No.02  原発崩壊 誰も想定したくないその日

 
 タイトル  : 原発崩壊 誰も想定したくないその日
 著者    : 明石昇二郎
 出版社  : 金曜日
 ページ数 : 154ページ
 値段    : 1500円+消費税
 発行日  : 2007年11月8日
 


 <採点>

 読みやすさ  ★★★★★
 分りやすさ  ★★★★☆
 勉強になる  ★★★☆☆
 お値打ち度  ★★★☆☆
 おススメ度   ★★★★☆
 危険度    ★★☆☆☆

 <紹介文>

  3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は、直後に発生した津波によって、東北地方沿岸に
 壊滅的な被害をもたらした。関東大震災以来の甚大な震災被害には、自然の猛威のすさまじさを、
 改めて深く印象付けられたように思う。

  この紹介記事を書いている3月27日の時点で、もっとも注目を集めているのが、福島第一原発に
 おける放射能漏れ事故である。高濃度の放射性物質が、”最後の砦”と言われていた鋼鉄製の格
 納容器から漏れ出し、現在建屋の中は、高レベルの放射能を含んだ水に汚染されていると言う。原
 発の事故は、その深刻さによって国際的基準により8段階の区分が為されるが、この福島原発の状
 態は、上から2番目のレベル6に達したと報道されている。もはや25年前のチェルノブイリに次ぐ、世
 界的な大事故の扱いとなっている。今後、もし、セシウム137のような土壌に染み込んで長年放射
 能を出し続ける放射性元素が大量に拡散する事態になれば、福島県近隣は向こう100年単位の長
 期にわたって農業や酪農業の営めない地域になるばかりか、まともに人の住めない空白地帯になる
 可能性がある。そのような壊滅的事態だけは回避できるよう、事故処理にあたっている東電関係者
 や消防隊員、自衛隊員などの必死の努力が成功することを、祈るような気持ちで、ただひたすら願っ
 ている。

  さて、本書は今回の地震の起きる前、2007年に書かれたものである。日本には50基を超える数
 の原子力発電所があり、冷却のために大量の水を必要とする事から、それらは海沿いに建てられて
 いる。地震列島である日本列島には、地震の発生源となる活断層がいたるところに走っており、およ
 そ日本中のどこに建てようとも、地震の影響を免れることは不可能と言っていい。つまり、日本の原
 子力発電所は、ほぼすべて地震による揺れや津波の被害を受ける危険と隣り合わせにある。巨大
 地震により原発が損傷し、震災との複合的な巨大災害となる「原発震災」の可能性を、本書は激しく
 警告している。まさに今、福島で起きていることは、従来から予想できたことであり、想定されて然る
 べきであったと思う。想定すべきことを想定から外し、その結果として予想された事故が起きても、さ
 もそれが不可抗力であったかの如く想定外と言う。百歩譲って今回の地震が空前絶後の規模だった
 としても、当の福島沿岸での震度6の揺れや津波が、想定から外すほどの規模だったのだろうか。

  本書で最も重大視しているのが、東海地震による浜岡原発の事故である。風向きによっては、首
 都圏が壊滅的な被害を受け、日本と言う国の存続すら危うくなるからである。その意味では、福島の
 事故がこのまま収束し、震災と原発事故のミックスが如何に危険極まるものであるかを如実に示す
 機会となって、今後の原発政策の転換を大いに促すのであれば、後世になって、「あれは不幸中の
 幸いだった」と記憶されることになるかも知れない。

  現在、震災後の計画停電が続いている。これによって首都圏の生活の便が損なわれ、ルネサスの
 甲府や高崎の工場は操業できない状態になっている。福島の原発が止まったのが原因と思われて
 いるが、実は関東地方の各地の火力発電所も止まっている事は、あまり知られていないのではない
 だろうか。日本で必要とされる電力は、もともと火力と水力で全て供給可能であり、原発が無いと電
 気が足りなくなると思うとしたら、おそらくそこには誤解があるのではないか。

  震災後の電力不足は、大規模集中型の発電システムへの過度な依存が災害に対して如何に脆い
 かを教えてくれたように思う。これからは、節電だけでなく、太陽光や風力などの再生可能エネルギ
 ーの有効利用や、小規模の発電とコジェネレーションによる熱利用など、従来からずっと言われ続け
 られながら、なかなか利用の進まなかった発電方式への転換を加速させたいと思うし、きっと加速す
 るだろうと思う。4月に予定されている統一地方選挙も、そのような視点から臨みたいと思っている。