ルネサス懇、「100日プロジェクト」を語り合う。

− 人員削減施策について −

− 早期退職制度を実施か −

A) では次に、人員削減策を取り上げたいと思います。こちらは2012年までに4000名削減という数値目
  標が出ています。社員を48000名から45000名へ3000名削減すると言います。また、外注も1/3
  にあたる1000名分を削減して、計4000名ということになっています。
   しかし、海外従業員の比率を見ると、このあいだに29%から32%へと、3%増やす予定です。3%と言
  えば、約1400名に相当します。さらにM&Aによる人員増が1100名となっています。ですから、その分
  を考慮すると、国内の社員は5500名くらい減るという計算になります。新聞によっては5000名削減と
  書かれているのは、こうした状況を加味したものでしょう。また、新聞発表では、早期退職制度を実行す
  ると書かれていますね。これには非常に警戒が必要と思います。

C) まず早期退職優遇制度についてですが、社内の発表では何も触れられていません。しかし新聞、それ
  も日経新聞に報道が載るという事は、まず99%実行されると考えていいでしょう。これはおそらく会社側
  の意図的なリークと見ます。では、その目標人員規模が何人かと言えば、注目したいのが「人的効率化
  対策費」として積まれている240億円です。早期退職制度の場合、1人あたりざっくり1000万円ですか
  ら、240億円を全部早期退職に使うとすれば、最大で2400名分です。しかしこれは少し多すぎるでしょう。
  NECエレが2年半前に実行した早期退職では、685名が応募しました。だから、内部的なターゲットとし
  ては1500名から2000名に設定しておいて、社外的にはキリの良いところで1000名程度を目標と発表
  する。最終的に1200〜1300名応募すれば目標を上回る成果だったことになる。

A) 昨年ルネサスが行った早期退職では約600名でした。いずれの会社も比較的最近やったばかりだと
  言う事情を考慮すれば、実際は1000名集めるのもかなり大変なはずです。そうであれば、相当きつい
  退職勧奨が見えないところで行われる可能性があります。

C) そう思います。一番ターゲットになりやすいのは、重複部門ではないでしょうか。スタッフ部門や販売部
  門などが心配です。NECエレの場合、地方の販売拠点などはルネサスに統合されています。ここで働く
  従業員は、ルネサスのシステムを使って、ルネサスのやり方で仕事をしていると聞きます。ハンデがある
  だけに、うまく適応できない人が狙われるのではないかと心配してしまいます。

D) 地方はきついですね。我々の情宣活動もなかなか及びません。

C) もうひとつは、早期退職をやる時期です。おそらく今回も、春闘の時期に被せて来るでしょう。つまり3Q
  の後半に発表になり、4Qで募集すると言うパターン。これをやられると、春闘を崩される可能性がありま
  す。気が付けば一時金4.0ヶ月を死守みたいな。

A) 三菱日立を母体とする旧ルネサス社員にとって、4.0ヶ月は本当に最低の数字ですよ。NECエレでは
  伝統になりつつあったかも知れませんが。

C) いいえ、そんな事はないです。NECエレの一時金は、基本的にNECと同一の計算式に則っていました。
  今年は通年で営業黒字を目指していますよね。もし達成できれば、わずかな営業黒字でも、最終黒字で
  なくとも4.6ヶ月くらいは出ないといけないはずだったのです。最近、赤字なら4.0ヶ月だと思っている人
  がいて驚くのだけれど、4.0ヶ月になるのは大赤字の時という約束で業績連動の式導入を始めました。
  それが今から10年くらい前のことです。ところがその後、計算式自体をちょこちょこといじりまわしたので、
  訳が分からなくなってしまいました。式を頻繁に変えるのだったら、業績連動式を導入する意味なんて無
  いはずですよ。そういえば次の春闘で業績連動はどうなるのかな。

A) ルネサスはもともと業績連動ではありません。たぶんNECエレも次回は個別要求でしょう。春闘の話は
  いずれ改めてするとして、早期退職を秋の一時金交渉の時期に重ねてくる可能性はどうでしょうか。

C) それは無いと私は見ています。秋は一時金交渉のみですから、やっぱり春闘の方が会社にとって都合
  が良いでしょう。それに春闘だと、年度末の決算もありますよね。予算に対する帳尻合わせと言う点から
  も圧力をかけてくるかも知れない。

A) 早期退職についてまとめますと、実行面でのターゲットは1500から2000名くらいで、着地点は1200
  から1300名くらい、時期は3Qに発表で4Qに募集、年度末までには退職という予想ですね。他の人員
  削減施策についてはどうでしょうか。


− 雇用の確保こそ最重要課題 −

C) 日経によると、管理・事務系社員を中心に、親会社であるNEC、日立、三菱が数百名を引き受けるよう
  に交渉するとのことです。人事総務とか法務部とか貿易審査とか、そういったスタッフ系の社員を中心に
  と言うことではないかと思います。人によっては、移籍したいと思う場合もあるでしょうが、親会社に戻った
  からと言って、同じ仕事が出来るとは限りません。心配なのは、早期退職制度をちらつかせながら、親会
  社で閑職をするのとどちらがマシかと迫られるケースが出ないかどうかです。

A) 早期退職と親会社の引き受け、それに工場閉鎖を合わせた3つが、5500名削減の3本柱になりそう
  ですね。他には何か考えられませんでしょうか。

D) その前に、我々として、そもそも人員削減自体をどう見るのでしょうか。ちょっと淡々としすぎていません
  か。5500名の削減ですよ。小さな町の総人口に匹敵するくらいの大人数です。もう想像しようとしてもし
  きれなくて、めまいがしそうです。こんな事をただ黙って見過ごすのでしょうか。

A) 雇用の確保と言うのは、我々にとって最重要課題です。今までは、会社発表の中身を具体化するため
  に分析しましたが、人員削減そのものを容認するつもりはありません。

B) 確かに、数千人の削減は大変な問題でしょう。しかし私のような就職氷河期世代から言わせてもらえば、
  そもそもこの会社に入れなかった人だって大勢いるんです。今会社にいる人達の雇用はもちろん大事で
  す。でもそれで入れなかった人の雇用はどうなるのですか。それにルネサスの下には、まだいろんな部
  品メーカーや材料メーカーや装置メーカーや、設計外注とか生産外注もあるんですよ。仮に本体が雇用
  を減らしても、それで会社が業績を伸ばせば、これらの会社が潤って、その分雇用が増えるかも知れな
  いじゃないですか。

A) いい指摘だとは思いますが、そういう関係が成り立つのは、人員削減と業績回復とがセットになった場
  合ですよね。しかし企業が人員整理をするのは、会社として縮小局面にある場合が多いのです。人が減
  ったら、残った人の仕事の能率が上がって、沢山仕事ができるようになると思いますか。普通はなりませ
  んよね。それどころか、今まであまり仕事をしていなかったと思っていた人が抜けても、やっぱり周囲はダ
  メージを受けたりするものです。つまり全社としての仕事のキャパシティは縮むと考えるのが適当でしょう。

C) 人員の削減よりも先に有効活用を考えないといけないでしょう。会社統合で販売拠点が統合されてい
  ますが、元来NEC時代などは、販売と、販売方針を統括する部門と、BUの生産管理部門の間などで
  は、頻繁なジョブローテーションが組まれていました。この際、もう少し幅を広げてローテーションを組んで、
  販売から吸収しても良いのではないでしょうか。


− 技術者も受難 −

A) さっき外注先の話が出ましたが、外注も今回1000名分を減らすと言っていますね。

B) 技術外注については、やりきれない気持ちです。設計の人間は、技術外注先の社員と、結構一緒に仕
  事をしていますからね。彼等は総じて、我々よりも給料が安いです。高卒や高専卒だからと言うわけでは
  ありませんよ。きちんと4大を出て、就職活動も一生懸命やって、やっと正社員として外注先の会社に就
  職できた人達でもです。彼等は、一昔前に本体に入った社員の平均と比べても、学生時代はもっと勉強
  してたかも知れません。今でも、ちゃんとした技術を持って、依頼元のわがままな要求にも耐えて頑張っ
  てます。そりゃあ本体の人間の中には、彼らを自分たちよりも下だと思い込んでいる人も大勢いるのは
  知っています。それもしょうがないなと言う感じです。だけど外注先を切ると言っても、切られた会社によっ
  ては次の業務請負先が無いかも知れません。そういう会社は雇用を維持できると思いますか。だから外
  注費の削減なんて無人化したような言い方はやめてもらいたいです。

C) 技術外注の削減が他人事だと思っていると、とんでもない事になるかも知れません。NECエレでは、今
  から2年前に、子会社のマイクロシステム(現在のRMS)の技術系管理職が一斉にメイテックという技術
  外注の会社に出向させられそうになりました。メイテックで再就職先を見つけさせるという、とんでもないリ
  ストラの方法が実験的に試みられたのでしょう。事務系の非正規化がかなり終わりましたから、次は技
  術の非正規化が目論まれているとも考えられます。

B) 正社員のダメな技術者をリストラして、有能で人件費の安い技術外注に置き換えるべきという声は、若
  い世代を中心に、これから大きくなるかも知れませんね。でも、そう言いたくなる気持ちは解ります。中高
  年の方から見れば、今の若者は自分勝手で他人の痛みが解らないと思うのかも知れませんが、いわゆ
  る我侭という意味での自分勝手とは違うと私は思います。

D) ひとことで言えば、会社と自分の関係しか頼りになるものが無いのだと思います。同じ会社に勤める仲
  間のことよりも、会社そのものの動向に関心があるのでしょう。会社が無くなれば、自分も終わりか、相
  当なダメージを受けると思っているから、何とかして会社は潰れて欲しくないと思っている。だから給料を
  我慢しても、一時金が安くても、サービス残業をしてでも、会社が潰れない方が大事だと思っているし、
  仮に自分と同じようにサービス残業をしない者が居れば、そちらの方に憎しみの感情が向いてしまう。

B) 本当は、なぜこんな事になっているのかと考えることが大事なんですよね。衰退する会社が人員を減
  らすのは、残念ながら資本主義社会の道理でしょう。リストラしておいて内部留保を溜め込んだり、株主
  に配当を出しているようなら問題ですが、事業の行き詰った会社であれば、いつまでも人員を抱えられな
  いのも事実です。そこから先どうするかと言えば、場合によっては賃下げを容認するなどの妥協も必要か
  も知れません。じゃあ今のルネサスがそこまで追い込まれているのかと言われると、にわかには解りかね
  ます。だけど、多数派の人達がほとんど何の影響も受けないのに、一部の人がリストラで会社を去るとい
  うのは、私には気持ちが悪いですね。

C) 社会のセーフティーネットが整備されていないことも問題です。失業給付の期間も短いしそもそも雇用
  保険に入っていない人もいる。生活保護なんて申請しても水際作戦で追い払われるから、受給率は恐
  ろしく低いです。健康保険も国民健康保険になってしまえば、保険料率が3倍くらいに跳ね上がります。
  35歳を過ぎたら再就職もままならないと言います。少々の割増金を積まれても、これではとても退職す
  る訳には行きませんね。

A) 話の方向が少し変わってきましたね。それらも重要ですが、とにかく今確認したいのは、我々としては、
  外注と合わせて6500名の削減そのものに賛成できかねる立場だという事、早期退職をはじめとするリ
  ストラ施策には、注意してウォッチする必要があるのではないかと言うことです。それと、人員削減と言う
  のは、一部の人がものすごく大きな痛みを負う施策です。しかもだからこそ、会社側は比較的大勢の無
  関心を背景に、粛々と進めることが出来るのです。これは数十年前からずっとそうです。これに対抗する
  のは容易ではありませんが、まずは全ての人が事実を知ることから始まると私は考えています。