ルネサス懇、「100日プロジェクト」を語り合う。

− 工場の閉鎖問題について −

                                 参加者 : A委員(ルネサステクノロジ出身:座長)
                                        B委員(ルネサステクノロジ出身)
                                        C委員(NECエレクトロニクス出身)
                                        D委員(NECエレクトロニクス出身)

− はじめに −

  2010年7月末に100日プロジェクトの結果発表が会社からあり、これを受けてルネサス懇は早速、ルネ
 サステクノロジ出身者およびNECエレクトロニクス出身者各2名の代表者により、8月上旬に某所にて、内
 容の検討を行った。


A) 今日は暑い中、よくお集まりくださいました。ご承知の通り、先月末にようやく100プロジェクトの内容が
  内外に発表されました。これまで我々一般の従業員にはほとんど情報が無かったために、内容について
  議論することもままならず、もどかしい思いをして来ました。とくに我々が気にしていたのは、リストラや労
  働条件に関することです。100日プロジェクトはルネサス版の事業仕分けであり、この結果を通じて利益
  体質への転換を図ることが最大の目的です。そこでその結果、一体何が出てくるのか。工場ラインの閉
  鎖とか、事業の集約とかによる人員削減は無いのか、あるいは遠地への転勤によって働き続けられなく
  なる人が大勢出てこないだろうか、などを心配していました。 今、こうしてプロジェクトの結果を見るに、
  一見したところでは、今回は全体の方向性が見えたと言うに留まっていますね。むしろ具体的なリストラ
  策の発表は、向こう2年くらいの間に何度もありそうだとの雰囲気を漂わせています。そこで我々として、
  今回の発表をどう受け止めるか、今後どんな事がありそうか、そのためにどのようにして行けば良いかに
  ついて、議論したいと思っています。各自ご意見をよろしくお願いいたします。


− 古い工場は閉鎖?売却? −

A) 今回の100日プロジェクトでは、我々が最も心配していた工場の閉鎖については、特に具体的な言及
  がありません。これについて、委員の皆さんはどのように感じておられるか、ご意見をお願いいたします。

C) 発表されていないだけで、楽観は出来ないと見ています。なぜなら、新聞報道では「旧式ラインの閉鎖」
  が伝えられているからです。旧式ラインとは、5インチおよび6インチのラインだとまで書かれています。
  だから水面下では何か検討されているに違いないでしょう。

D) NECエレ出身の人は、工場の統廃合はNECエレの方が進んでいると思っているでしょう。何しろここ
  数年間で、いくつもライン閉鎖してきました。直近では福岡県柳川市の福岡工場も閉鎖する予定です。
  従業員は、大分県中津市にある工場か、または熊本県の南の人吉にある工場のいずれかに移るしか
  無いらしいです。いずれも柳川からは100キロ以上離れていますから、自宅から通うのは無理だと思い
  ます。だから退職者が大勢出るのではないかと心配しています。どこの工場だろうと、閉鎖は大変深刻
  です。

A) 若干楽観的かも知れませんが、ルネサスは簡単には工場を閉鎖しないでしょう。実際に過去の例を見
  ても、閉鎖には慎重な方だったと思います。1つ例を上げますと、2004年の12月に、ルネサス北日本
  の千歳工場をミツミ電機に売却しました。このラインは6インチウェハーで90年代の中ごろまでに開発し
  たプロセスを扱っている比較的古い工場でしたが、ミツミの持つアナログ半導体技術と千歳のデジタル
  技術を融合させて、アナデジ混載ICを造る為の工場にする事を前提に売却しています。だから今回も、
  まずは閉鎖ではなく売却を前提に考えているでしょう。と言っても、ロームは沖電気を買収後に派手に解
  体しましたから、そういう会社に売却されてはたまりませんね。もちろん、売却なら良いと言う話でもあり
  ません。

C) 沖電気と言えば、沖セミコンダクタの宮城工場は日本エイムという会社に売却されています。日本エイ
  ムと言うのは、半導体製造のアウトソーシングを請負う会社です。つまり工場で働く従業員は、沖の正
  社員から、請負会社の社員になりました。こういう売却はショックですね。ちなみにこの会社の業務形態
  を見ると、どう見ても製造派遣に見えるのに、扱いとしては請負になっている。業務を一括して受けて、
  指示命令系統を自社で持つからと言うことだと思いますが、どうもしっくり来ない。派遣だといずれ正社員
  にしなくてはならないし、2001年以前はそもそも製造業の派遣が禁止されていました。そう言った法規
  制の間隙を縫って現れた会社ではないかと。この辺はいずれ調査が必要だと思っています。
   それからNECエレですと、2007年にマスク事業を大日本に売却した例があります。この時には従業
  員も、ほぼ全員が大日本に移籍しました。これは業務形態の変更を伴わない売却の例です。


− 工場へのリスペクトが無くなった −

B) 非常に言いづらいのですが、我々技術系の社員からは、やっぱり工場のリストラは必要なんじゃない
  のかと言う声も聞こえてきます。よく引き合いに出されるアジアの競合メーカーは、いずれも巨大な工場
  を持っていて、人件費の安さだけでなく、量産効果でも製造原価を下げていると言います。国内の小規
  模工場をいくつも分散させていては、とてもではないけれど、グローバルな競争には勝てないと言う意見
  もあって当然だと思います。だから工場を閉鎖して減らせば良いと言うのは短絡的ですが、技術の人間
  からは工場が遠くてよく見えないという事情もあるので、つい工場側の気持ちを考えない発言になりがち
  なのも致し方無いと思います。

D) 言われることは、分かります。しかし、生産系を見てきた私としては、言っておきたい事があります。N
  ECにしても、あるいは日立三菱にしても、昔は製造が強かったのです。別に威張っていたというのでは
  ありません。試作ラインは技術の色々な要求、例えば細かい水準振りとか言ったものにも対応して来ま
  したし、試作品を1日でも早く上げようと努力して来ました。作業ミスを無くし、ゴミ・傷・割れを減らし、歩
  留を上げるため、小集団活動などもやって来ました。だから技術の人間は、工場に頭を下げて試作品を
  流していたものです。量産工場でも、やはり歩留向上のための努力は絶えずして来ましたし、テスト工程
  では、不良品の解析力を上げるために、工場サイドでも解析スキルを持った人たちを養成して来ました。
  日本の半導体が元気だった頃、それを支えていたのは何よりも工場だったと私は思っています。
   ところが、ここ10年余りの間に、工場と技術との関係が、あからさまに逆転したような気がしています。
  工場がお荷物だという様な感覚が少しずつ広がって来ているのではないでしょうか。工場に対する尊敬
  の気持ち、今風に言えばリスペクトが無くなったような気がします。

A) ルネサスエレクトロニクスの生産工場は北海道から九州まで、全国に点在しています。はじめ工場を
  地方に建てたときには、地方を発展させるという政治的な見地からの一種の利益誘導があった訳です
  が、企業にとっては人件費削減の意味も持ありました。大都市圏よりも地方の方が、人件費が安かった
  からです。現在は、海外にもっと安い人件費で工場が建てられますから、国内の工場が相対的にコスト
  高だと思われているのでしょう。 しかし、ひとつ注意しておいてもらいたいのは、今回ルネサスがアウト
  ソース先として選択しているグローバルファウンドリーズは、アメリカやドイツにも工場を持っている会社
  だと言うことです。最先端プロセス品の量産は、その研究開発と不可分であって、人件費よりも量産化
  技術力が大きく物を言うことの現われではないでしょうか。単に巨額の設備投資をして、安い人件費で
  オペレーターに作業させれば競争力が出るという話ではないということです。

C) 最先端ラインについては、後でお話することにしましょう。それで、旧式ラインの閉鎖をどう考えるのか
  ですが。閉鎖されるのは大変なことだとして、売却されれば良いというものでもない。では自社でずっと
  持っていたとして、従業員がリストラされてしまっては、これもまた問題な訳です。とどのつまり、如何に
  従業員への処遇が悪化せずに、末永く働き続けられるかと言うことでしょう。


− 工場の有効活用こそ −

A) 先ほどの話に戻りますが、他社へ売却する前に、やはり自社での有効な活用を考える方が先でしょう。
  ルネサスと言う会社の強みは、持っている技術の広範さにあります。半導体の会社で、それこそ結晶から
  テスト用の治具まで自社で賄える会社は、今どき無いでしょう。自分達が持っている財産についても良く
  知る必要があるのではないかと思います。

D) 古いラインが本当に赤字ラインなのかどうかも確認しないといけないでしょう。レガシーな製品には、意
  外と原価率の良いものが多いと聞きます。閉鎖するとなると、8インチや12インチに逃がすか、集約する
  しかありません。ウェハー大型化って簡単に言うけれど、インチサイズによって使っている装置も違うし、
  それこそ新規プロセスを起こすより難しい場合だってありますよ。だって素子の特性を一致させるのは、
  非常に困難な作業ですから。従来品から特性がズレれば、顧客認定が困難になったり、値引き要求が
  来たり、歩留を落として原価率が悪化するなどの要因にもなり得ます。それならばと廃品種にすれば、
  顧客への供給責任や信頼はどうなるのかと言う話も出て来ます。それに原価率の良い製品の場合には、
  BU単位からの反発もあるでしょう。最終所要が見えていれば、造り溜めという手も使えますが。

C) 私は技術系では無いからよく分からないのですが、生産管理側の立場から言えば、大型化によって
  ウェハー1枚であまり大量に取れてしまうのもどうかと思っています。1ロットの枚数が少なくなれば、生産
  コストは上がります。少枚数ロットを避けるため、ある程度オーダーをまとめて入れて貰ったとしても、今
  度は特約店などで余分な在庫を抱えることになるでしょう。これも問題です。

B) うーん。お話を聞いていると、レガシーだけど超売れ筋で、今後も数が大量に出て、しかも原価率がそ
  こそこ良くて大型化にかかる費用の回収できる見込みのある製品でないと、大型化するメリットは無いっ
  てことでしょうか。結局、一部を除いて何もしない方がまだマシみたいな。

A) しかし何も手を打たず、単に所要がしぼんで枯れていくのを待つのであれば、その間に生産規模に合わ
  せた人員の削減が起きないでしょうか。やはり、今までとは違う有効活用方法を見出す必要があると考え
  られます。きっと何かあるでしょう。工場の閉鎖については、まだ具体的な方針が見えてきていませんの
  で、今日はこの辺にしておきましょう。