労働契約承継法とは何か

前工程、後工程会社新設と、新会社への転籍に関する法律について

 【はじめに】

  2月19日に開かれたルネサスエレクトロニクスの取締役会で、本社と国内子会社の前工程および後工
 程製造事業を再編し、新会社を設立することを決議しています。
  それに先立って、職場ではすでに「内々示」として、「あなたは後工程製造会社に異動します」、「あなたは
 前工程製造会社です」と言った通知が、個人レベルで伝えられています。今回の転籍における最大の問題
 点は、異動先の会社がどこかによって、勤務する事業所・工場が変わり、それによって遠方への恒久的な
 転勤となる場合が多いことです。しかも、「今までずっと前工程の仕事をしてきたのに、なんで異動先が後工
 程会社なのか」、「これは違法ではないのか」と言った、異動先のミスマッチに関する声も上がってきていま
 す。
  そこで、このような移動先のミスマッチが、法的にどのような扱いになっているのか、ここで簡単に整理し
 ておきたいと思います。


 【吸収分割と労働契約の承継】

  今回の事業再編では、ルネサスグループ全体の前工程事業をRSKS(ルネサス関西セミコンダクタ)が、
 後工程事業をRSKY(ルネサスセミコンダクタ九州・山口)が、それぞれ引き継ぎます。ルネサス本体など
 からは、前工程事業と後工程事業が切り出され(分割)、その分割した事業を、既存の子会社が吸収する
 格好になります。このような承継方法を、「吸収分割」と言います。
  もともとRSKSやRSKYに所属していた労働者以外は、他社へ移ることになります。一般に転籍の場合、
 労働契約の変更については個別に同意を取る必要があります(民法625条)が、事業そのものが承継され
 る今回のような場合には、労働条件がそのまま引き継がれる限り、個別同意は必要とされていません。言
 い換えると、労働者は転籍を拒否する権利を有していません。


 【労働契約承継法とは】

  では、私たちは会社から伝えられた内々示に従って、黙って別会社に移るか、さもなければ退職するしか
 無いのでしょうか。
  いえ、必ずしもそうではありません。労働者個人の承継に問題があれば、私たちは異議申し立てを行い、
 異動を拒否する事も可能な場合があります。こうした最低限の労働者側の権利を守る法律が、「労働契約
 承継法」として存在しています。では、具体的にどのような場合が、この法律で守られるのでしょうか。そこで
 次に、RSKYを例に説明いたします。


 【異動先がおかしいと思ったら】

  RSKYの場合、現在の事業としては、前工程(川尻工場、山口工場)、後工程(大分工場、熊本錦工場)の
 両方を持っています。そのため、工場単位では、あくまで2工場ずつ前工程新会社と後工程新会社に引き継
 がれることになります。ところが従業員単位で見ると、前工程の川尻工場に勤務している人の中にも、後工
 程会社への異動(RSKY残留)を言い渡された人がいます。
  このような異動も、現行の会社法上では違法となりません。しかし、これまで従事してきた前工程の仕事は
 前工程会社に継承されるのですから、本来このような方は、現在の仕事のまま前工程会社に移るのが自然
 です。そこで、労働契約承継法では、このケースのように、労働者がこれまで従事していた事業を引き継いだ
 会社から離れて、別の会社に異動して、これまでとは異なる業務に従事するような場合には、異議申し立て
 ができるとされています。異議申し立てを行えば、異動先を後工程会社から前工程会社に変更させることも
 可能となります。


 【どのように意義を申し立てるか】

  まず、会社は個々の労働者に対して、これからの業務内容や就業場所などの他、異議申し立て先と異議
 申し立ての期限日について、書面に記載して通知しなくてはなりません。この書面での通知は、これから異
 動が確定して、内示を受ける際に示されるものと思われます。(示されなくてはなりません。) 異議申し立て
 は、ここで会社から示された窓口に対し、期限日内に書面にて行います。


 【異議申し立てが有効な範囲】

  異議申し立てが可能なのは、労働者がこれまで従事してきた事業をしている会社とは別の会社に異動して、
 これまでとは異なる仕事に従事するような場合か、または、これまで従事していた事業が別会社に引き継が
 れたにも関わらず、現在の会社に残留して、今までとは異なる仕事に変更になる場合です。
  例えば、川尻工場の前工程ラインの現場でオペレーターとして働いてきた社員が、後工程会社に異動して、 
 今後は大分工場で後工程設備のオペレーターに就く場合は、どのように判断されるのでしょうか。前工程と
 後工程の違いから、別業務と判断されるのでしょうか。それとも半導体製造装置のオペレーターとして、同一
 業務の範囲と解釈されるのでしょうか。
  私見ですが、このような労働者は、後工程の各設備の操作や異常時の対処法などについて工程毎に、新
 たに教育を受ける必要がありますし、これまで前工程で培ったスキルはほとんど役に立ちませんから、別業
 務と解釈するのが妥当に思えます。


 【異動先に違和感を覚えたら】

  上記から、もし自らの仕事と、異動先の仕事にミスマッチがあると感じたら、まずは労働組合(例ではRSK
 Y労組)に対し、異動の妥当性についてどのような判断になったのかを確認してみてください。ただし、仮に
 労組が異動を妥当と判断したとしても、労働者個人が労組を代理人としないかぎり、労組が勝手に決めてし
 まうことはできません。仮に話し合いで決着がつかず、会社との間で判断に相違が生じた場合には、裁判所
 に判断を求める事もできるとされています。


 【早期退職等との関係】

  もし会社から承継に関する書面の提示や、異議申し立てに関する説明が無かったために、労働者が上記
 のような仕事のミスマッチを飲んで異動を受け入れるか、さもなくば退職しか無いと思って早期退職に応募し
 たとすれば、これは重要な事実の錯誤を与えた点で、退職強要に該当する可能性があります。
  また、会社の分割のみを理由とした解雇は認められていませんので、仮に「全員が転籍できる訳ではない」
 と言ったような説明があれば、これも問題となります。

  以上ですが、もし疑問に思うことがありましたら、お気軽に電機・情報ユニオンまでご相談ください。


 【資料】

  労働契約承継法については、厚生労働省のホームページのリーフレットなどが参考になります。





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