9月に、人事評価における相対評価を廃止する旨を会社が伝えてきました。具体的には、相対評価による評価分布を撤廃すると言います。相対評価の問題性については、誰が見てもおかしいと思える理不尽さを、このコーナーでも伝えてきました。しかし相対評価を廃止したら、事態は好転するのでしょうか。新たな問題が発生する可能性はないのでしょうか。今回はこの点を検討してみます。
1.相対評価の評価分布を撤廃するとは
相対評価の評価分布の撤廃とは、要するに、5段階評価の各評価に振り分けられる人数比を固定しないという意味です。現在の制度では、最低の「1」に1割、次に低い「2」は2割という様に、全体の3割の社員が、必ず低い評価になります。この割合を固定しなければ、理屈の上では、「1」や「2」の社員が誰もいなくなる事もあり得ます。また、逆に全員が「1」か「2」になる恐れもあります。
2.どのような評価になるのか
気になるのは、これから私たちにどのような評価が付くのかです。特に、次の3点が気になります。
@査定における人事の直接関与
査定の最終決定は、上司(評価提案者)、上位上司(評価決定者)、それに人事の出席する「評価会議」で行うとされています。評価会議の場において、評価のあり方に人事が直接に指導・干渉することがあれば、査定の傾向に対する人事の影響は、相当強いものになります。
A恣意的なメリハリ付け
仮に、評価「1」に値する者を必ず一定数以上アサインする意図を人事が暗黙に持っていれば、評価分布があらかじめ用意されていなくとも、やはり少なからぬ人数が最低評価を付けられる恐れがあります。
B等級定義書の厳格な適用
等級定義書通りの仕事が出来ているか否かの判断は、元来非常に難しいものです。おそらく、これまでは、同一等級の普通の社員が出来ているレベルを「標準」として、その標準との相対的な比較で、大雑把な判断をせざるを得なかったと言うのが、評価する側の実情ではないでしょうか。
例えば、ある等級の定義に「○○○が常にできていること」という文言があれば、
その等級の普通の社員が出来ているのと同じ程度に、常にできているという解
釈をするのが通常で、決して「常に」=100%とは解釈しなかったと思います。
これが今後、本当に定義書の文言通りに厳格に運用されれば、大半の人が「2」以下を付けられる危険性も相当にあると考えます。
3.どのような対策が考えられるか
現在の人事制度の大きな問題は、評価「1」を2回連続で取ると降格になると言う、非常に厳しい仕組みを内包していることです。つまり「1」とは単なる低い評価ではなく、著しい不利益をともなう尋常ならざる評価と言えます。したがって、そもそも普通に仕事をしている組合員に評価「1」が付くことを、労働組合として認める必要があるのか大いに疑問です。
以上から、労組側として、下記のような提案が考えられます。
@評価結果の分布を提示させる
特に、評価「1」の人数割合の確認は必須です。
A評価会議に労組代表も出席する
労働者の日頃の仕事を一番身近で見ているのは、あくまでも評価提案者である直属上司です。直属上司の評価を、人事や上位上司が覆すのであれば、相応の根拠が必要と解すべきです。評価を確定する過程において、現場を見ていない者からの押し付けや誘導は無いのか、評価分布の人数調整のようなことが行われていないのか等、プロセスの確認も重要です。
B評価「1」ついて個別確認を行う
本人の同意があれば、改めて上司、上位上司に話を聞き、職場の同僚からも業務内容についてヒアリングするなど、評価の妥当性について再確認する場を設けるべきではないでしょうか。
その場合、すでに評価会議に出席している人事に対し、労組幹部がヒアリングして確認すると言うのでは意味が無く、少なくとも本人と直属上司の同席のもとに、評価決定者に対し理由を聞く場であるべきです。
C評価結果をアンケートで確認する
職場、年齢、性別、残業時間等で評価に傾向が出ていないかどうか、チェックが必要でしょう。
Dその他
等級定義書の厳密な運用は、人財公募やジョブローテーション、退職者の穴埋めなどによって新しい業務に従事する者には、不利に働くと考えられます。評価の仕方で、新しい業務へのチャレンジ意欲が損なわれないようにすることも重要と考えます。
4.最後に
相対評価を廃止したのは良いとします。しかし、人数割合を固定した評価分布というのは、評価を付ける側にとっても縛りとなっていました。これが無くなることで、運用の仕方次第では、これまで以上に恣意的で苛烈な評価制度にならないとも限りません。したがって、恣意性に対する監視を、従来以上に強化する必要があると言えます。
また、企業別労組のこだわりどころは、1に雇用、2に賃金です。評価「1」による降格対象者が多数出て賃金水準の大幅低下を招く事態になれば、きわめて問題です。等級定義書の解釈・運用を経営者のフリーハンドにしてしまえば、労働者の賃金は守れません。
そもそも新人事制度で賃下げを認めたのは、人件費100億円の削減が会社存続の条件だったからです。将来100億円を超える削減につながる運用を会社が開始するものと判断できれば、ストライキ権を盾に阻止すべきです。
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