はじめに
ルネサス関連労働者懇談会(ルネサス懇)が2010年に結成してから15年が経過しました。去る6月29日には第15回目となる年次総会を開催しました。ルネサス懇は小さな組織ですが、毎年欠くことなく総会を開催し続けることができたのは、電機懇や電機・情報ユニオン、その他多くの団体や個人に支えられてきたからに他なりません。改めて感謝申し上げます。
私は昨年6月に開催された第14回総会にて、前任者からルネサス懇代表を引き継ぎました。この1年間のルネサス懇の活動は、いわゆる「指名解雇」リストラへの対策に多くの時間を費やし、電機・情報ユニオンとともに「指名解雇」リストラ対策本部を立ち上げ、団体交渉、労働相談、各省庁への働きかけ、国会議員や地方議員を通じた働きかけ、学習会、株主総会での質問、メディアへの取材対応、6枚の対策本部ビラや20枚以上のWEB限定版ビラによる情宣活動、GoogleのFORMを使用したリストラアンケートなどを行うなど、実に盛りだくさんでした。これからの1年もまた、よりいっそうの頑張りで乗り切っていきたいと思います。
いま、私たちの目の前では、人員削減リストラや昇給の見送りなど、私たちの生活をおびやかすような施策が展開されています。また、賃金制度の改定や新人事制度への移行が検討されているとも聞いています。こうした新しい事象には、それを推進する人たちがいて、その人たちにはその人たちなりの理念や理屈、そして正義となる価値観があります。それらを単純な言葉で表せば、例えば「会社の利益が第一」とか「株主の利益が第一」とかになるのだろうと思います。しかしそれは私たちが心から共感、あるいは共有できる価値観でしょうか。
私たちには私たちなりの、会社の理屈とは異なった価値観があって当然です。しかしそれを主張することが難しくなっている現実があると思います。特に社内では、肝心な労働組合が会社のリストラに理解を示し、それを組合員に理解させることが組合執行部の仕事とされてしまってさえいるようです。本来なら、私たち一人ひとりの置かれた状況や価値観から発した要求や意見をまとめ集約し、その実現をはかることを目指すのが労働組合の役割の根幹のはずですが、それを放棄してしまったのか、逆に会社の要求を私たちの側に実現することを目指す組織になっているように見えます。
もとより力関係で言えば、私たち働く者ひとり一人は、会社よりずっと弱い存在です。その私たちが互いに結びつく機会を失ってしまえば、ばらばらな個人という弱い存在のまま置き去りにされてしまうことになります。その結果として、いかにして会社(あるいは企業社会)に適応して生きていくべきかということしか私たちが考えられなくなれば、「勝ち残るためにリストラは必要」という会社の論理の是非を検証しようとする意識は薄れ、単に自分がリストラに遭わないためにはどうするかと考えるのみとなってしまうかも知れません。しかしそれではあまりにも苦しくないでしょうか。もっと他に道はないのか、ばらばらな個人も集まって、みんなで話し合えば、何か良い方法がひとつでもふたつでも見つかるかも知れません。

ルネサス懇は懇談会です。つまり、お互いがじっくり話を聞き、感じたり考えたりして、それぞれが言わんとするところを理解し、丁寧に話し合う場です。話し合いにおいて一片の隙も無い論説や、厳格なエビデンスは求めていません。(あればあるに越したことはありませんが。)確かこうだったような気がする、何かの本で読んだ気がする等でもまったくOKです。そのエビデンスが今すぐ出せなくて、3日後になろうと3年後だろうと、そこにこだわるものではありません。私たちにとって大切なのは語ってもらうことであり、黙らせることではないからです。むしろ一方的な主張ではなく、ディベートでもなく、いま流行り(?)の”論破”とは正反対ともいえる語り合いを通じて、私たちなりの考え方を深めて行くことを目的としています。それによって、私たちなりの理念や理屈を練り上げ、私たちを活かす価値観とはどんなものかを、少しずつ明らかにしていけるものと思っています。
何事も事実に基づかなければ正しい判断はできません。したがって事実を述べることは”善”です。そして私たちがとりわけ重視するのが、私たち自身にまつわる事実です。たとえそれが、「こんなことを言えば愚痴を言っていると思われるだろう」とか、「何もしないで文句ばかり言っていると思われないか」などと気になってしまったとしても、だから本音を隠して黙ってしまったり、時に自分自身からも自分の心を偽って、強がりや当たり障りのないことを言ってしまうより、本当だと思うことを述べた方が良いという事です。(あけすけに何でも語ってくださいということではなく、あくまでも可能な範囲でですが。)逆に、重要な事実をねじまげたり隠そうとしたりすること、誤解させようと意図すること、他人に本音を語らせないことなどは悪です。
ルネサス懇の懇談というのは、メンバー内に固定したものではありません。私たちのホームページや発信するビラその他を通じて、ルネサスで働く方々や、広く社会にも、私たちが今どういう状況にあって、何をどう考えて、何を求めているのかなどを伝えていきます。これらに対して、ルネサス懇のメールアドレス等を通じて意見をいただけることを歓迎いたします。それだけでなく、私たちの預かり知らぬところで、あちらでもこちらでも、考えるきっかけになったり、話題として取り上げていただけるようであれば、それもまたうれしく思います。
さて、ルネサス懇のホームページでは、このたび新たなコーナーを設けることにいたしました。実はホームページ開設まもない頃から「フロンティア」と言うコーナーが存在していたのですが、中身は何もありませんでした。今となっては、このコーナーが何のために作られたのかさえ定かではありません。おそらくは、労働組合活動などにおいて先進的な取り組みを紹介するために設けられたのだろうと思います。このフロンティアのコンテンツとして、私たち(正確にはルネサス懇代表である私個人)なりの考えをまとめたものを順次掲載していきます。更新目標は月に1回以上で、各回は、ひとつのテーマに対しておおむね1500字から2500字程度。長くても4000字くらいを目安とします。
私としては、それらを基本的な考え方のベースとして、何かの事象に遭遇したときに、それをどういう観点から検討すれば良いのか、何を基準にして良し悪しを判断すれば良いのか、問題点はどこにあるのかなど、考え話し合うためのひとつの糸口や判断材料としての役割を果たせたらと思います。
2025年7月10日
ルネサス懇代表
花山 修