2020年のコロナ禍をきっかけに、ルネサスエレクトロニクス社はリモートワークを基本とする働き方に切り替えました。過去5年あまりの間に社員に浸透したリモートワークの慣行でしたが、会社は9月以降この働き方を見直すとしています。9月からは週2日(豊洲本社は1日)の出社を基本とする制度に移行し、26年1月からはグローバルのすべての拠点で週3日の出社にすると言います。今後どうなるのか、どうすべきなのかについて、アンケート調査を行いました。49名の方から回答がありましたので、その集計結果を報告いたします。
1.回答者のプロフィール




2.設問事項回答












●まとめと感想
業務の中には、リモートよりも対面の方が望ましい場合もあると思われるため、今回の施策については賛成と反対が同程度に割れるのではないかと予測していましたが、実際にアンケートを取ってみると約7割が反対と回答し、賛成は全体の1/6に留まりました。想像以上に社員の反発が強いという印象です。
会社側としては、業務の効率化やイノベーションを起こしやすくするために出社の機会を増やそうとしている訳ですが、そのような効果があるかどうか自体を、多くの社員が感じていないか、または疑っている様子が見て取れました。
効果が疑わしい一方で、社員にとってはさまざまなデメリットがあることが明確になりました。回答者の8割が、BTOで困ることがあると回答しています。通勤の負担の増加、家庭との両立への影響、生活時間への圧迫、仕事をする環境の悪化、正味の仕事時間の減少と能率の低下など、いずれも高い割合で回答されました。
こうした多くの困難があることは事前に予想できたはずのものですが、会社から十分な配慮があったとする回答はわずか8%にとどまり、過半数の方が配慮は無かったと回答しています。個々の事情に対する配慮そのものがないというのは大変な問題です。会社が何故このような施策を採ると思うかとの質問に対して、「担当役員の“やってる感”のため」との回答が最も多かったのも特徴です。経営者側の独善であるとの見方と、社員への配慮が無いと感じることとは、表裏一体のものと思います。
自由意見から分かってきたこともあります。武蔵事業所では、食堂をはじめ施設の改善の必要性を訴える声が多数届きました。9月から火曜日を事業所全員の出社日にする方針ですが、そうなると食堂の大混雑が予想されます。プラザ館の閉館後、その荷物を入れた段ボールが本館に運び込まれ、空き机の上などに置かれている状態でフロアの手狭感が増しているとも言います。また、本館の更衣室は6階以外は閉鎖されており、もともと少なかったトイレの問題もあります。
フロアがうるさくなるという懸念もあります。現在はTEAMSでの会議が普通であり、これは出社日でも変わらないと予想できます。フロアの座席のあちこちで会議が行われ、その声を別のTEAMS会議が拾うというような事は現在でも起きていますが、それが相当ひどくなるのではないかとの懸念です。武蔵事業所は会議室を増やそうとしていますが、それよりも出社日を分散する等の対策の方が必要ではないでしょうか。
通勤への配慮も足りないように思えます。国分寺駅や西国分寺駅からのバスを増便すればいいという話ではありません。もっと根本的に、なぜ首都圏だけが100分以上を配慮の対象とするのか、根拠が不明です。おそらく事業所の統廃合によって遠距離通勤者が多く、他地域と同じ60分とすると配慮必要者がかなりの割合になってしまうからではないかと推測します。つまりまったくの会社都合ではないかということです。グローバルと言いながら、社員の事情を顧みない会社の一方的な都合でローカルな部分を残すという姿勢は、不信感を与えるものです。
今回の出社強制を契約違反であると言う厳しい声もあります。フルリモートの勤務ができるのが魅力だからこそルネサスに就職した方にとっては、重要なメリットが失われることになります。BTOを機に退職を検討しているという声さえあります。若手社員の中には、教育期間中は出社をしていたが、ようやくそれが終わってフルリモートになって喜んでいたという話も聞きます。今回のアンケートでも、20〜30代の若手社員の6割以上がBTOに反対と回答しました。
ワーケーションをしている人、結婚などを機会に遠隔地に住む予定だった人などへの配慮もどうなるのでしょうか。ペットの世話ができなくなることへの心配もあります。総じてウェル・ビーイングという観点からの検討が必要ではないでしょうか。
現在でも必要な部門は出社しています。強制出社の日を設けるということであれば、そうする理由をもっと丁寧に説明すべきではないでしょうか。経営トップが社員一人ひとりに説明していられないという考え方もあると思いますが、それならば個々の職場の事情に合わせた自主的な運用を認めるべきではないでしょうか。部長クラスの回答者からは、反対意見を役員に申し入れているが全く聞き入れて貰えないとの声もあります。
コロナ以前は原則出社だったのを、3日戻すだけだから問題ないというのは乱暴すぎないでしょうか。現在、片道100分の通勤時間と育児(小学校6年生まで)の事由が配慮の対象となっていますが、では片道90分、子供が中学生だったらどうなるのでしょうか。個人の事情というのは複合的で、単純に線引きできるものではなく、そもそもそういう状況に柔軟に対応できるのがリモートワークだったはずです。
まずやってみて反応をみましょうというのは、自分さえ困らなければいいと言う人の発想に思えます。施策を開始する前に、もっと丁寧な検討をすべきです。
以上、ご協力ありがとうございました。
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