No.07  日本半導体復権への道

 
 タイトル  : 日本半導体復権への道
 出版社   : 筑摩書房
 ページ数  : 286ページ
 値段    : 968円+消費税
 発売日   : 2021年11月10日

 <採点>

 読みやすさ ★★★★☆
 分りやすさ ★★★★☆
 勉強になる ★★★★☆
 おススメ度 ★★★★☆
 危険度   ★★☆☆☆

 
日本半導体復権への道はきわめて険しい
 現在、世界的な供給不足などから、半導体が注目を浴びています。特に今年に入ってからは、日本国内においても政治的な動きが目立つようになってきました。5月21日に自民党が半導体戦略推進議員連盟(半導体議連)を立ち上げ、6月には経済産業省から「半導体戦略」が提出されました。10月には台湾のTSMC社の工場を国内に誘致することが決まったとのニュースも流れました。こうした動きを、私たち半導体メーカーに勤務する労働者の多くも関心を持って見つめていることと思います。

 本書の著者である牧本次生(まきもと・つぎお)氏は、1959年に日立製作所に入社し、半導体事業の立ち上げと発展に大きく貢献された方です。長年にわたって半導体産業に関わってきた著者の豊富な経験と知識をもとに、今や絶滅危惧とも言われる日本の半導体産業を如何にして復活させるのかについて、大局観を持った考察から、その道筋を提言するものです。

 半導体関連産業には、ルネサスも属するデバイス産業を中心に、その川上には材料や製造装置に関わる産業があり、川下には半導体デバイスを搭載した電子機器産業が位置しています。日本は、川上の産業は高いシェアを保っているものの、デバイス産業と電子機器産業がともに衰退しているため、この双方の復活が必要だと説きます。

 現在の電子部品産業の中心であるスマホは、アメリカ、中国、韓国の企業による寡占状態にあり、日本企業の存在感は希薄となっています。そこで日本としては、スマホの次に市場をリードする製品の分野で先行することが肝要となります。著者としては、それは自動運転車やロボットなどを含むロボティクスの分野であると予測します。ここでキーデバイスとなるAI半導体やセンサなどを開発することができれば、デバイス産業と電子機器産業の双方の発展が見込めると言うものです。これはルネサスが現在進んでいる方向とも、ある程度合致する様に感じます。

 さらに著者は、ロボティクス向けの半導体を先行して開発するために、官民連携での強力な開発体制の構築が必要であると主張します。そこで取り組むべき課題として、以下を上げています。

 @ロボット向け最適アーキテクチャ、OS、ハードウェア/ソフトウェアの開発
 A最高の知能のレベルを持つAIチップの開発
 Bコードレス対応のための低電力化の実現
 C多種多様なニーズに応えるためのスケーラビリティとフレキシビリティの確保
 D既存企業と協力してモアザン・ムーア型デバイスの強化
 E大学等と協力してロボティクス人材の計画的育成

 半導体産業のような先端産業の活性化のためには、政府の強力なバックアップが欠かせないという認識には合意します。しかし、上記@〜Eの課題解決は極めてハードルが高く、日本半導体産業復権への道は、きわめて険しいと思わざるを得ません。

 さて、本書は著者が2006年に上梓した「一国の盛衰は半導体にあり」を大きく刷新する形で、著されたものとのことです。内容的には、半導体産業復権の提言だけでなく、日本における半導体の歴史を知る上でも、楽しく読めるものとなっています。特に第5章「日本半導体の盛衰」は、なかなか読み応えがあると思いました。

 著者は現在、日本半導体歴史館の館長を勤めています。これはオンライン上のバーチャルミュージアムで、半導体の黎明期からの歴史を記録していて、参考になる情報が盛りだくさんです。興味のある方は、こちらもご覧になってください。