界の中でIB
  M陣営とTSMCの陣営の2極化に向かって進んでいます。資本主義の中では、寡占化が進むのが必然
  であり、この動きは不可逆ではないかと見ています。そうであれば、何も自社ファブに拘る必要もないで
  しょう。

A) いま「日の丸連合」という話が出ましたが、その意味では、旧ルネサスの先端プロセス開発は、IBM、
  TSMCの2大陣営とは別に、松下との共同開発を進めていました。つまり国内メーカーによる開発への
  こだわりがあったと思うのですが、これも今回、IBM陣営に統合されることになりました。

D) 旧NECエレは、従来からIBM路線でしたので、それほど違和感がないと思います。しかし旧ルネサス
  のプロセス開発技術者はショックを受けているのではないでしょうか。今回の発表を受けて、松下がどう
  するのかも気になります。もしかしたら、日本主導の先端プロセス開発は終焉を迎えるのかも知れませ
  んね。私は、社内からもっと激しい怒りや不満やブーイングの声が起きてくるのかも知れないと思ってい
  ましたが、今のところ思ったよりはおとなしいですね。


− 先端プロセス開発技術者の活用方法 −

C) 客観的に見れば、旧ルネサスにしろ、旧NECエレにしろ、先端プロセス開発の技術者と言うのは、本当
 に世界的に見ても希少な、貴重な技術者の集団であることは間違い無いと言えると思います。この人達が
 モチベーションをなくしてしまう様だと非常にまずいと思っています。

B) モチベーションを無くしているかどうかは、私もローカルに知り合いに聞いてみたいと思います。ただ、慰
 めになるかどうか分かりませんが、プロセスを知っている技術者が設計サイドに少ないのは事実で、だから
 プロセス技術の経験者に設計側に来てもらったら、もっと良い仕事が出来そうな気もします。

D) つまり職種転換を図ってはどうかと言うことですね。私はそこまで行かなくとも、もっと生産に近いところ
 で、プロセス技術者の技術が生きる場面があると思っています。量産品の歩留向上とか、不良解析とか、
 プロセス改善やコスト削減などです。量産の拡散プロセスが難しくなっているだけに、活躍の場面は結構あ
 ると思っています。

C) 今から20年前であれば、いっそ信頼性品質管理に異動させて、設計にしろ量産にしろ、その本質的な
 意味をスパルタ式に理解させるという手もあったかも知れませんが、今の若い人の中には耐えられない人
 が結構居ることは解っています。それは必ずしも彼らが精神的に弱いという事ではなくて、会社に入って来
 たときから、先端品の開発に携わりたいという強い希望を持っているからです。第一線から退くということに
 なれば、意気消沈するのも無理は無いでしょう。

D) もっともらしい言い分ですが、品管の仕事を下に見ているから耐えられないという事であれば聞き捨て
 なりません。私が知る限り、品管の仕事は技術的な幅広い知識も必要ですし、顧客との折衝力も必要です。
 体力とそれ以上の精神力が必要と思っています。欲求不満耐性の低い人には勤まりません。いろいろな能
 力が必要な部署であって、無くてもまあ何とかなるのは語学力くらいなものだと思います。むしろ品管の仕
 事がきちんと出来るのであれば、他のありとあらゆる部門に行っても大丈夫だとさえ思います。


− 決定の是非を問う −

A) 話が少々ネガティブな方向に向かっているようです。皆さんの話の根底にある認識は、先端プロセスの
 量産から会社が撤退することによって、プロセス開発関係の技術者に余剰人員が出来るのではないかと
 いうことですね。そこで2点問題提起をしたいと思います。ひとつは、今回の決定が本当に正しいのかどうか
 ということ、そしてもうひとつは、今回の決定が正しいとして、先端プロセス技術者を生かす道が無いかとい
 うことです。

D) 工場の問題が忘れられているような気がしますので、あとで扱ってもらえませんか。今回の決定の是非
 を問うには、このメンバーでは不足だと思いますが、とどのつまり、先端プロセスでの差別化が難しくなった
 ということなのでしょう。

A) 今のお話は、なかなか重要な点を突いています。以前DRAM関係で90年代後半のマイクロンなど、先
 端プロセスを行かなくとも、安くなった設備を買って量産する会社が利益を上げた事がありました。今回、会
 社は28nm以降を外注に出すと言っていますが、将来的に設備が安価になったら那珂や鶴岡で生産する
 予定は無いのか、そこが気になりますね。

C) それについては、会社は何も行っていません。早めに方針を引き出した方が良いかも知れませんね。

D) 私が言った工場の問題というのも、まさにそこに関わることです。つまり那珂や鶴岡は、このまま既存プ
 ロセス品の生産工場として、現在の6インチ品や8インチ品の12インチ化で生きながらえつつも、しだいに
 集約していくのかどうかと言うことです。たとえ周回遅れであっても、28nm以降の製品を量産できる余地
 があれば、将来の明るさも変わってきます。

A) つまり、ファブライトからやがてファブレスに向かおうとしているのか、それともIDM若しくはIDMに近い
 ファブライトの路線で行くのかということですね。その辺についても会社は何も言っていないので分かりま
 せんね。

B) もし28nm以降のプロセスの量産を周回遅れであっても自社でやるならば、プロセス開発技術者の仕
 事もそこに生じるという事になりますね。

A) プロセス技術の仕事が継続できるか否かは、当人にとって重要ですから、会社としてはもう少し具体的
 な方針を出していかなくてはならないでしょう。

C) 私は「外注に出せば良いではないか」と言う発想にやや危険を感じます。今でも後工程などは、海外の
 サブコンを積極的に使っていますけれど、使い勝手は決してよくありません。確かにサブコンのスタンダー
 ド品の値段は安いです。ところが、資材が標準で無いとか、テスターが特殊だとかになってくると、途端に
 「オプション」費用を上乗せされてしまいます。それと、数が大量に流れる製品であれば、彼らもそれなりの
 応対をしますが、少ないと雑に扱われているような感じで、デリバリー回答もろくに来ないなんて事もざらに
 あります。外注とは結局そんなものではないのでしょうか。群雄割拠する後工程のサブコンでさえそうです。
 寡占化されている前工程のファンダリーでは、なおさらではないでしょうか。

D) 私も同感です。だから28nm以降のプロセスについても、例えば那珂をTSMCのコピー、鶴岡をグロー
 バルファウンドリーズのコピーにするなどして、最先端以外は自社ファブと平行生産できるようにしておいた
 方が良いのではないかと思います。そうすれば、拡散プロセスで差別化できる余地も残されますよね。それ
 にその方が、将来的な安定供給を約束できる会社としてアピールできるのではないでしょうか。今回の事
 業仕分けで見えてきたルネサスの目指す方向は、車載とか、産業ネットワークなどの社会インフラとか、基
 本的には長年安定供給できる事が重要な条件である領域に注力して行くという事ですよね。

B) 付け加えますが、最先端の量産を100%外注に出したとして、本当にうまく行くのでしょうか。開発中製
 品の特性不良にしろ、量産品のトラブルやクレームにしろ、それが製造責なのか設計責なのか切り分けさ
 えもなかなか出来なくて、私などはいつも苦労しています。前工程が同じ会社であるからこそ、工場と協力
 して特性のチューニングもトラブルシューティングも、高度な不良解析も可能になるのではないかと言うのが、
 私の経験からの意見です。
  逆にそれらがファンダリー量産でも問題なく出来るのであれば、わざわざIBM陣営に入ってプロセス開発
 している意味って何かあるのでしょうか。それで何を差別化しようとしているのでしょうか。

A) 数々のご意見、どうもありがとうございました。まとめますと、28nm以降を完全にやめてしまうファブレス
 化よりも、IDMに近い形で先端プロセスを順次キャッチアップしていく方が、この会社の経営方針には合っ
 ているし、ルネサスの財産とも言えるプロセス開発技術者の持つ貴重な技術が、大いに活きるのではない
 かということですね。
  この会社は、なまじ古くから先端プロセスを追及して来たが故に、世代ごとの連続性の乏しい工場を次々
 に建てて、レガシーなものを増やして来たのだと思います。しかし「自社ファブは周回遅れでいいや」となれ
 ば、もっと世代間の移行なども視野に入れた、投資効率の良い工場の建設が少ないコストで出来るかも知
 れませんね。