第25回 ラピダスをどう見たら良いのか(2)


 前回(第20回)の続きです。

 前回は、「半導体開発は2nmで終わりではなく、その先には1.4nm、1.0nmが控えています。『先端半導体を周回遅れで実現』という、何だかよく分からないようなことにならなければいいと思います。」という言葉で締めました。最先端の2nmは、2025年末までにTSMC、サムスン、インテルの各社が相次いで量産化しています。一方のラピダスは、2024年の年末に装置を搬入し、2025年7月にトランジスタ動作を確認したと言っています。量産化は2027年の後半に開始し、本格量産は2028年とされていますので、大手からは2年以上の遅れとなりそうです。ひとまず現段階では周回遅れであるように見えます。

 この点においては、関係者は折り込み済みであるのか、3月23日付けの日経新聞の記事で、次々世代の1nmではTSMCと半年差になるようにする目標であることが伝えられました。一体何を根拠に差を詰められると計算しているのでしょうか。考えられるのは、各企業が2nmで新たに採用したトランジスタのGAA構造が、1.4nm以降もしばらく続いていくため(注1)、2.0nmの開発に成功すれば、そのあとの微細化の壁は、そこまで高くはないと見込んでいるのだろうということです。

 ラピダスのサイトの中に、東哲郎取締役会長のメッセージとして、「2nmという困難を乗り越えた先に差別化技術がある」が掲載されています。この中に「振り子モデル」という言葉がでてきます。トランジスタ構造がFinFETからGAAになるタイミングが、ちょうど振り子が上がりきった速度ゼロの状態なので、ここがゲームチェンジのタイミング(参入する好機)だと、イメージを語っています。果たしてそれで振り子が動き出したときに、本当に他社以上の速さで振ることが出来るのだろうかと心配にはなります。

 ともあれ、仮に前工程の技術は確立できたとして、後工程の方はどうなのでしょうか。ラピダスは、前工程と後工程を一気通貫で行うRUMS(Rapid and Unified Manufacturing Service)の構築を目指しているのだと言います。ラピダスのコンセプトはスピード重視で、前工程のチップを短TATで製造し、さらにこれを隣接する後工程の工場で素早くパッケージに組み立てることで、顧客に最速で製品を提供することを企業価値とする方針です。これも2027年までに、前工程から後工程までを完備した量産体制を確立することを目標に掲げていると言います。政府からの支援で、1270億円がチップレット技術などの後工程の技術開発に割り当てられるということも、昨年3月時点で決まっていました。

 気になるのは他社の状況です。ラピダスが開発している2.5~3D実装技術については、TSMCはCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)を自社で持っています。ラピダスはインターポーザーの大型化に向けて開発をしている様子ですが、それはTSMCも行っていることです。また、サムスンには同様のパッケージとしてI-Cubeなどがあり、インテルはもともとEMIB(Embedded Multi‑die Interconnect Bridge)でもって、この分野では先行していました。しかもインテルは後工程の遅さが競争力を削いでいたとの反省から、現在は内製を強化し、生産のスピードを急速に上げようとしていると聞きます。

 ラピダスの戦略は、これらの企業と張り合わず、小規模なビジネスを取っていくことにあるとされていますから、後工程において技術的な優位性を確立することはそこまで重要ではないのかもしれませんが、仮に2nm以降のプロセスでTSMCが独り勝ちのような格好になってきたときには、サムスンやインテルがラピダスのビジネス領域に降りてくる可能性はないのでしょうか。

 そうなると、製造のスピードだけでなく、設計も含めたトータルのスピードでの勝負になるのではないのかと思ってしまいます。少なくとも設計資産であるマクロ、GAAのセルライブラリや専用のIPなどが揃っている必要があるような気がしますが、すでにGAAで量産を開始しているTSMCなどからは、現時点ではこの点でも遅れているのではないかと想像します。

 このことに関してラピダスは、PDK(Process Design Kit)という顧客企業向けの設計データのセットを今年3月から提供開始したと言います。現時点のバージョンは0.5相当だと言います。ベータ版といったところでしょうか。ラピダスの場合には、そもそも2nmの製造技術を確立する過程で、同時に設計フローも構築していく方針だとされています。ラピダス独自の開発であるRaads(Rapidus AI-Agentic Design Solutions)によって、製造装置から得られるデータを逐次設計にフィードバックして、こうした設計環境自体の構築を進めながら、顧客の設計のスピードを上げるというようなニュアンスと受け取りました。また、この動きにはラピダスと顧客企業だけでなく、NEDOや国立大学が研究開発に参加し、EDAではジーメンスの協力を得るなど、コンソーシアムの形をとって進められている様です。

 つい最近まで、日本で2nmの半導体チップを設計できる実力があるのはソシオネクストくらいと聞いていました。いまこうしてキヤノンのような新規参入顧客が現れているということは、2nmの設計の経験がない企業でも参入できる環境構築を進めているということだと思います。しかし、顧客の側に設計力が乏しければ、それだけラピダス側の負担は重くなるはずで、顧客が増えると開発のスピードが鈍化する恐れはないでしょうか。そこをうまく解決していける目途は立っているのだろうかとも思います。

 以上、前回と今回で、技術的な観点から困難に見えること、心配なことを、いろいろと述べてきました。
しかし2nmのトランジスタはできていますし、製品化ができる可能性が無い訳ではないだろうと思います。お金と時間をかければ、必ずいつか実現はできるだろうと思います。とはいえ、それがビジネスとして成り立つのかどうかは別問題です。むしろビジネス的な困難性は、技術的困難性を上回るのではないかと思われます。次回以降は、そのあたりを考えてみたいと思います。

2026年 4月21日

注1)IMECの技術ロードマップによれば、今後0.7nmまではGAA構造が続き、5nmから先はGAAを進化させたCFET(シーフェット)構造になるとされています。CFETは、CMOSを構成するNchMOSとPchMOSの両方をGAA構造のもとに縦積みすることで、集積度を上げる技術です。


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