No.04 偽装請負・非正規労働           
 
         熊本・NEC重層偽装請負裁判は問いかける 

 
 タイトル  : 偽装請負・非正規労働 熊本・NEC重層偽装請負裁判は問いかける
 著者    : 『偽装請負・非正規労働』編集委員会
 出版社  : 花伝社
 ページ数 : 225ページ
 値段    : 1500円+消費税
 発行日  : 2012年7月25日
 

 <採点>

 読みやすさ  ★★★☆☆
 分りやすさ  ★★★★☆
 勉強になる  ★★★★☆
 お値打ち度  ★★★★☆
 おススメ度   ★★★★★
 危険度    ★☆☆☆☆

 <紹介文>

  NEC重層偽装請負問題をご存知でしょうか。これは、ルネサスセミコンダクターズ九州山口(旧NEC
 エレクトロニクスの製造子会社)の熊本錦工場で、物流関係の仕事に従事していた従業員が、2009年
 末から2010年3月にかけて、工場の業務縮小を理由に解雇された事を発端とする事件です。解雇され
 た従業員のうち、柳瀬さん、松永さん、柴田さんの3名は、地域の労働組合である熊本ローカルユニオン
 に加盟し、違法な解雇によって奪われた地位の確保や未払い賃金の補償などを求める訴えを続けてい
 ます。
  3名は、人吉急便という地元の運送会社の社員でした。熊本錦工場では、物流関係の業務をNECの
 子会社であるNECロジスティクスに外注していて、NECロジスティクスは、更に業務の一部を日本通運
 に委託し、日本通運が人吉急便に委託すると言う、3重の請負構造がありました。しかし3名は、NECS
 KY(ルネサスSKY)やNECロジスティクス社の指示に基づき、これらの社員と一緒に働いていましたか
 ら、その労働の実態は、「請負(仕事を請け負った会社の指示系統のもとで働く)」ではなく、「派遣(派遣
 された先の会社の指示のもとで働く)」でした。実態が「派遣」でありながら、「請負」の名目で仕事させる
 ことは、一般に「偽装請負」と言われる違法行為に該当します。この事件の特徴は、この偽装請負が、多
 重的な業務委託構造の中で行われていたところにあります。
  2012年10月末には、熊本錦工場だけでなく、ルネサスの多くの工場で多数の早期退職者を出しまし
 た。また、工場そのものの存続さえも危ぶまれている現在、3名の原告を職場に戻せという訴えが、ルネ
 サス社員にポジティブに受け取られなかったとしても、ある意味仕方の無いこととも思われます。しかし、
 この事件には、立場や思想や陣営を超えて、ほとんどの人が「いくら何でもこれはおかしいのではないか
 」と思うような問題点がいくつか含まれています。代表的なものとして、次の4点を指摘したいと思います。

  ・同じ職場で同じ仕事に従事している労働者が、正社員か非正規かの違いで賃金に倍も差があること。

  ・「ハイリスク・ハイリターン」の原則に従うならば、なぜ真っ先に解雇されてしまう(解雇のリスクの高い)
   非正規の賃金が、正社員よりも安いのかということ。

  ・何らの業務実態も無い日本通運が、ただ間に介在したというだけで、委託料の1割をピンハネして良
   いのかということ。(仕事をしない会社が金を貰って良いのかということ。)

  ・一方で非正規を正社員と同じように働かせる権利を得た会社が、他方で非正規に対し正社員と同じ
   労働条件・環境を保証する義務を果たしていないこと。(権利につきまとうはずの義務を果たしていな
   いこと。)

  こうした問題に、私たちはどう向き合えば良いのでしょうか。今、若い世代の半数以上は、非正規で働
 いています。社会人になって間もない、またはこれから社会に出る私たちの子供や孫達の世代が、社会
 の中で差別的な扱いを受けずに生きていけるようにするために、最低限の「公正さ」は確保されなくては
 いけないと思います。
  さて、最後に今回取り上げる「偽装請負・非正規労働 熊本・NEC重層偽装請負裁判は問いかける」
 の紹介です。本書は、上記NECSKYの事件を中心に据えながら、事件の背景にある問題の本質を追
 求した好著です。序盤では、原告団の3名と裁判を支援する弁護士や労働組合関係者等の小論から、
 事件のあらましを理解できます。中盤のシンポジウムでは、東洋経済の風間記者の講演を通じて、戦前
 の労働者供給から続く偽装請負の歴史や、7重、8重にもわたる原発労働のひどい実態を知ることが出
 来ます。それによって、この事件が、社会に根を張った深淵な問題だと気付かされます。そして最後の熊
 本学園大学・遠藤教授による論文は、やや難解な法解釈を展開していますが、問題の本質を理解する
 上で重要ですので、是非とも読んで頂きたいと思います。
  以上のように、「重層偽装請負」という一つの労働問題のテーマに沿って、多面的なアプローチから問
 題の本質に迫った本書は、本テーマを学びたいと思われる方に、間違いなくお勧めできます。